梗 概
火祭
九つの星で構成される星団がある。かつては一つの国家だったが、現在ではそれぞれが独立している。地表のほとんどが水田を占める五島では、収穫期の終わりになると水が張られ一面広大な水たまりになる。空が映りこむ景色は五島の代名詞であり、六島以外の住民が訪ねてくる程に美しい。ただ、四島との交流はかつて敵対していた歴史から、年に一度の祭に限られている。祭りでは、五島から四島へ穀物を送る。交換に四島から花火が打ち上げられ、その落とし火を灯台で受け取り火種を得る。五島の島民は火種を分け合い、暖炉や火釜へと移し、生活の糧にする。
五島に暮らすユアナには、四島にパルという秘密の友人がいる。秘密というのは、本来四島と五島の間で祭以外の交流はないからだ。きっかけは、幼いころから任されている「火守」の仕事だった。「火守」とは、祭当日に灯台に登り花火から落とされる火種の着火を確認する役割のことだ。花火は四島から宇宙へ打ち上げられ、軌道修正を掌る衛星を経由して、五島に点在する灯台へ落ちる。ある夜、灯台に小さな火種が落ちていることに気づく。祭以外で火種が落ちてくるなんて。驚いて駆け寄ると、火種が文字列を成していた。けれど、すぐに消えてしまう。何度か同じ現象が続き、文字列は次第に問いとなる。返事のしようがないユアナは、四島、つまり空へ向かって叫んで返してみる。すると、一方的な問いがユアナへの返事へ変わる。返事の主はパルと名乗り、夜な夜な「文通」を交わすようになる。いつか会えたら。ユアナはパルとの邂逅に想いを馳せる。やりとりの中で、ユアナは祭への不満を漏らす。火守の役割があるために祭の日は灯台の一室に籠らなければならない。花火を見られないのは不公平だと。パルからは他の子に頼めばよいと返事が来る。
祭当日、ユアナはパルに促されるまま水田付近の草地へ腰を下ろす。火守は、友人のヨルダンに代わりを頼んだ。四島から花火が打ち上げられ、花開いた火種が五島へ落ちてくる。ユアナは初めて見る花火の迫力に感動を隠せない。しかし、落とし火は灯台へは着火しなかった。ユアナのいる水田付近へ着火し、稲の山が燃え始める。火は瞬く間に燃え広がり、隣接する水田へ引火していく。
ユアナの頭の中で目の前の光景と自分の行動が繋がっていく。火を点けたのは、私だ。落とし火は灯台に落ちるのではなかった。火守を目印にしていた。私は灯台に居なければならなかった。そしてこれを仕組んだのは、パルだ。
理解した瞬間、未だ見ぬ友は、未だ見ぬ敵となった。
水田が燃え広がる中、水田に集っていた島民は逃げ惑う。島民の一人が炎に向かって立ち尽くすユアナの肩を両手で揺さぶるが、一向に動く気配がない。
「逃げろ!攻撃されているぞ!」
逃げ惑う群衆の中で誰かが叫んだ。放心するユアナの瞳に徐々に水が張ってゆく。
「許さない」
決意を帯びた篝火が、ユアナの目に灯るのを見た。
文字数:1196
内容に関するアピール
夏だし。という一文から着想を得ています。
射すような日差し、水を張った田んぼに映る夕焼け、大輪の花火、夜に人々が出歩く姿、熱に浮かされる少女。書きたいのは、夏の風物詩の目映さ、そしてじりじりと大きくなる感情の着火点。
炎が上がる一瞬をクライマックスにして、ちりちりとした火傷のような余韻を残したいです。
文字数:149