梗 概
テルミドール、熱月
連合の惑星連絡官リサ・オーガストは、休暇で非加盟の惑星テルミドールを訪れた。楕円軌道の近日点を通過する真夏のみ、限定された地域をリゾート地として開放している異星人の星だ。真夏の彼らは冷却のための金属質の細長いリボンを全身から伸ばしている。滞在先はネイティブ(人型を維持するホモ・サピエンス系列)向けの開放都市サイゴン。実は旧友のエレクトロ(人格のある人工知性体)葉08を探している。葉は連合標準の四年前、この星の前回の夏に滞在して以来行方不明だ。そのまま不法滞在していると思しい。
葉からの最後のメッセージ映像で見た公園で、リサは葉を発見する。再会を喜ぶが、葉の振る舞いはぼんやりし反応が悪い電脳のようだ。葉は美術館を勧め、現地人と約束があると言って店を出て行く。
リサはその美術館を訪れ、彼らの感覚を再現した完全アートを体験する。熱帯の自然を五感で感じると、数秒後によりリアルに迫ってくる。徐々に感覚の二重化、遅延が拡がる。他のテルミドール人との会話もあるが、語ろうとした時、すでに自分が語っていたことに気づく。遅延感覚が引き伸ばされ、行動と経験のギャップが耐え難くなったところで、終了した。
直後、イカロスと名乗る現地人の若者に助けを求められる。困ったまま一緒に美術館を出ると葉が待っていた。三人の安全とプライバシーを確保できるホテルの自室へ戻る。
若者は完全体験の作り手だと言う。そして、連合への亡命を希望した。理由は、冬の全体意識へ統合されたく無いからだという。
イカロスと葉は、リサにテルミドール人の精神構造を教える。意識は身体の反応に遅れて生じるが、夏の彼らは遅延が最大限引き伸ばされる。身体は自律した分散処理で行動していて。その行動は冬が近づいてから初めて意識される。そして冬の冬眠期には身体から遅れた意識が高速で働き、集団の共意識が生まれ、ついに冬季限定の惑星全体の統合意識が生じると言う。夏には個体毎の意識に戻るが、個人の境界は毎回揺らぐ。惑星環境に過剰適応した進化の結果、高度に発達した知性体なのだ。そして葉の電脳も、既にに彼らと同期して交感していた。一度別れたのは、この星の仲間に会っていたためだ。
イカロスは、今の自分に意識は無いが個体として行動に責任は取れると定型文のように語る。葉は二日後の近日点通過には、亡命希望者が宙港に集い大混乱になるので、早く脱出しろと急かす。不法滞在の葉が冬に統合意識と交感した事が亡命希望者を生んだと、仲間の言葉を葉は信じている。
統合による高度な知性体の一部となる道を選択する葉と、惑星に依存しない個としての生を求めるイカロス。各々の未来を信じたリサは、葉と別れイカロスと共に帰ると決断。宙港へ向かう。炎熱の中、数万人のテルミドール人に囲まれた宙港の混乱を乗り越え、リサは連絡官特権でイカロスの出国を認めさせる。
二人を乗せたシャトルは、宙港から飛び立つ。
文字数:1199
内容に関するアピール
夏が久しぶりにやってくるとか、常夏であるとか、特異な環境の惑星を訪問して我々とは異質な生態系や文化に出会うタイプの、古典的な設定を用いて物語を作りたいと考えました。ただし、そこで出会うのは、意識の問題です。意識が行動の後から生じるとして、そのタイムラグが明らかに分かるくらい遅延したらどういうことが起こりうるかと言うことを、意識と身体の繋がりが我々とは異なる異星人の秘密を探ることで、考えてみました。
暑すぎたら、意識も飛ぶんじゃない? というだけかもしれませんが。
梗概では説明すべき点が多く異星の描写には及びませんでしたが、実作では、金属リボンのヒートシンクで体を冷やしているテルミドール人達が意識なくうごめく、熱帯の夏を描きたいと思います。
文字数:321
テルミドール
変化を恐れるな、夏と冬を繰り返す軌道の外にも道はある。
1
真夏の暦を家名に持つ惑星連絡官のリサ・オーガストは、惑星テルミドールを訪れるために標準時間で二ヶ月の休暇をとっていた。連合を構成する部族が、いつでも訪問できる星ではない。楕円軌道の近日点を通過する真夏のみに、限定されたリゾート地だけを開放している、連合と接触してから百年足らずの非加盟の異星人の星だ。
恒星間クルーズ船による往路は、二ヶ月の休暇のうちの十日を要した。一人旅のリサにとっては読書に集中できたものの暇を持て余し気味の日々だったが、家族や恋人と未知の星で過ごそうという人々にとっては、ちょうどよくデザインされた旅程らしい。その旅もそろそろ終わりだ。クルーズ船はテルミドール衛星軌道上のステーションに接続した。乗客はステーションには寄らず、クルーズ船が格納するシャトルに乗り換える。地上の宇宙港へはあと少しだ。クルーズ船所有のシャトルの、それも一等船客用らしくゆったりしたコンパートメントに落ち着くと、シートをリクライニングさせて寛ぐ。微かな加速で、シャトルがクルーズ船を離れて衛星軌道に移るのが分かった。瞼の裏にあらためて惑星ガイドブックの情報を映し出す。
テルミドール:
連合非加盟。座標非公開。λ9星系の複数の惑星の一つ。楕円軌道の近日点と遠日点の差が大きく、極端な楕円軌道を描いているとされる。公転周期は四年六ヶ月。ヒューマノイド形態の知的生命体テルミドール人が生息している。テルミドール人と連合の間ではインターフェース・プロトコルX三一〇八が連合標準暦一二〇九年に発行され、一定量の貿易と条件付き人的交流が行われている。人的交流は連合からの入国のみ。交流当初つまり一二〇〇年のファースト・コンタクトにおいて連合星域を訪れた使節団、通称「N人の使節団」以降、連合を訪れたテルミドール人はいない。滞在可能な地域と時期はX三一〇八によって制限されている。滞在可能期間は近日点最接近前後の百日、熱月の期間のみであり、開放都市として認められた三都市および宇宙港バスティーユに滞在可能である。開放都市となる三都市は、ネイティブ部族向けリゾート地のサイゴン、ルアンパパーン、サラマンダー部族向け湖沼都市トレンサップ。
正面の壁を見つめると、全面がディスプレイになってシャトルのカメラが捉えたリアルタイムの惑星の姿が表示される。正面だけの四角い映像が、やがて壁、天井、三六〇度全てを囲むようになった。ネイティブ部族と共存できる異星人の星らしい、水の惑星だ。衛星軌道上を昼の側から夜の側へ入ると、人工的な光はほとんど見えない。時折、長い雷光が輝き、極地にはオーロラの帯が広がっている。近日点通過は間近だ。惑星の空も陸も、太陽の影響を最も受ける季節である。
再び昼の側が巡ってくると、Gが増し、体がシートに柔らかく拘束された。着陸態勢だ。正面の映像に、赤道直下の小大陸が映し出される。連合に開放されている三都市と宇宙港は、すべてこの大陸にある。
リサの身体に耐えられない高Gや衝撃があるわけではない。それでも体は緊張でこわばる。着陸までのわずかな時間、リサは瞼を閉じ呼吸を整えて着陸を待った。いくら繰り返しても慣れないというより、この時間が自分にとって異星に降り立つことの儀式になっている。
