ファーストコンタクト

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梗 概

ファーストコンタクト

霊界を代表する3人組みアイドルグループ、眼鏡っ娘政策のメンバーは全員、視力が2.0。眼鏡がトレードマークのユニットにも関わらず、3人とも伊達眼鏡という、チャレンジングなユニットだった。
しかしメンバーの一人、敷島四十九(しきしましじゅうく)は近年、視力の低下に悩んでいた。といってもそれは左右の眼ではなく、中央に位置する額の眼、邪眼の視力低下だった。
敷島は魔界から霊界にやってきて、霊心を掌握する術を身につける為にアイドル活動に従事していた。敷島は決して社交性が高いタイプでは無かったが、邪眼は太い客の見極めや、霊界人が望む行動の察知に役立った。そのお陰でメンバー内での人気は元より、眼鏡っ娘政策としても活躍が出来ていた。
敷島がアイドル活動を続けたい理由はもう一つ。メンバーとの友情だった。敷島にとって眼鏡っ娘政策の2人は、魔族として生まれてきて初めて出来た友人といってよかった。
邪眼は何故か、メンバーの2人(飛雄馬ノイドと、神隠師点々丸)には通じなかった。それも敷島が2人との距離を縮められた大きな要因といっていい。
邪眼の視力を改善するため、レンズが3つある眼鏡を特注するが、明らかに不恰好。魔界の眼科に行っても、邪眼に治療法など無いと告げられてしまう。
ある日、ユニットのマネージャーである霊獣が、メンバー3人を集めて告げる。「このまま敷島の邪眼の力が弱まった場合、眼鏡っ娘政策は解散しなければならない」。抗議する3人に、霊獣は続ける。「邪眼の所持者は邪眼の失命を持って命を落とす。霊界で魔族の命を落とさせるわけにはいかない」。
敷島が魔界から来た魔族であることを、飛雄馬と点々丸は知らなかった。そして、飛雄馬が人類の英知ヒューマノイドであること、点々丸が天界の天使であることもまた、敷島は知らなかったのである。魔界、人界、天界の3人が霊界で同じユニットで活動することは、4つの世界の和平をも意味していた。
魔族と天使は元々対立する種族。点々丸は敷島が魔族であることを知り、裏切られたように感じる。メンバーからの脱退を希望し、背の翼を開いて飛び去っていく点々丸。その時、敷島の邪眼に初めて点々丸の未来が映る。悪い霊界人に連れ去られ、点々丸が天身売買にかけられる未来。敷島はそれを阻止するために駆け出す。協力を申し出た飛雄馬はバイクにトランスフォームし、敷島を乗せて点々丸を救う。
仲を取り戻した3人だが、敷島の邪眼問題は残る。点々丸は自らの翼を代償とした天使の力で、邪眼の視力低下を阻止する。しかしその邪眼は、殆ど力を失っていた。
それでも眼鏡っ娘政策としての活動を希望する3人。飛雄馬は、人間界には眼鏡以外にも視力を改善するアイテムがあることを告げる。敷島の大きな額の眼に、人間界で特注したそれがはまる。敷島は魔族として初めての、コンタクトレンズの着用者となる。

文字数:1178

内容に関するアピール

『マヨネっ娘政策』

いつだっけ気づいたの
私も歳をとっていくんだって
いつだっけ気づいたの
マヨネーズの容器の先端 星型だって

でも 想像で描いたみたいにならないのが現実で
容器の先端からお星様 出てこなかったよね
やっぱ 人って流動物じゃないからさ 
誰かが決めたような形になんて なるわけなかったんだよね

るららるらるら

☆マヨネーズの う・ん・こ! それは 沈まない太陽
マヨネーズの う・ん・こ! そして 嘘みたいな夕日
マヨネーズの う・ん・こ! いつか 信じてた幻
マヨネーズの う・ん・こ! そうね 人は地球のう・ん・こ

白い砂浜歩いたの
思いのほか歩きやすかったよね
途中で見つけた貝殻さ
星の形しててなんか嬉しかったよね

いま あの砂浜の砂は海にさらわれちゃって
もう素足でなんて歩けないんだってさ
だけど その原因を考えていくと
結局 人に行き着くんだってさ おかしいよね

ちゅりそちゅりそそ

マヨネーズの う・ん・こ! まるで 昔読んだおとぎ話
マヨネーズの う・ん・こ! それは 人の創った魔法
マヨネーズの う・ん・こ! いつか 描いてた幻想
マヨネーズの う・ん・こ! そうよ 人は地球のう・ん・こ

