目醒めのサイレン

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梗 概

目醒めのサイレン

全国高等学校野球選手権大会二回戦、八日目の第三試合。
九回まで1点のリードを守り抜いてきた群馬代表は、あとアウトひとつという裏の守りで満塁のピンチを迎えていた。
炎天下のマウンド上で汗を拭う投手は、打席に立った埼玉代表の四番打者…双子の兄をじっと見つめる。

出生時間の差は僅か数分だったが、出産が日付を跨いだことで、戸籍上では一日違いで生まれたとされている二人。
幼い頃から同じ白球を追いかけていたが、弟は一度も兄との勝負に勝ったことがなかった。

小学校で野球を始めた頃から、背の高い弟は投手として、器用な兄は打者として頭角を現していた。
実力はほぼ同格と評されていたが、チーム内で紅白戦をする際、弟はここ一番という場面で必ず兄に打たれていた。
小学生の頃は相性を疑い、中学になるとオカルトを疑った。
打たれた日の夜、弟は必ず夢を見た。
それは自分が打たれた状況を丁寧に再現した映像のようで、兄への対抗意識を燃やすには十分なものだった。

兄よりも実力的に優れていることを周囲に認めてもらうため、弟は高校進学を機に他県の強豪校に入学した。
弟は必死に練習を重ねたが、兄のバットによって積み上げられる個人的な連敗記録は、年に何度か行われる練習試合でも止まることなく更新されていった。
それでも決して下を向かず、直向きに、愚直に、ただ前だけを向いて努力を貫いた。

あっという間に三年間が過ぎ、運命の時が訪れた。

甲子園で相対した弟と兄。第一打席では痛烈な二塁打を許し、二打席目は見逃し三振。三打席目は自分から敬遠を申し出た。
そして四打席目。勝敗を分ける大一番の場面で兄との勝負。
怯えた弟の投球はボール先行になり、カウントは3ボール1ストライク。
フルカウントで兄にやられるのだろう、と弟は肌で感じていた。
次の一球、フルスイングした兄の当たりは高々と舞い上がるベンチ前のファウルフライ。
兄に勝ちたい一心で必死にボールを追いかけた弟は、ダイビングキャッチを試みてベンチに激突し、気を失った。

おぼろげな意識の中でたどり着いたのは、人っ子一人いない空っぽの甲子園。
そこにはバッターボックスに立ち、無邪気に笑っている兄がいた。
そして弟は、自分が打たれ続けた理由を知る。
兄は弟と勝負する前日に、決まって一打席分の夢を見ていたのだと言う。
当日の勝負でその通りにバットを振ると、約束されたようにヒットゾーンに飛んだ。
弟は全く同じその夢を、一日遅れで見ていたのだった。
だが、今日に限っては勝手が違った。
兄が前日に見ている夢に、試合中に気を失った弟の意識が割り込んだのだ。
明日は本気の真剣勝負だな。そう言って、兄は屈託なく笑った。

夢から覚めた弟は、審判に無事をアピールして再びマウンドに立つ。
弟の目つきが変わったのを見て、兄は打席で微笑んだ。
フルカウントからの真剣勝負。渾身の力を振り絞って、弟は全力で一球を投じる。

試合終了を告げるサイレンが鳴った。

文字数:1197

内容に関するアピール

初回から愛のムチをふるっていただいたので、梗概とはなんぞやを学ぶべく創作講座の本読んできたんですが…これ梗概になってますかね…笑

小学校から高校まで野球をやっていたので、「あつい」の文字を見て真っ先に浮かんだのが炎天下の甲子園と、一球にかける高校球児達の情熱でした。
それだけじゃSF要素が欠片もないよなと悩んだ結果、苦し紛れに夢の話を絡める結果となりました。勝敗は読み手の想像にお任せしたいです。
結局この夢はなんだったのか、と問われた際に論理的な回答ができないということと、
仮にこの梗概を元にして実作短編を書いた場合、50枚分にはならないだろうなというのが自分の中の反省点です。
今月末、兵庫に夏の大会を観に行ってきます。男子じゃなくて女子の高校硬式野球ですけれども。

文字数:332

課題提出者一覧