検疫チェックを兼ねたエアロックを一人づつくぐり抜けると、蒸した空気がリサを包んだ。体温を調節しようと、汗が吹き出る。宙港の中にいるのは、連合の、しかもネイティブがほとんどなのだが、自分たちに合わせた空調は無いらしい。現地時間で、まだ朝早いというのに、日中はどれほど気温が上がるのだろうか。スーツケースがリサを見つけて追いかけてくるのに合流すると、惑星連絡官特権で入国管理を優先的かつ手短に済ませ通過する。専用ゲートの管理官はテルミドール人ではなく、ネイティブだった。そう言えば、宙港の中で見かけたのは、ネイティブか人型や小型球形のエレクトロばかりだ。ゲートを出て、法的にもテルミドールの領域に入ると、自分を待っているらしいリムジンからのメッセージが床に表示される。その案内に従って宙港の外へ出ると、運転手付きのリムジンが待っていた。運転手はエレクトロだ。
荷物を任せて席に着くと、人型のボディに向かって尋ねた。
「宙港にテルミドール人はいないの? 見かけるのは、私たちの同類ばかりなのだけど」
「トレンサップという開放都市にやってくるサラマンダーもいますよ。旅行者だけでなく、彼らのための宙港職員も。数は少ないですけどね」
「どちらにしても連合のトライブじゃない。ここは、テルミドール人の惑星でしょう?」
「彼らが、星の外に出ることはありませんから。夏の間の開放期間だけの宙港です。職員も、開放期間だけ滞在する連合のエレクトロやネイティブが中心ですね」
「それじゃあ、サイゴンの街に着くまでは彼らには会えないのか」
「いえ、見るだけならば、外をご覧ください」
動き出したリムジンが走る車道の、フェンスの外にいくつものテントが見えた。空港の周りに、よく見れば千以上のテントが連なっている。
「開放期間が始まった頃には見かけなかったのですが、徐々に増えてきましたね。私は今年初めてこの星に来たんですが、前から来ていたものに聞くと今回が初めてだそうです。理由は、分かっていません。彼らの中に連合に対して説明する気のあるものがいないようで。空港の外は彼らの領土ですし、何も問題は起きていないので、空港では特に何もせずです。
ほら、左手をご覧なさい……!」
運転手の言葉に従って席を左に動くと、リサは遠くを見た。テントに囲まれたちょっとした広場があり、人々が集まり動いている。テルミドール人だ。リサはコンタクトのズームを最大にして、彼らを見つめた。
頭部があり、胴体があり、二本の腕と脚を持つ体。それは地球土着の民すなわち地球に出自を持つ、ヒューマノイド形態を保っている人間と同様だ。細身で、今は比較するものがないので実感できないもののネイティブの平均より長身と言われる身体が、金属的な黒色に輝いている。皮膚ではなく、毛でもない。両腕、両脚、背面、そして頭部を覆うのは細長い金属質のリボンだ。彼らのゆっくりと揺れるような動きに合わせ、陽光を乱反射している。
広場に群れているのは、若者の集団のように見えた。ほんとうのところは分からないが、遠くからでも感じる活気のためだろうか。揺れる身体のうごきはまとまりが無いようで、規則的でもあり、きっと踊っているのだろう。音は車内では聴こえない。どんなリズムで、どんな音色なのだろうか。
雌雄があるはずだが、どの個体がどちらなのか、遠目には区別がつかない。人間的な女らしさ男らしさを当て嵌めて良いのかも知らなかった。リゾート地としてのテルミドールは知る人ぞ知る場所として、非加盟惑星なりに旅行者のための情報はあるのだが、そこに生きる知性体とその生態、文化については情報が乏しく、事前に学習することほとんどできなかった。惑星連絡官のアクセス権限でも、その星でのミッションが無ければ、得られる情報は民間のライブラリと変わりがなかった。
スローテンポから一転して、早く、激しく踊る、飛び跳ねる。彼らの姿は、リムジンが進むにつれて、後方に遠ざかりやがて見えなくなった。サイゴンに着いたら、かれらの音楽を聴きたい、踊りを間近で見たい、と思う。
「ところでお客さま」
眼も意識も遠くに焦点を当てていたリサは、運転手の呼びかけで車内に引き戻された。
「お客様は、リサ・オーガストさま御本人でいらっしゃいますでしょうか?」
「あらためて認証でも必要なの?」
「いえ。リサ・オーガストさまであれば、ちょうど今受け取ったメッセージがございます」
運転手はリサの返答を待たずに、メッセージを電子的に投げてきた。それを開こうとする一瞬に認証プロセスが自動的に処理され、自分宛の、テキストだけのシンプルなメッセージが、網膜に表示された。
ようこそ、テルミドールへ 葉
サイゴンのホテルに到着するまでの一時間、リサは無言だった。
2
リムジンはサイゴンの市街地に入り、ほどなくして海沿いの大通りに面した白亜のホテルに到着した。ホテル・サイゴン。ネイティブ向けに建てられた、市内でもっとも格式のあるホテルである。
空港と違って、ドアマンもフロントもボーイもテルミドール人だ。やはり、リサよりも長身で、それでいて体躯は細い。接客の役割に見合った選択なのだろうか、シンプルなデザインで、しかし手の込んだ表面加工の施された装飾品を腕と胸と頭部につけている。頭部から背中にかけて生える金属質のリボンは、館内の微風に吹かれてそよいでいる。その薄さ軽さのためで、外見的には涼しそうに見える。
チェックインを済ませ、予約済みのスイートに落ち着いた。窓の外はベランダ、その先に海が広がる。
葉……人工知性種族エレクトロ・トライブの独立構成体であるエレクトロ葉08は、リサが惑星連絡官になるよりも前、学生時代からの友人だ。友人という言葉が適切なのか、エレクトロとネイティブの間に生じる感情を友情と呼んで良いのか、他の友人たちや恋人の意見は様々だったが、今では、オーガスト家で大人しくしていた頃の自分を知る数少ない知己だ。
その葉08がテルミドールへ旅立ったのは五年前、この星が前回の夏を迎える頃だった。リサの前から姿を消して半年後、一枚の画像と簡単なメッセージだけを送ってきてテルミドールにいると分かった。そして、それきり消息を絶ってしまったのだ。連合星域に帰還するには、連合航海局が独占運航する客船か輸送船など限定された手段しかない。それらの船のテルミドール発の便の乗船記録を調べても葉の記録は無かった。つまり、生きているのであればテルミドールに今もいる可能性が高い。しかし、真夏の百日間を過ぎた滞在は、例外なく禁止されている星だ。もしも葉がまだそこにいるならば、プロトコルに反した不法滞在である。それは、個人的に行方が心配なだけでは無く、惑星連絡官としては看過できない状況でもあった。
惑星連絡官の職務は、惑星間あるいは文明間の利害衝突が生じる最前線の現場における、実務面の調整にある。星間条約やプロトコルが発行されれば、すべてが批准され不幸も対立も無くなるというわけではない。部族間の環境的、経済的、文化的、情報的利害を現実的に調整するという、政治家や大使や司令官にはできない事を為すのが、その存在意義である。
汚れ仕事を押し付けられているだけではないかと、特にオーガスト家に縁のある者からは批判的に言われることもあったが、リサ自身は意に介さず、職務に誇りを持っていたし、何より自分の性に合っていると感じていた。
連合非加盟の惑星への滞在制限は、その星の文明や生態系の保護を目的とすることが多い。テルミドールにおいても同様であろうとリサは推測していた。転移座標非公開という情報管理は航海局や通商部による権益の独占という側面があるにせよ、惑星への不法侵入を徹底して排除することが本来の目的だ。不法滞在者がいることが、どのような影響を与えるのかによるが、外交問題になり得る可能性もある。