(語り)
「人にはそれぞれ産まれてきた意味があるだなんてそんな綺麗ごと、素直に信じられるほど私は子供じゃないんだ。人は誰しも一人の例外もなく、産まれてきた意味なんて最初からないんだよ。だからって濁流に流されるみたいな人生、ワタシは送りたくなんてない。それなら無理やりでもいいじゃん、死んでいく意味を探そうよ。運命で決まっている出会いが美しいだなんて誰が決めたの?そんなの、自分の意思でどうしようもないとても気持ちわるいことじゃないか。自分の決断で紡げないなら運命なんていらないよ。ワタシは、自分で歩いた人生を後付けで『運命』と呼んでみせる」

うぉうをぉうぉうをうぉ

マヨネーズの う・ん・こ!(う・ん・こ!)
沈まない太陽 (た・い・よお!)
マヨネーズの う・ん・こ! (う・ん・こ!)
嘘みたいな夕日 (YU・U・HI!)
マヨネーズの う・ん・こ! (う・ん・こ!)
いつか 信じてた幻 (まぼろひ!)
マヨネーズの う・ん・こ!

「うん、そうだね、 人は確かに地球のうんこだけど、うんこは肥料にだってなるんだもんね、頑張らなくちゃ」

 作詞・作曲 品川必需

文字数:927

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たけのこ太郎

1.
暗がりのなか鉄バットを手に、竹林に向かう私の耳にはいつもみたくイヤホンがはめてあって、学生時代から好きなJUDY AND MARYが流れている。「baby 今は泣かないで」と歌うYUKIちゃんの声を聴きながら、竹やぶに入る。竹と竹の間を通り抜ける風のざわめきは、音量MAXで流れる音楽で聴こえない。

また仕事を辞めてしまった。全然仕事が続かない。今回はネチネチと煩い客の電話対応中、ちょっとだけ反論してしまい、首がチョンパしてしまった。生きにくい、なんて生きにくい世界なんだ。てか私悪くないよね?「傷つきました」とか違くない? 傷ついた心をさ、痛みをね、見ず知らずの私に電話越しにぶつけることであなたの心は満たされるんですか? かさぶたで覆われるんですか? って話じゃんか。こっちに出来た傷はじゃあ誰が治してくれるのよ? 唾つけとけば治るってか? 冗談ぽい。ポイポイポイですわ。だから言ってやったね、「こちとらお前の個人情報握ってんだぞ」。「住所から家族構成までほぼほぼ把握してんだぞ、インフラ企業の電話番なめんな!」。そしたら飛んでったよね、首スポーン飛んでった。私びっくりしたよ、宙を舞う自分の首見て、お星さまかと思ったもん。「願い事しなきゃ」て一瞬考えたけど、流れ星ではなかったみたい。なんも願いごと叶わないし、消えたのは社員名簿から私の名前、みたいな。笑っちゃう? え、全然笑えないじゃん超オコなんですけど!
だから今の私はさながら首なし騎士。鉄バット握ったデュラハンです。コシュタ・バワーの手綱握って、覚えた住所目指してやろうか。そんなことも思ったけど、復讐に命燃やすのって不毛じゃない? いうても理性的な女じゃないですか私って。そのあたり年の功って言うか、心の整え方身につけてる所あるじゃん。だから来たんだよな竹やぶに。どうしよもなくなった時はこれに限る。

Cメロ終わってサビに入るタイミングで、私は手にした鉄バットを振りかぶり、竹稈めがけ打ち抜く。「うりゃあ!」とか「どりゃあ!」などと言いながら、それを繰り返す。ガコーン、ガコーンと辺りに響いて、なんかの鳥がバサバサと飛び去っていく。途中から口にする言葉も「死ね!」とか「滅びろ!」といった前向きなものとなり、踏むステップも踊るようなリズムで刻まれていく。その頃には私もだいぶストレスが緩和されていて、フーとか息を吐いて汗を拭ったりなんかして。やっぱストレス解消は音楽聴きながらの竹林バッティングに限るよ。
 
