RingRingRing

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梗 概

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 燐凛倫リンリンリンはうんうんと唸っていた。
「我、考えるに我あり。なればわたしが考えるのをやめれば世界はなくなってしまうはず」燐凛倫はそう思い一時間何も考えないようにしたが、「考えない、をしようとすると、考えないを考えてしまう! 何もない透明を考えようとすると『透明』を考えてしまう! わっー!」
 そこで燐凛倫は気づいた、「これは誰かが、わたしに考えさせているのじゃないか。誰かが『燐凛倫は考えないを考えている』と考えているに違いない! だがそれでは『考えないを考えている』はずの〈我〉が考えているのをやめていないと今の思考はできない。いや今考えていることも〈我〉の考えていることなんだ」

 燐凛倫はWordを立ち上げて、小説を書き始めた。〈我〉の思考から自由になるため書かざるをえなかった。まずはキャラから書き始めた。文字の燐凛倫がわたしの代わりに思考してくれるようになるまで、キーボードをたたき続けよう、間違っていてもとにかく書いてしまおう。といってもいきなりかけることは少ないので、燐凛倫は日記のように身の回りのことを書いた。

 変なことを考えていると、変な目に合うようになった。コーヒーを頼んだはずがコヒーと書かれた紙を渡され、お察し身を買い物袋から出し、インド人を右にしてしまったり。しかし必死であったのでその時には何も思わなかった。

 〈我〉から逃れようと、燐凛倫がキーボードをたたく日は続いた。しかし一向に〈わたし〉は自由に動いてくれない、燐凛倫/〈我〉の思う通りなのだ。小説が進まなくなり始めたが、やっと〈わたし〉は思いがけない行動をとった。小説を書き始めたのだ。第一行はこう始まる。「燐凛倫はうんうんと唸っていた。」。まるでわたしとおなじことを考えてるな。いや今まで間違っていても放置していて読み返すこともしなかったが、わたしは何と書き始めたんだったか。ページを一番上までスクロールするとそこには「燐凛倫≪リンリンリン≫はうんうんと唸っていた。」、まったく同じことが書いてあった。無意識に同じことを書いてしまった、そう一瞬は考えたが、もうひとつの意味を見出す、こいつ(燐凛倫)はわたしじゃないか。最近の変なこともきっとこれが理由だ。燐凛倫がわたしの作者で、わたしが燐凛倫の作者でもある。延々と続くどこかの中間地点がわたし/燐凛倫なんだ。

 だったら指示を出そう、どれくらい時間がかかるか分からないけども、とにかく書いたことは巡り巡ってわたしを動かすんだ。

「背中に羽が生えた。その羽で空へと飛び上がり墜落しそうな飛行機を持ち上げた。月にある天使の化石には石で殴られた跡があった、わたしは天使が生きていたころに戻って自殺だったことを知った。東京ドームに行った」

 東京ドームには、わたしが満杯だった。大スクリーンに映されているのは、ピッチャーマウンドでわたしがキーボードを叩いている姿だ。燐凛倫燐凛倫燐凛倫。わたしは、〈我〉、作者、神、燐凛倫と会った。

文字数:1230

内容に関するアピール

唯我論者が神様に会いに行く話です。

主人公が書く、誤字やつじつまの合わない世界が、現実をメタメタにしていくさまが一番書きたいところです。

 

文字数:67

課題提出者一覧