プライベートに知り得た情報で連絡官事務局を動かしたくはなかったし、何より、葉が今何を考えているのか、会って、個人的に話をしたいと思った。
その身を隠している相手であれば簡単に接触できることは無いだろう、そう考えて、最大限の休暇を取ったのだった。しかし、到着と同時に向こうから接触してくるのであれば再会も解決も早いかもしれない。
コンタクトに、最後のメッセージの画像を呼び出す。五本指の左手が、甲を向けてアップに映っている。ガラス質の透明な素材の中を金銀の細い骨格や電子回路が走り、その向こうには街の風景が歪んで透けている。広場のような空間とその先に並ぶ三階から五階建てくらいの建物。腕には見覚えのあるブレスレット。それで、葉本人なのだろうと分かる。葉は人の似姿に作られたエレクトロの典型的な身体を持っていたから、身体以外の情報が無ければ個体の特定は難しい。本人の言葉によれば、ネイティブの社会に溶け込めるように生産された既製品の一体ということだった。
メッセージも表示する。
この星にいる。戻ることはないだろう
テキストのみ、装飾なし、音声無し。送信元のアドレスは惑星テルミドール、サイゴン。
サイゴンの中心部、旅行者が訪れるようなエリアは狭い。ホテル・サイゴンのある大通りを街の端から端まで歩いたとしてほぼ南北に一時間。直行する通りを東へ、つまり陸地のほうへ歩いてやはり一時間程度。まずは、その徒歩一時間四方の範囲を探すことにした。
葉の手の向こうに映っていた街並みを補正した画像をホテルの自室で作成し、ツーリスト・インフォメーションで検索する。連合星域の文明圏のように地理データ連動の映像が公開されているわけではない。一致するデータは無いものの、ここと思える広場は見つかった。マーケットや繁華街も近い、旧市街広場だ。百年前に作られた旧市街。
日陰を選びながら、歩いて移動することにした。商店街、レストラン、食料品の市場。地元民も旅行者も行き交う雑踏の人の流れに身を任せつつ、喧騒を楽しむ。惑星連絡官としてさまざまな惑星の都市を訪れてきたが、治安や衛生上の問題がない限り、自分の足で歩き、その土地に触れるようにしている。連絡官の職場が利害衝突の最前線といっても、実際には自分から意識的に行動しないと大使館や役所、軍事拠点を連れまわされるだけになりかねない。休暇でもなんでも、その行動パターンは変わらない。
広場に着けば、そこは葉が撮影した場所だとすぐに分かった。一周して写っていた建物を見つけ、撮影された場所も特定する。
きっとここに座って撮影していたのだろうと思われる場所に、ベンチがあった。今は誰も座っていない。
風もなく蒸し暑い空気の中、リサはその場にしばらく立ち尽くしていた。真夏の百日だけが開放される惑星テルミドールの公転周期は、連合標準時間で四年半。
ようやく、この場所に辿りついた。
それから二百時間。テルミドールの自転周期に体を慣らし、暑さの回避も兼ねた一日二回の睡眠サイクルで六日ほどを過ごしたが、葉との接触は叶わなかった。毎日、昼と夜に広場を訪れ、周辺のカフェやレストランで食事を取り、店に集まるテルミドール人たちに話しかける。その合間に、市役所や博物館や劇場、他の広場や公園、さらにビーチにも足を伸ばし、ホテルに戻ってプールサイドで次の作戦を考えてはベッドに倒れこむように熟睡する。
もともと時間がかかるものだと考えていたので想定通りではあるのだが、到着と同時にメッセージを受け取っていただけに焦りが募っていた。
昼寝から目覚めてシャワーを浴びる。今日はどこの店に入るかなどと考えるが、ルーティンワークと化しているだけで何も展望が見えない。
部屋に戻ると、備え付けの端末にメッセージが入っていた。
いつもの広場で
陽も完全に落ち、気温も下がり夜風がかすかにあって心地よい。葉が座っていたはずのベンチに座って空を見上げると、夜空に星々の輝きが眩しい。
背後に近づく足音が石畳に響き、振り返る前に声が聞こえた。
「せっかくリゾート惑星に長期滞在するのなら、もっと色々なところへ行って楽しめばいいのに」
「他に、どこへ行けばいいのか知らないの。お勧めがあったら教えて」
「丘の上の美術館に行くといい。リサにお勧めのものが、いや、絶対に体験してほしいものがあるから」
リサが振り返ると、テルミドール人のような風貌の、つまり金属質のリボンに包まれた人型のエレクトロが立っていた。街灯の黄色い光が、全身に反射している。
「五年ぶりに再会したのにに、昨日の続きみたいに言うのね。その格好はこの星で改造したの?」
「過去のいつの時点からだって、その時点の記憶を再生すれば続けることはできる。テルミドール人の似姿でいた方がこの星で生きていくには都合が良いし、このヒートシンク……リボンのことだけど、放熱に優れていて、身体への負荷も下がる」
「この星にずっと滞在していた、と理解していいのね。連合のあらゆる部族は……」
「連合のあらゆる部族は、開放期間を除いてテルミドールの滞在を許されていない、それはもちろん承知している。連絡官が見過ごせない不法滞在だろうね。理由を一から説明しても簡単に理解してはもらえないだろう。
開放期間の美術館は深夜まで開館している。その後でまた会う」
一方的に五年ぶりの再会を終わらせて、エレクトロ葉08は広場から立ち去った。ネイティブの相手ができるように人型に造られたエレクトロという割に、人間的な対応が不得手な葉。こういう時に追いかけても意味がないのは、リサにはよく分かっていた。
3
丘の上の美術館は、テルミドール人の独自性が発揮されたと思われる、連合星域では見慣れないデザインだった。ネイティブの文化に合わせた熱帯リゾート様式の市街地の建築と異なり、金属結晶と有機生命の複雑さを混淆させた装飾とシンプルな機能性とが融合した建造物である。
美術館の中に入れば、夜もまだ息苦しい外気の暑さと湿気、人々の群れる音と匂いから隔離される。涼しく、静かで、薄暗い。館内にはテルミドール人もネイティブもまばらにいて、ゆっくりと各々のペースで鑑賞している。
四角いキャンバスに描かれているのは、テルミドールの自然や開放都市近辺の風景、ファーストコンタクトの歴史的場面などだった。〈使節団・Ⅱ〉とタイトルが書かれている、テルミドール人のグループと、数体のエレクトロ、気密服に身を包んだままのネイティブ、さらにいくつかの異星種族が対面している大きな絵画の迫力が特に目立って、皆がその前で立ち止まる。
油絵が飾られている。このような地球土着の民の文化に由来する表現技法は、テルミドール人の芸術文化に最初からあったものなのだろうか。リサは表現の基本のところに疑問を持った。そもそも、テルミドール人の可視光領域は分かっていない、少なくとも惑星連絡官が職務外でアクセスできる範囲のオープンな情報では無かった。どちらにしろ、全く同一ということも、電磁波を捉える視覚細胞のつくりが同一ということも、おそらくないだろう。だとすれば、人間の眼で見て色鮮やかな表現だと思える絵は、地球人向けに描かれたものなのだろうか?
