梗 概
方物の付喪神
エンジニアの加室由人の元に手紙が届く。それは二十年以上前に失踪した父からのものだった。手紙を運んできたのは、〈フェンネル〉と呼ばれる三世代ほど前のアンドロイドだった。
手紙は遺言だった。そのほとんどは失踪したことに対する謝罪だった。最後に、自分の遺体を埋葬して欲しいという頼みが書かれていた。遺体の場所は目の前の〈フェンネル〉が知っているともある。
由人はもう父親のことなど忘れていた。父のことを考えると、泣き崩れる母のことを思い出してしまう。だから意識的に忘れたのだった。
行く気はない、帰ってくれと由人が〈フェンネル〉に言うと、〈フェンネル〉は、自分はあなたの父親の最後にして最高の研究成果なのだと言った。父の遺体が置かれている山奥の屋敷には父の研究データすべてが残されている。どうか一緒に来て欲しいと言う。どんな研究成果なのかと訊く由人に〈フェンネル〉は、
自分は付喪神が憑いたアンドロイドなのだと告げる。
〈フェンネル〉には疑似人格が搭載されているが、由人の父は耐用年数の過ぎた〈フェンネル〉のパーツを換装することなく使いつづけ、更には長年連れ添ったパートナーのように扱うことによって〈フェンネル〉に付喪神を降ろした。
エンジニアとしての好奇心が勝った由人が〈フェンネル〉のあとをついていくと、付喪神が憑いた〈フェンネル〉になった経緯を説明される。だが由人は納得できず信じない。〈フェンネル〉は由人の父親が自分をどれだけ大切に扱ったかを何度も説明し、自分は由人の妹だと言った。
パーツ換装が行われていない〈フェンネル〉の身体は限界に近かった。道中、左腕が抜けた。その拍子に〈フェンネル〉は声を洩らした。助けて、という声だった。それはこの道すがら聞いた〈フェンネル〉の声とは違っていた。
嫌な予感がした由人は訊いた。付喪神が降りた際、元の疑似人格はどうなったのか。〈フェンネル〉は答えなかった。由人はついていくことに不安を覚えたが結局引き返さなかった。
山の頂上付近に家はあった。セキュリティを〈フェンネル〉が解除し中に入ると、冷えた一部屋に父の遺体が安置されていた。周りには複数の〈フェンネル〉が並べられていた。そのどれもが所々欠けている。これらにはまだ付喪神が降りていないのだ。由人が父の遺体を運び出すために部屋へ入ると、外から鍵がかけられる。慌てて、ドアを叩き壊そうとするが頑丈でびくともしない。ドアの外の〈フェンネル〉は、その部屋の〈フェンネル〉すべてに付喪神を降ろせばドアを告げる。
文字数:1049
内容に関するアピール
疑似人格が搭載されたアンドロイドに付喪神が降りたことで起こる二つの人格によるコンフリクトと父子の断絶と接続の話を書こうとしたのですが、まったくまとまらず。
最近は大学でバーチャルYOUTUBERの身体構造をやっており、パーソンとキャラクタの人格のコンフリクトの着想はそこからです。実作ではそこが活かせるように詰めて書くつもりです。
文字数:164