必ずしもベムという訳ではない

印刷

梗 概

必ずしもベムという訳ではない

 俺のことは、村戸リアムとでも呼んでくれ。いや、名乗る名前があるなんてとんでもない贅沢かも知れない。
 受験に失敗し、予備校に通うようになって数ヶ月が経ち、今では巷は今回の史上二回目の東京オリンピックとやらで盛り上がっている。中東の方とアメリカの紛争関係とか、ロシアの出場不可問題などのせいで、一時は中止とさえ噂されていたこの祭典だったが、奇跡的なV字ターン的な熱狂の回復を果たした。その要因は言うまでもなく、今でも東京上空に浮かんでいる異星生命の巨大な宇宙船だ。
 ある日突然、直径十キロほどの不規則な円形をしたそれらが二十七機、高さも位置もばらばらに東京の上空を閉ざしてしまった。攻撃をする訳でもなく、ただそこににあるだけではあったが、日本国中がパニックになり、世界中が様子をうかがった。
 そして数日後、そいつらからのメッセージが流された。
「オリンピックに我々も参加したいです」
 思いもよらぬ申し出に全世界が揺れた。マジかと思い、何でと思い、変なのと受け入れた。日本では彼らの参加の許可が閣議決定され、アメリカの大統領はツイッターで、
「ようこそ、でもアメリカには勝てない」
などとほざいた。
 俺は毎日普通に授業に出て、課題をこなし、いっそこんな星破壊してくれよ、と願っていた。変な宗教が流行り、陰謀論が湧き上がり、実際あちこちでいろんな国やら主張やらで小競り合いが起きたようだったが、あっという間に日常に戻った。ちょっと薄暗いなと思っていたが、宇宙船は透明化してその存在を消すようになったので、人類はとりあえず受け入れたのだ、彼らの存在と要求を。
 で、俺は彼女と出会う。ある夜、奴らの宇宙船の牽引ビーム的なものに捕らえられた彼女の理知的で静かな諦めの表情が忘れられなくなる。
 オリンピックが始まる。
 必ずしもヒューマノイドではないものも参加するので、ハチャハチャになる競技もむろんある。少なくともSW位のずれの異星生命体なので何とかはなるのだ。
 そしてまた彼女と出会う。今度はたとえば公園のベンチに並んで座るほどの距離感だ。彼女が身につけたスマートウォッチを操作すると、誰からも不可視な二人だけの空間に僕らは閉じ込められてしまう。そこで俺は女性とのファーストコンタクトを果たす。髪を撫でたりキスしたり、服を脱がせた記憶はないが、二人の裸の違いを微笑ましく話題にしたりとか、そんな感じ。で、最後、俺は彼女を食べてしまう。心理学の本で読んだことのある、大好きな赤いリンゴ、食べちゃったら無くなった、そんな感じの喪失感。
 気付くと多くの人間が、男も女も同じような喪失感に捕らえられている。侵略と言えばと言えるような喪失感。

文字数:1107

内容に関するアピール

とりあえずモラトリアムから名前をとったのだけど、浪人生ではなく、何かのアスリートの方がいいかもしれない。
パラリンピックまで跨がそうかとも思ったが、保留する。
これはドタバタなギャグにしたい。

要は、グダグダなオリンピック運営がぼろくそな国家のへんちくりんな思惑で正当化されて、史上初の異性生命体も含めたオリンピック開催となるが、それは実は侵略行為であり、生殖行為であり、個体については殺戮とは違うが何かが決定的に破壊されるというような、そんな感じの話です。

文字数:226

課題提出者一覧