梗 概
サウナー
突然だがサウナーは宇宙生物である。
木を食い、鉄を食い熱を出す。
どうして地球にやってきたのか。どこから来たのか。謎は尽きない。
サウナーを知る者は世界でもごく限られた人間たちであった。
佐川にとってサウナーの価値は熱を出すことである。
彼が通う風呂屋のサウナがサウナーの熱によって成り立っていたことを知って以来、佐川のサウナーに対する尊敬は確かなものとなった。サウナーによるサウナは極上である。サウナーはアザラシのような見た目に反して非常に軽いため、サウナーの熱を利用して気球を実現することも可能である。
サウナーを使った風呂屋を営んでいるのは山木という女性の店主で、佐川と同じ20代の若者である。山木の家系は風呂屋の家系である。そしてそれは同時にサウナーとの共生の歴史でもあった。山木はサウナーのことをさじさんと呼ぶ。サウナーおじさんである。おじさんという言葉を使う理由はいくつかある。まず、サウナーは人間と会話でき、人並みの知能をもっていること。そして人間よりも長生きであるということ。この2つの事実が、山木の、ひいては山木家のサウナー観のベースになっている。ペットというより親戚のおじさんである。そして、そのような奇妙な一家と秘密を共有することになった男が佐川である。
佐川はサウナーの秘密を保持し、定期的にさじさんの話し相手になることを条件に無料で山木のサウナを利用する権利をもっていた。佐川が秘密を漏らすことはなかった。サウナーの存在が広く知られれば、危険視される。秘密を共有する佐川と山木の距離が近づくのは不思議なことではなかった。というのは嘘で、実際には悲しい男の片思いであることをさじさんは知っていた。
しかし、平穏な日々は終わりを告げる。
サウナーの存在を独自に調査する中で山木の風呂屋にたどり着いた男がいた。
彼の存在を恐れた佐川はその男を殺してしまう。
男の背後にある組織が佐川とサウナーを発見するまでにそう時間はかからない。
さじさんと山木を守るため、佐川はサウナー気球と化したさじさんに乗り込み、旅に出る。
目的地のない旅が始まる。
さじさんにとっては新しい出会いの旅になるかもしれない。
だが佐川にポジティブな感情はなかった。
自分は山木から大切な存在を奪ってしまった。
失意の中たどり着いた場所にあったのは風呂屋だった。
さじさんはここで同類のサウナーと初めて邂逅することになる。
佐川は旅の目的について考え始める。
世界各地のサウナを巡り、サウナーと巡り会う。
いつのまにか、それが旅の目的となっていた。
旅が終われば日本へ戻り、罪を償う。
山木と会うのはそれからだ。
さじさんの熱が佐川にあたる。
同類を見つけてからというもの、さじさんの放つ熱はより激しいものになっていた。
サウナーたちの喜び、興奮が熱に変わり、また熱を呼ぶ。
これが自分の見たかったものなんだ。佐川はそう考える。
でもこれは、サウナには熱すぎる。
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内容に関するアピール
二人の男女の間に変な生物がいる話を書きました。
三角関係であります。
サウナのために熱を出してあげたり、主人公くんのために気球になってあげたり、なんとも健気な生き物です。
こんな素敵な生物が二匹も三匹も集まったらもっと楽しいに違いありません。
宇宙生物でありながら人間の家族とともに長く過ごして来たサウナーは、とても人間くさい側面をもっています。
一方で人間には理解し難い習慣や考えもあります。異文化コミュニケーションです。
主人公の佐川はヒロインの山木よりも宇宙生物と気があってしまう残念な男であります。彼にとっては山木とコミュニケーションを取ることの方が異文化交流に近いものとなってしまっていますが、これはまた山木側の問題でもあります。
そのようなじれったい関係の間にサウナーおじさんがどっしりと構えております。
この三角関係はどうなってしまうのでしょうか。わかりません。
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