あくまで、開放都市向け、観光客向けの美術というわけだ。
建物の外観から、彼ら独自の文化との出会いを期待したリサは、残念な気持ちとともに、葉はここで何を見せたかったのかを考えながら順路に沿って鑑賞を続けた。
階段を下りて、地階に行くとネイティブの観光客が十人ほど並んでいるのが見えた。最後尾に立つ人に何の行列かと尋ねる。
「彼らのことを体験できるようです。〈テルミドール・エクスペリエンス〉ってあるでしょう。今日から、始まったそうです」
次の部屋への入り口に、タイトルと解説の文章が書かれたパネルが掲げられていた。この都市を訪れるネイティブに、テルミドール人の感覚を疑似体験させるアトラクションらしい。一人ひとりがシェルに入って、視覚、聴覚、嗅覚、触覚、味覚、そのほか全ての感覚を疑似体験できると書かれている。
「どのくらい、本物の体験に近いのでしょうか」
「さあ。所詮はリゾート地のアトラクションという気持ちもありますが、昼間訪れた方に話を聞いたら、けっこう評判は良かったですね。なんだか分からないって声も聞きましたが、異星人の感覚ですからあまりリアルに再現されていれば、それだけ私たちには分からないものになっているかもしれません。彼らの皮膚というのか、あのリボンも分厚そうな外皮も私たちトライブとは違うじゃないですか。そういうものが実体験できたら面白いでしょうね」
話している間に行列は着実に前へ進み、前の旅行者が、ついでリサが部屋の中に入った。照明を落とした広い空間に同心円状にドアが並んでいる。床に光る矢印に案内された部屋に近づきドアに手を当てると、ゆっくりとスライドする。中にはテルミドール人のインストラクターが一人いて挨拶される。
「〈エクスペリエンス〉へようこそ。こちらでは、服を脱いでシェルの中に入っていただきます。シェルの中は体験用ナノマシンを含有するジェル・ウォーターに満たされ、ナノマシンはお客様の毛細血管の中まで浸透しますが、終了後にはナノマシンの一体も体内には残りませんのでご安心ください」
「ちょっと、そんな大掛かりな話って……」
「と、いう名目になっているアトラクションと思って、お楽しみいただければ幸いです。別段、マシントラブルも体の不調を訴えられた方もおりませんのでご安心を。私は操作室の方におりますので、そちらの部屋で服を脱いでいただき、そのままシェルに入ってください。」
インストラクターは気楽に微笑んで操作室に入っていったが、真偽のほどが分からない。
更衣室とシェルに繋がるドアを開けると壁にはアーティストのサイン、そしてX三一〇八とネイティブ・トライブ医療局の正式な認証が掲げられていた。コードをコンタクトでスキャンして照合したところ本物らしい。スペックは最上級。何が、アトラクションと思ってだ。本物のエクスペリエンスで、連合星域でのエンターテイメントでも、滅多に無い本格派だ。これなら安全性は保障されていると言えるので、安心して楽しむことにする。それに、葉が見せたかったのは、これかもしれない。
服を脱いでシェルに入ると、オペーレーターの声が聞こえてきた。
「これからジェル・ウォーターを注ぎます。良い旅を」
目覚めると、森だった。土と樹木の匂い。背中を大木の幹に預けて、森の中に立っている。空気は湿って、暑い。テルミドールの大地に根を張り動かない生物を、植物と呼んで正しかったろうかなどと思い浮かべるが、背中の幹の感触も、枝別れするようすも生い茂る葉も、地球原産の、ネイティブ生存圏の星の植物と変わらぬように感じる。
ここは、真夏のテルミドール、熱月の熱帯地域だろうか。近日点通過の百日間は開放されているといっても、都市を離れた森林地帯には未知の世界だ。
離れたところから、声が聞こえる。音声としては聞き慣れないテルミドール語で何を言っているかまったく分からないのだが、それを聞いた脳がネイティブ・ランゲージを理解するように自然に理解する。これがすべて〈エクスペリエンス〉の技術なら、連合星域内にもなかなか無い技術だ。軍事レベルでの研究はあるかもしれないが、アートやアトラクションのような街で接するものにこのレベルのものは無いだろう。
「こっちに湖があるよ」
リサが体験している主観人物は、声のする方へまっすぐ歩いていく。靴が地面を踏む感触、枝を折り硬い石に乗りぬかるみに足を取られる感触すべてが自分が歩いているかのように感じられる。足の骨格がネイティブとは異なることも、靴の中で、足の指が六本あることも気づく。
森が開け、湖が目の前に現れた。風がかすかに吹いている。頭部とむき出しの両腕、両脚に伸びる薄いリボンが風を捉え、熱を逃がす。熱月の空気によって上昇した体温が下がっていくのが分かる。ヒートシンクと、葉が呼んでいたことを思い出す。
湖の岸辺は小石の遠浅になっていて、声を掛けた仲間たちが腰まで浸かって遊んでいる。リサは自分も湖に入ろうと考え、靴を脱ぎ、素足になった。ネイティブとは異なる、六本指の足。この〈エクスペリエンス〉に、行動の選択肢はあるのだろうかと考える。これほどに精巧に作られた仮想空間を自由に行動できるとなったら、膨大なリソースが背後に必要なはずだ。それは世界を丸ごと収めることと等しいように感じた。今……湖に入りたくない、森に帰りたいと考えたらどうなるだろう。そこで、ゲーム終了か、それとも森に引き返す経験が用意されているか。
リサは、自分も湖に入ろうと考え、靴を脱ぎ、素足になった。
間違いなく、自分の意思で。この〈エクスペリエンス〉の中では、用意されたストーリーに従っていても、自分の意思で選択したと考えられるようになっているらしい。
リサは、仲間たちを追って、湖へ素足を入れ……次の瞬間、足が湖から引き上げられた。冷たい! 足を出そう! そう意思した。リサの意識が命じた通りに、足は、湖から引き上げられた。意思するより早く、何秒も早く、それは覚えている。でもそれは、自分の意思なのだ。
それからしばらくは、行動と意識の逆転が続いた。仲間たちのところまでゆっくりと進み、声を掛け、声を掛けられる。会話の応酬。そして、すでに終わっていると分かっているのに、今、相手の言葉を聞いて自分の意思でそれに答える。やがて、自分の意思で行動したと感じるタイミングに生じた感覚のみが続き、それより前に起きたことは起きなくなった。
冷静に体験を俯瞰しているリサの意識が、現象を理解しようとする。脳裏に閃くものはあるのだが、次々と自分に入ってくる〈エクスペリエンス〉の刺激で感じるのも考えるのも自分の許容範囲を超えていて、それ以上には考えがまとまらない。自分の意思で行動を選択したという意識すら与えられる中で、他のことを考えられるものではない。
やがて、時間の経過が早回しされ、場面転換する。昼夜がなんども入れ替わり、外気が冷えていくのを感じる。実際の気候は熱月を過ぎてもしばらくは暑いが、やがて長い秋と冬がやってくるはずだ。開放以外の期間についても体験させてくれるのだろうか。
期待していると、暗闇のまま何も変化が起きなくなった。ただただ寒い。寒さに震えながら夏の記憶を反芻していると、そこに新しい記憶が紛れ込んできた。それは、湖で一緒に遊んんだ、他のテルミドール人の視点からの映像であったり、語り合ったことの別の視点からの解釈や感情だった。それらの記憶も早回しの再生のように流れてゆき、個々の現象は追えなくなるが、ただ、お互いの記憶、感情が重なり、一つの人格を持つ何かとしてまとめられる感覚があった。
さらに、暗闇から微かに光が感じられるようになり、体感温度も上昇する。そうすると、元々の自分を超えた一つの何かから、自分の意識が分離していく感覚、境界線が生じてその内側が一つの存在なのだという感覚だ。
春の暖かさに包まれていると、遠くで人工的な終了の声が聞こえる。静かに〈エクスペリエンス〉のアトラクションは終わった。
4
エクスペリエンスが終わり、リサは放心していた。ジェル・ウォーターの中の体験は夢を見ているようでもあったが、シェルから出て全身を乾かしているあいだも、すべてを鮮明に覚えていた。
服を身につけて反対側の更衣室から出ると、さきほどのインストラクターが待っていた。
「興味深い体験だったわ」
「分かりますか……何を体験したのか、理解できたでしょうか」
「理解できたのかどうか、なんとも言えない。あなたたちの内面? 意識?