さて、もう一息。そう思い往年の名選手、種田仁のガニ股打法で構えたところ、どこからともなく声が聞こえてきた。
「もうやめて下さい」
え。私はぐるっと周りを見渡す。
「ゆ、YUKIちゃん!?」
一瞬そんなことを思いイヤホンを外すが、いつの間にか名盤THE PAWER SOURCEは一周し停止しており、そこから音楽は流れていない。
「まさか警察?」
なんだか急に動揺してしまい、国家権力の介入が脳裏をよぎるが、そこまで悪いことをした記憶もない。むしろ、ここでバットを振っていなかったら、私は人を殺めてしまっていた可能性もあるわけで、犯罪予防の観点からも必要な行いであったはずだ。そう考えるとポリ公というよりも、この竹林に住う原住民の警告と捉えた方がいいかもしれない。じゃあなんだ、ジャイアントパンダか?

警戒し、再度ガニ股打法で構えたところ、その声は再び私の元に届いた。
「私は今、あなたの心に直接呼びかけています」
マジかよ。そう思って耳を澄ませる。何年か前にWeb上で流行ったフレーズじゃん。てか耳を澄ませようと考えた時点で、やっぱ耳に届いてると思うんだけど。
「(そんなことはありません。あなたの心に直接呼びかけています)」
「いや、今切り替えたでしょ!」
「(切り替えたってなんですか。そんなことより時間がありません)」
「大切なことじゃんこれ」
私が口にした直後、前方の竹の中央が、金色に輝き出す。
「不慮の事態です。間もなく、システムは停止します」
「どゆこと? てかこれまさかあれ? 竹取物語的な流れ? あと今普通に音声だったじゃん、雑!」
すると、何処からともなく「ポンポコポン ピロピロ♪ ポンポコポン」という愉快なメロディが流れてくる。
「何これ」
警戒する私の目の前に竹やぶから現れたのは、白と黒のジャイアントパンダだった。
「うわあぁああああ!!!」
私はその頭目がけて鉄バットを振り下ろす。バコン、バコンと音がして、何度か繰り返して気づく。いやこれ、パンダっていうか、メロディペットじゃん。昔デパートの屋上とかにあった、百円入れると動くやつ。
「私たちの技術は、すでに子供用乗馬式ジャイアントパンダ型電気自動車を、遊具から一般利用にシフトできるフェーズにまで辿り着いていたのです」
「いたのですじゃねーし!」
そう言うと、メロディペットは口に加えていた一本の筍を地面に落とした。
「どうか、この子を……」
メロディペットの目から光が失われ、金色に光っていた竹の輝きも収束していった。竹は光る意味無かったんじゃ。

地面に落ちた筍を見ながら思う。竹取物語は竹取物語でも、生まれ方あれか、高畑勲のパターンか。私は地面から筍を拾い上げようとして、それがあまりに重く、持ち上げられないことに気づく。どうしよう、何これ。竹林のなか途方に暮れ、動かなくなったメロディペットに跨ってみたりした。バットでつついてみたり。あれやこれややっていたら、暫くしてプシューという音がして、筍の縦に、亀裂が走った。パカっと開いて、内部が覗いた。そこには計器類や、小さなコックピットが見えた。コックピットには何かが座っていた。一糸まとわぬ姿のそれ。腰掛けた椅子がぐるりと回る。私の方に向き直った。長い黒髪に隠された、白い肌が見える。「かぐや……姫」。自然と唇が動く。その存在は椅子に全裸で腰をかけており、下腹部に男性器の存在が確認できた。
それが、私とたけのこ太郎との出会いだった。

