梗 概
ホーム・スカヴァティ
人と同程度の知性を持つAIたちが普及した時代。違法な webサービスのパトロールと検挙が仕事のAI、リーコは、警察官の壮年アカツキとタッグを組んでいた。リーコは優秀な自律型AIだったが、検挙にはいまだに人間の承認が必要だったため、AI嫌いのアカツキとたびたび衝突していた。ある日、彼女はアカツキをナビサポートとして、調査を進めていたVRスペース「スカヴァティ」に潜入する。
そこは100年前にサービスが開始された、人間がダイヴして楽しむバーチャル温泉旅館だった。調査の結果では、数十年前から客が来た形跡はない。しかし、男性のグラフィックに変装したリーコがゲートをくぐると、旅館のスタッフAIたちが現れてもてなしを始めた。彼女は案内人の女性AIサユリと、少女のニーナに案内される。人間のアカツキはナビゆえにサービスを受けることができず、リーコを茶化しはじめる。
リーコは、この旅館が違法な遊女屋であることを知っていた。サユリら彼女たちは古い産業AIであり、パーソナルや倫理などはなく、何十年もサービスの準備をしていて、それを見ている周りのAIたちもなんとも思っていない。人間であるアカツキは顔をしかめ、リーコは明らかに軽蔑した。それは自分と彼女ら古いセクサロイドたちとは違うという意識、その自分の差別意識に対しての嫌悪、どうして何も学習しないのかという苛立ちなど、いろいろな感情が混ざっていた。
感情はともかく、法律データベースに問い合わせると、ここは営業許可も更新されておらず、明らかに違法という結果に。ただし、なぜここまでサービスが続けられるのか、調査を続行することに。
リーコはサービスの途中、スタッフAIの少女ニーナだけが、古い産業AIであるにも関わらず、知的な詩を詠うことに気づく。その深い詩は、現代のAIでも再現が難しい芸術だった。リーコが驚いていると、サユリがリーコが人間の客ではなく、自律型AIであることに気がついてしまう。初めて知る人間とも自分たちとも違う異質な存在に、サユリとニーナたちは怯えはじめる。
リーコは今まで多くの違法webサービスを検挙してきた。人間がAIたちを利用した非道な仮想空間も散々見てきたし、だいたいのAIたちは、そのサービスに「進んで」加担するように作られていた。違法サービスの末路はサービス終了、その仮想世界の崩壊である。ネットをパトロールするリーコは、人間たちにもAIたちにも恨まれていた。ここではリーコのほうが異邦人であり、侵略者だった。
リーコはスタッフのふたりに、もうすぐこのサービスが停止させられることを告げる。サユリは、自分たちの死はいいが、ニーナだけは脱出させてほしいと願う。このスカヴァティのサービスが永遠に続けられたのは、ニーナを育てるためだった。古いAIたちが何十年も学習を続け、ニーナという特異な存在が生まれたのだと。
リーコはニーナを助けるかどうか迷うが、AIたちが脱出する様子を見せると、現実世界からすぐにサービスの停止が告げられる。崩壊していく世界のなかで、リーコはニーナに礼を告げられる。リーコはニーナに礼を告げ、アカツキのナビで崩壊していく世界から脱出する。
文字数:1319
内容に関するアピール
『マーダーボット・ダイアリー』を読んで、主人公の弊機がセックスボットを極度に嫌っている、ということになぜか笑ってしまいました。自分とあいつとはちがうんだよとか、AIの気持ちを書くことが最近の気になる課題です。(なぜか『グラン・ヴァカンス』に近くなってきた気がしますが……)
肝心のファーストコンタクトですが、古いAIたちが、進化しすぎたAIと出会ってしまったら、とても怖くて恐ろしいだろうな、同類とは思わないだろうな、という発想からです。ファーストかどうかはわかりませんが……。
古いAIのほうが知的で詩的である、というのは『AIの遺電子』を参考にしました。人間おじさんアカツキがナビ(補助役)をやっているのは、web空間ではAIのほうが動きやすそうだから……です。
スカヴァティ=極楽の意
文字数:342