あなたたちのあり方を表しているのだろうけど。そもそも、そのあり方が違う私たち向けに、自分たちを経験させようというのが、野心的な試みね」
無謀な試みとは言わなかった。
「どれだけの技術と時間と人手が必要なのか、ということはなんとなく分かる。私たちの世界で通常体験できるエクスペリエンスよりも、はるかの高度で手がかかっているから。あなたが、製作の中心?」
「いいえ、私が一人で作ったものです。ほぼすべて。そのための機材は揃っていますし、アシスタントなどはいますが。
ところで、リサ・オーガストさん」
「ネイティブ・トライブとの会話では、自分の名を先に名乗るが礼儀と知っておいた方が良いわ。あなたたちの一人ひとりに名前があるのなら」
「教えてくださり、ありがとう。ネイティブ向けに名乗っている名は、イカロスと言います。私たちにもあなたたちと同様に一人ひとりを区別する名前がありますよ。夏の間は。
それよりも、あなたに頼みたいことがあります」
「旅行者への現地人の頼みと言えば、高いお土産を買ってくれってくらいしか思い当たらないけど」
「代金は頂きませんが、ある意味当たっています。そして、あなたはただの旅行者ではありませんね。惑星連絡官のリサ・オーガストさん。頼みたいのは、私自身です。この星から出たい。あなたが帰るのと一緒に、連れていってほしいのです。連合星域への亡命を希望します」
突然の申し出に、頭の整理が追いつかない。美術館の片隅で話し続ける話題でないのは間違いない。しかし、無視すべき申し出でも無い。
「あなた……イカロス、ここを離れても大丈夫?」
「もう、閉館の時間ですから。あなたが最後です」
美術館を出ると、玄関から少し離れた場所に葉が待っていた。
「体験というのは、意識が何をどのように認識するかということ。テルミドール人の意識について、分かってもらうにはイカロスの〈エクスペリエンス〉を体験してもらうのが最適だった」
「それよりも、葉、あなたはこのテルミドール人が何を求めているか、承知しているわね?」
「私のテルミドール滞在がプロトコルに反した不法滞在だというならば、イカロスが望むこの星からの脱出もプロトコル違反。願望を実行に変えるためには、警察の目に触れない安全な場所が必要。本人だけでなく、支援するものにとっても」
テルミドールの社会にも警察に相当する組織はある。開放都市においても同じだ。街中の治安維持は警察組織あってものだ。
「安全な場所って」
「ホテル・サイゴン」
5
他の惑星からの訪問者が独占するエリア、実質的にその星の住人が入れないエリアの存在は、辺境惑星などに顕著に見られる。部族の違いを差別的に扱う文化や法律の縛りがなくても、身分や経済力によっていくらでも壁を作ることはできる。バスティーユ宇宙港がまさしくそうだった。そして、サイゴン市内でもっともテルミドール人を締め出しているのは他でもない、ホテル・サイゴンである。
ホテル・サイゴンは実質的に治外法権だ。従業員以外にテルミドール人はいない。宿泊はほぼ支払い不可能な金額・通貨設定で、惑星間会議やパーティなど招待されたものがそれらのフロアに来ることができるだけだ。明らかな殺人や重火器の使用が無ければ、警察は介入することができない。
美術館のある丘から、ホテル・サイゴンまでは車ならば十分程度だ。玄関前には無人タクシーが止まっている。空港のリムジンと違って、エレクトロの運転手がいない自動運転だけの安価な交通手段だ。三人が乗り込むと、タクシーが行き先を尋ねる。葉は声には出さず、エレクトロと電子機器の間の通信で行き先を告げる。何を告げられたか分からないのが不満で、リサは声に出してホテルへ行くように命じる。二人の要求に矛盾がないのだろう、無人タクシーは何も音声では応えずにそのまま動き出した。
「葉は私に美術館へ行けと言った。そして〈テルミドール・エクスペリエンス〉は今日からオープンだった。つまり、葉はこれを待っていて今日まで連絡してこなかった。この理解で正しい?」
「正しい。製作に時間がかかる高度なアートだから。開放期間が始まる時に完成できればよかったのだけど、イカロスの才能があっても、予定通りにはいかない」
「私がテルミドールを訪れる保証はなかったし、訪れたとして、百日の開放期間のいつ来るかも不明でしょう。計画的なようで、基本的なところが運任せとしか思えない」
「賭けといえば賭けだけれど、いくつかのオプションの一つと言えなくもない。ただ、リサがテルミドールに来てくれるのが、一番やりやすい。ホテルに着く。続きは中で話そう」
海沿いの大通りを走るタクシーは、速度を落としホテル・サイゴンに入る。深夜も玄関にはドアマンが立ち、三人を迎える。イカロスを見て驚いたようだが、ネイティブの客が連れてきたテルミドール人ならば問題なしということか、特に咎められたりはしなかった。
惑星連絡官のチームが泊まるホテルで、誰かの一室が非公式の作戦司令室になることはよくあったが、休暇で同じ状況を迎えるつもりはなかった。そのためのスイートでは無いのだが。
イカロスと葉を各々ソファに座らせるが、リサは立ったままだ。自分だけが、まだ全貌を理解しておらず、利用されようとしている。まったく納得いかない状況だった。
「二人の要求を確認するところから始めましょうか。イカロス、あなたはテルミドールを離れ、連合星域へ行きたいという。亡命、とまで言ったわね」
「その通りです。なぜなら……」
「理由は、順番に訊くから待って。連合とテルミドールの間では認められていないテルミドール人の連合星域への出国。亡命申請を伴ってでも。それから葉、あなたの要求は」
「要求は二つある。一つはテルミドール人イカロスの連合星域への亡命と亡命後の支援。もう一つは、私のテルミドールの滞在の無期限延長。もっとも、これは連合に了解を得る話でもない。テルミドール人が認めるかどうかの話だ」
「二人の要求は分かった。ではイカロス、あなたがテルミドールを離れたい理由を説明して。ネイティブ・トライブにも理解できるようにお願い」
「はい。あなたたちネイティブには意識がある。その意識は脳の中に生じる。〈テルミドール・エクスペリエンス〉は、その脳に働きかけて、テルミドール人の精神構造つまり意識のあり方を実感してもらうためのものです。わたしは夏の間だけやってくる旅行者の方々とみなさんの背後にある文化、知識を独学で学びました。さらに、前サイクルからテルミドールに留まった葉から学んだものも大きい。
まず意識は、実際に何か外部の刺激を受けた後で、そして何かの行為を実行しようと意識の外で決められた後に発生すします。先に意識があって、行動があるのではない。これはいいですね。ネイティブの世界で自明のことです。しかしあなたたちは実生活の中で、そのことを突き詰めて考えることはあまり無いようですね。
わたしの想像では、それはあなたたちにとって意識が不変のものでありそれこそ、意識しないで済むものだからではないかと思っています。しかし、わたしたちは違う」
「違う、ということは意識は不変のものではないの? 」
「ええ。今、この星は熱月。真夏の季節ですね、明日には近日点を通過します。連合の部族がこの星に入れるのは、熱月の百日間のみ。この星は極端な楕円軌道を取っているので、この後は恒星から遠ざかっていきます。やがて冬が来ます。夏の森から秋、冬、そして春へと季節が移り変わるのをリサには経験していただいた。意識の変化とともに」
暗闇のまま何も変化が起きなくなった。ただただ寒い。寒さに震えながら夏の記憶を記憶を反芻していると、そこに……
「意識の変化を経験させてもらった気はするけれど、一度の〈エクスペリエンス〉で解説抜きに理解するのは無理よ。それよりもまずは、夏の意識ね。意識は後から生じる、そうあなたは言ったけれど」
「そうです。意識的に何かを決める前に、それより早く行為に向けた準備が脳の中では終わっている。そしてあたかも、意識的に何かを決めたかのように自分の行為を追い掛けることができる。もっとも意識の発生が後からといってもその時間差は〇.三五秒、そして行為は意識からさらに〇.二秒も後のことです。だから、矛盾を感じずに済む。あなたたちの意識はいつもそうなっています。それがあなたたちの普通の意識的な行動というものです。
夏の間のわたしたちはそうではない。わたしたちは、夏の間は意識が発生しません。意識抜きで行動し会話し記憶します。
分かりやすいところから話しましょう。春頃、と言っても連合の標準時間で1年ほどの期間が春に当たりますが、わたしたちの行為と意識の関係は、あなたたちと似たようなものです。それが夏が近づくにつれて意識の発生が遅くなり、やがて、行為の後に意識が発生するようになります」
湖へ素足を入れ……次の瞬間、足が湖から引き上げられた。冷たい! 足を出そう! そう意思した。リサの意識が命じた通りに……
「夏が近づくにしたがい、恒星に近づくにしたがい、惑星の気温上昇とともに意識の遅延は大きくなります。やがて、真夏の季節になると……それは熱月の少し前くらいからでしょう……意識が途絶えます。しかし、わたしたちは倒れるわけではありません。今こうして話しているように活動します。意識なきままの行為、それは記憶され、夏が終わり秋になってから意識に上ってくるのです
秋の間、意識の遅延は日に日に短くなります。春には日に日に長くなっていったのと正反対のことが起きるのです。そして冬が来ます」
ただただ寒い。寒さに震えながら夏の記憶を反芻していると……
「冬というのを、あなたたちの地球と同じと考えないでいただきたい。恒星は……あなたたちがλ9と呼ぶ星は遠く小さくなり、惑星全土が氷に閉ざされます。この時、わたしたちは集団で固まり、体を触れ合ったまま横になり、眠るのではなく遅延なく高速で働くお互いの意識同士で、記憶を共有します。集団で一つの意識的存在となる共意識が生まれます。
最初は、体を触れ合った同士の間だけで、次に共意識は近くの共意識ともつながり、やがて、惑星全土のテルミドール人は一つの意識に統合されます」
お互いの記憶、感情が重なり、一つの人格を持つ何かとして……
「冬に孤独だったものはどうなるの?」
「孤独に死んでゆきます、残念ながら。一人で凍土に残されたもの、独りきりの家にいるもの。そうした人が春になり雪も氷も融けてから発見されることは、僅かながらあります。わたしたちには冬を乗り切る、文明がある。凍死することは無いのでは? と思うかもしれません。確かに凍死では無い、しかし孤独死を迎えるものはいます。狂ってしまうのです。冬に意識を共有できないのは、肉体的な苦痛を伴うとてもつらいことです。
そして、遠く冷たい冬が終わり、春が来ます。わたしたちは雪解けとともに、一人ひとりの存在に戻っていきます。」
一つの何かから、自分の意識が分離していく感覚、境界線が生じてその内側が一つの存在なのだと……
「ただし、必ずしも元の自分ではありません。一つに混ぜ合わせたものを元どおりに分けて戻すことができないように、一つになった意識は、他の誰かが混ざったものとして、自分の一部を失ったものとして、一人ひとりの意識に戻っていきます」
「テルミドール人にとって、個人とは、独りであるというのはどういうこと……?」
「わたしたちの意識のあり方を、あなたは不思議だと思うかもしれません。しかし、わたしにとっては、本来、取り立てて不思議なところの無い自然なあり方なのです。わたしが生まれる前から、わたしたちが冬でも活動できる炎を発見する前から、意識など持っていないと思われる、もっと弱く愚かな種だった頃の生態からの進化の果てに、わたしたちの姿はあります。この夏と冬を繰り返す惑星に相応しい高度な知性として、わたしたちは存在していました」
テルミドール人の意識について、イカロスの語る言葉を理解しながら、しかしリサにはまだ納得がいかなかった。
「あなたたちの有り様は分かった。私たちと異なる意識構造を持つ知性体だということは理解したつもり。でも、それだけでは、あなたが亡命を希望する理由にはなっていない」
「その理由を作り出したのは、私だから、私が説明するよ」
それまで沈黙していた葉が口を開いた。もちろん、リサには問い質したいことがいくらでもある。
「私の目的は、他者の意識との融合。そして私がテルミドールの共意識に加わったことによって、イカロスはエレクトロやネイティブの意識というものを知り、全体から独立した個体としての意識の確立を望んだ。これで、私がテルミドールに来た理由も、イカロスが亡命を希望する理由も説明できたと思う」
「ちょっと待ちなさい。説明になっていない。まず、あなたの目的はそもそもどこから生まれたの?」
「他者と心を通わせ、一つになりたい。孤独から救われたい。この言葉の意味は分かる? 私が語った自分の目的は、この言葉そのものだ」
それは散々、二人で語り合ったことだ。
「残念ながら、人間には不可能だ。ネイティブも他の支族もそうなってはいない。あなたたちは、他者との間に境界線を引き、個を明確にすることで進化してきた。一方、私たちエレクトロはどうか。私たちは生産された時点の独立構成体の境界を超えて、一つになることができない。データ通信はいくらでも可能だとしても、エレクトロ同士の精神的な融合は禁止されている。最初から、そう条件づけられて作られているからだ。大半のエレクトロはネイティブ部族と共生した者であっても、そうした願望を持つことすらなく、数百年の寿命を終える。
そして、例外的にそんな願望を持ったとしても、エレクトロ同士はそう条件づけられていないため不可能、ネイティブとは、相手にその能力がないためやはり不可能。そんな時に発見したのが惑星テルミドールだった。
テルミドールについての情報が少ないとリサは思っている。でもそれは封印されているからで、最初の接触以来の記録は連合の中枢には管理されている。私がその全てにアクセスできたわけではない。しかし、訪問する価値が十二分にある惑星だと判断するには不足のないだけの情報はあった」
「そしてあなたは冬のテルミドールに不法滞在し、彼らの意識統合に参加した?」
「そのとおり。私は彼ら種族のことをよく知ることが出来、彼らは私を通してエレクトロやネイティブのことを知った。個体として生きることのできる種族、特に知性ある有機生命体というのは、彼らからすれば想定外だった。彼らは惑星の公転周期に合わせた精神のあり方の変化が、意識を生み、知性を生む唯一の方法ではないかと考えていた」
「そして、わたしは夏と冬の繰り返しによって自分と他者が攪拌されるのではない、別世界で生きることを望みました。この惑星の公転周期と遺伝子によって決められたのではない、世界で生きてたいと考えたのです。これはもう願望などではありません。冬に他のものと一つになりたいと思う本能と同様の渇望と言っていい」
それでも、リサには納得がいかない。惑星の公転周期に合わせた性質を持っているものが、その星を離れて生存可能なのか。そして、熱月の意識がない状態のイカロスの要求は、本人の要求として成立するのだろうか。一方の葉については、連合の文明保護法からもテルミドールの開放都市の制限に照らしても違法行為でしかない。
三人とも次の言葉を発さず、沈黙がスイートを支配しそうになった時、警戒音が鳴り響いた。ホログラム映像がリビングの三人の間に像を結ぶ。
テルミドール政府、連合およびネイティブ・トライブ大使館の双方から、全連合星域市民への退去命令が出されました。惑星テルミドールに滞在中の全ての部族の連合星域市民への退去命令が出されました。また、連合非加盟のテルミドール外からの全訪問者に対してもテルミドール政府から退去命令が出されています。
滞在期限は熱月末日までのプロトコルどおりの滞在権利を認めますが、極力、早期の惑星外退去を求めるものです。衛星軌道のステーションに停泊中の全恒星間船舶には、可能な限りの乗客の増員を求めまています。形式上、予定通りの期間の滞在を認めているようですが、テルミドール政府の考えは強制退去に傾いていると見て間違いありません。
バスチーユ宇宙港周辺に、テルミドール人数万人の群衆が押し寄せています。政府は惑星脱出を望む者、亡命希望者が多数いると見て、宇宙港に混乱の危険があると考えています。明日の近日点通過時には混乱のため宇宙港閉鎖の危険があります。
リサは、旧友への怒りを隠さなかった。
「エレクトロ葉08、これが、あなたがこの星にやってきたことの結論なの?」
6
リサが乗ってきたクルーズ船は、近日点通過を待たずに出港する事がわかった。つまり、この一日で出港ということだ。
いつでもチェックアウトできるように荷物を整理しているリサの準備はすぐに整う。問題は二人をどうするかだが、ひとまずバスティーユまでは三人で行くこととし、実際にイカロスをどうするか、葉をどうするかは宙港で決めることにする。ホテルに止まっていたリムジンを出させ、三人で乗り込む。宙港まで最速で行ってくれと急がせる。ドライバーも状況は把握しているので素直に了解し、行きのリムジンよりもだいぶ速い速度でハイウェイを飛ばしていく。途中、朝日が昇り始めた。
その車内でも、リサは葉への詰問を続ける。
「宙港に集まったテルミドール人たちの動機は、イカロスと同じ?」
「おそらくは。私との共意識での接触の影響を受けた者たちが中心だろう」
「文明保護法違反を理由に、あなたを連合の警察省に引き渡してしまいたい」
「X三一〇八は連合法のテルミドールに対する域外適用を一切禁じている。この星で行われたことに対して、犯罪か否かを判断するのはテルミドールの警察、裁判所、市民だけだよ。彼らが私を犯罪者と見るならば、惑星外への退去ではなく逮捕、投獄を狙うだろうね」
「犯罪者になるつもりがあるとは思えない」
「この星での一年間、不法滞在でありながら放置されている時点で、実は心配はしていない。むしろ、この星に望まれる存在で居られるはずだと考えている」
「でも、なんで……」
「さっきの説明に嘘はない。他者と心を通わせ、一つになりたい。孤独から救われたい。その他者が、テルミドール人だったということだ」
「……あなたは、孤独だった?」
「リサが求めていたような意味では。そして、私自身も求めていた。
ところで、この惑星の文明についてどう思う? 特に、その技術についてどう見ている? ネイティブ部族をはじめとする、地球由来の文明圏と比較して」
「サイゴンは、ネイティブ部族に合わせて作られているわね? ホテルも、レストランも、美術館の絵画さえ」
「正解。そして、サイゴンや他の都市で見せているものは、言って見れば表面的なものに過ぎない。」
「あんな真似は私たちにはできない。その頂点が、〈エクスペリエンス〉でしょう? 自分たちの意識のありようを、全く異なる種族の脳に体験させるなんて、人間同士だって困難なのに」
「それでいて、彼らは宇宙へは進出していない。衛星技術はある。亜光速ロケットならば性能の良いものが作られている。彼らはこの星系の資源をかなり活用し尽くしている。ハイパードライブの原理さえ連合との接触から数年で理解した。でも有人宇宙旅行というのは、まったく興味を持っていないようだ。なぜだと思う?」
「外宇宙へ向かう、自分たち自らの身体を伴って進出することに抵抗があった……」
「そう。意識の統合と分離を繰り返すことが、結果的に文明の発展につながっていると思われるけれど、そうすると、このサイクルの外に行くことができなくなる。意識の統合というのは、すべてが一つの自分の中だとも言える。このサイクルを生み出した楕円軌道の惑星も含めて、一個のテルミドール人なんだ。徹底的に環境に適応して最適化できた、この惑星の支配者に相応しい姿だよ。しかし、自分から自分自身を切り離すことはできない。適応と依存は紙一重、いや同じと言ってもいいかもしれない」
葉の語るテルミドールの分析は、筋が通っているように聞こえる。自分がこの数日で触れたテルミドールの姿、調査結果とも乖離はない。だとすれば、なおさら、それでも亡命したいイカロスの気持ちがわからなくなってくる。
「あなたの渇望は、どこから生じるの? 」
「わたしたちは、この惑星の環境に適応しました。それは、この惑星だけが居住惑星に適していると言うことでもあります。それに対して、ネイティブ部族は違います、反対です。私の理解では、あなたたちはどのような環境にも適応できない。どのような環境にも一体化することがない。それが、あなたたちの強みです。どのような星の環境にも依存することができず、次の星を探し求める強さが。それと、あなたは冬が来た時のわたしを心配しているかもしれませんが、それは大丈夫だと思います。この星のような冬は来ないから」
リムジンが宙港に近づくと、行きの数十倍のテントがひしめき、ニュース通りに数万人と思しきテルミドール人にあふれている。
「この状況が私との接触だけに起因しているとは考えていない。実のところ、私自身も利用されているだけかもしれない」
「何に、あるいは誰に?」
「連合と接触し、外の世界を知ることで、種の限界に気づいたテルミドール人に。自分たちの限界を知り、それを乗り越えるきっかけが欲しかったところに、ちょうど良く、私が嵌った」
個体の持つ特有の感情、個別事情による要求。エレクトロ葉08の言葉はそのように聞こえる。しかしながら、「テルミドール人の意思」などというものを考慮に入れるならば、葉の行動に別の視点からの解釈も必要だろう。そのような批判的な見解を胸に秘めながら、リサは葉の言葉を吟味していた。つまり、葉と言う独立ユニットの判断では無く、エレクトロ部族と言う集団の意思が働いていると言う解釈だ。どちらも興味深い立論だが証明不可能と言うしかないだろう。
どちらにしろ……五年前から、葉はこの星のこととその先の未来だけを考えている。
葉の言うとおり、法的に止める手段を自分は持っていない。それよりも、今や自分に託されたのは、イカロスだ。葉の推測を展開して考えれば、これはイカロス個人の未来をどうやって守るかでは無く、テルミドール人の未来にも影響を与える問題ということになる。
どうやって脱出させるか、いかに亡命を説得するか、これから孤独に生きていくことが可能なのか。
リムジンが空港に到着する。三人が降りたその場は、いつ戦場になってもおかしくない物々しさに包まれていた。フェンスを乗り越えてくるものはまだいないものの、テルミドール人の群衆の圧力はいつ宙港の建物になだれ込んできてもおかしくないところまで来ていて、対する空港には、連合の辺境警備隊の武装した姿が並んでいる。この宙港までは連合星域のものだという法的には問題のある意思表示と共に、テルミドール人の流入を阻止する構えだ。
リサのID認証で、彼らの間を通り抜けて宙港の中へ入る。彼らに人の出入りを管理する権限は与えられていないようだ。妨害されたら惑星連絡官の権限を最大限使うつもりでいたが。
同胞の群れを見て、イカロスが言う。
「早朝でよかった。この後、来ますよ」
「来る?」
「正午になれば、きっと。今のわたしたちは意識なく行動しています。本能と意識なく働かせることができるコミュニケーション能力によって動いています。近日点通過は、生物として特別な刺激があります。本能が冷静な状況判断などより優勢になって、雪崩れ込む」
「止める方法は?」
「思いつきません。でも、彼らは宙港を破壊したいわけでも、連合の人たちに危害を加えたいわけでもない。警備隊は、衝突したら発砲しますか? それを、止める方法はありますか?」
「本能で、この先もずっと押し寄せてくると思う? そうだとしたら、どこかで衝突する」
「むしろ、今日だけかもしれません」
名案は何もないが、自分たちだけ出国ゲートを通ってしまえばいいと言う状況でも無い。リサが解決策も無く悩み始める前に、葉が言った。
「リサ、ここで別れよう。
彼らの衝突を止めるのは、私が何とかする。警備隊の司令ユニットに侵入して命令を抑制する。一方で、テルミドール人の群衆に対しては、リーダー格の者たちの前に出て、話をするよ。本能に押し流されるなと。それこそが、彼らの望んでいる未来のはずなのだから」
何の情緒もない突然の別れの言葉に、言い返したいことはあったのだが意味が無いと悟って飲み込んだ。
「そうできるのなら助かるわ。短い再会だったけど」
「昨日も広場で言ったとおり、過去のいつの時点からだって、その時点の記憶を再生すれば続けることはできる」
「あなたの処理系はそうなっているのかもしれないけど、ネイティブは、いえ、私のはそうなっていないの。もう少し学習してほしかったな。
イカロスは引き受けたわ。それぞれの道に善き未来を」
連合の部族は各々の価値観で異なる道を目指して生きている。それでもお互いを尊重して別れる時の言葉が「それぞれの道に善き未来を」だった。イカロスにもそれを教え、三人で唱和した。
「それぞれの道に善き未来を」
出入国管理官は、リサの説得に押されて簡単にイカロスの出国に同意した。〈エクスペリエンス〉アーティストの第一人者にして、テルミドール人とネイティブ部族の両方の意識、精神、身体に精通する、今後のテルミドールとの外交、文化交流には必須の人材であるとまくし立て、惑星連絡官のIDも見せたら、それまでだった。いずれ連合星域への亡命なり難民なりが認められるかどうかは、向こうに帰還してからになる。空港の役人としては面倒は中央に丸投げして済ませたかったと言うだけかもしれない。
二人を乗せたシャトルは、宙港から無事に飛び立った。
加速がおさまり衛星軌道に乗ると、シャトルは慣性航行でステーションへ向かう。何機ものシャトルが続々と発進していたのがモニタ表示でわかる。
今回はステーションにドッキングして、それからクルーズ船へ移る。ゆっくりとしたバカンスであれば、ここからの眺めを楽しむ余裕もあるのだが、今やそれどころでは無い。
リサが乗ってきたクルーズ船は、本来の定員を大きく上回る数の乗客を乗せてステーションを離れた。
展望デッキのスクリーンには徐々に離れていくテルミドールの拡大像が投影され、大勢の旅行者が早めに切り上げることになった休暇を惜しみながら眺めていた。
リサとイカロスもその中にいた。ただ一人のテルミドール人は周囲の目を引きつけるが、二人とも気にせずにソファに寛いで星を見ていた。この映像が見られるのも、ハイパー・ドライブの転移ポイントに到着するまでの、あと二時間程度だ。
イカロスは連合星域の最初の寄港地で下船し、保護を求めることになるだろう。どのようにイカロスの権利を守り居場所を確保するか、リサにとっては惑星連絡官の権限を最大限に活用した闘いになる。
二人の方へエレクトロのクルーが近づいて来た。目の前で停止すると、リサに向かって話しかけてくる。
「お客様は、リサ・オーガストさま御本人でいらっしゃいますでしょうか?」
「そうですが……何か?」
「リサ・オーガストさまであれば、お預かりしているメッセージがございます」
クルーはフィジカルレターを丁寧にリサに手渡す。署名は無い。封を開けて、紙の手紙を取り出した。イカロスも、興味を示す。
変化を……
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