2.
「と、いうわけなのよ」
「……」
私はこうなった経緯を、ルームシェアしている妹に話した。西武池袋線の秋津駅から徒歩5分。2DKのマンションの一室で妹は、私の話を真剣に聞いてくれている。
いや確かに、少し笑いを堪えている感じはある。口を開けてちょっとだけ舌を出す妹のこの表情は、年末に笑ってはいけないタイプのバラエティ番組を見るときに「笑いを我慢して観た方が楽しいから私も笑わない」と言って堪えている時の表情だ。
しかし姉の一大事に、我が妹ながら何故この表情なのだろう、理解に苦しむ。そりゃね、だいぶ奇天烈な話だとは思う。竹やぶでバッティングしてたらメロディパンダが現れて、テレパシーで話しかけてきて、筍を一本落としていった。それが割れたら中には小さな男の子がいて、私はそれを掌の上に乗せようとした。するとそれは野球ボールくらいの丸い肉の塊に変化して飛び跳ねた。そして私の頬にくっつくと、まるでコブのようになるだなんて。
「バブフッ! ウブフッ! ウブフフフフフッ!」
妹がついに、我慢仕切れなくなり吹き出した。「バブフッ」から始まった笑い声は、今や「ヒーッヒッヒッ」という高い音に変化しており、子供時代に流れたねるねるねるねのCMの魔女のような声を想起させている。
「笑うな。お前はねるねるねるねの魔女か」
「う、うるせえ! そういうお前はコブとり婆さんかよ! か、勘弁してくれ」
妹は一息で言うと、フローリングの上で再び笑い転げている。 あ”? いやちょっと待って、コブとり婆さん?
私は冷静になろうと、こめかみに指をやって、辺りを見渡す。共用スペースであるキッチンダイニング。小窓には、私が選んだ水色のカーテンがかかっている。掃除をしない妹は知っているのだろうか、3ヶ月に一度このカーテンは私が外して、洗濯機に入れて洗濯していることを。ガスコンロの上には鉄のフライパン。得意料理が目玉焼きの妹は知っているのだろうか、定期的にフライパンを火にかけてカラ焼きし、キッチンペーパーに油を含ませて私が手入れしていることを。
考えてみればこの妹も、子供の頃は可愛かった。一緒にお買い物ごっこをしたのはもう20年以上前。「なんと50%オフだよお姉ちゃん!」「や、安い!」。そんな感じでごっこ遊びして、気づいたらガラクタを売りつけられて、妹にお小遣い取られてたっけ。妹のこと可愛がってた親戚のおじさん、元気かな。パチンコで勝った時の景品、何故か妹にだけ持ってきてた。私も欲しかったなあお菓子とかでいいから。あ、でも妹、きのこの山の傘の部分だけ食べて、手で掴むところは私にくれたりしてたな。そう考えるとあれかも、ちょっと竹林バッティングやり足りなかったかも。気づくと、私の足は自然と玄関にある鉄バットの元へ向かっていたのだけど、それに気付いたのか妹が急に言ってきた。
「ほ、ほら姉ちゃんって、ジュディマリのYUKIちゃんに瓜二つじゃん」
ん、なんだろ蝿かな? 煩い羽音みたいな声が聞こえるけど、ちょっと今それどころじゃないしな。私の両手は欲しがってるのよ、グリップの感触を。
「てか、姉ちゃんって実質YUKIちゃんじゃん」
実質YUKIちゃん。な、なんだよ実質って。紛らわしいんだよ実質無料とか後日キャッシュバックとか。値引けよ。その場で値引け。そう思い私は強い口調で言った。
「実質YUKIちゃんってことは、YUKIちゃんでは決してないってことだからな」
「何言ってんだよ、姉ちゃんはもはやYUKIちゃんだよ。姉ちゃんいなかったらジュディマリ再結成はないんだよ?」
私が居なかったらジュディマリ再結成はない。よ、よせよ、何言ってるんだうちの妹は。ちょっと冷静になってくれ。
「姉ちゃんはジュディであり、マリーでもあるんだ。その姉ちゃんが居なかったら、&じゃん。再結成したとしても、&しか紡げないんだよ。姉ちゃん、いやYUKIさん。YUKIさんは今後の音楽活動について、どうお考えなんですか?」
音楽活動。私は、YUKIである私は、今後の音楽活動についてどう考えているのだろう。ソロでやってるし、これで全然良い気もする。だけどそうか、ファンは望んでるのかもな、ジュディであり、マリーでもある私が、再びかつてのバンドを再結成することを。
「でもYUKIさん、今のYUKIさんには、ジュディ&マリーを再結成できないとても大きな理由があります」
再結成出来ない理由……。ファンはこんなにも再結成を望んでいるのに。なんで、どうしてなの。私は唾を飲み込むと、胸に手を当てて、親愛なる妹に尋ねた。
「その理由とは」
「あなたのコブです」
「やっぱり!」
そうだと思ったんだよ、やっぱこれだ。なんなんだよこれ、てかなんなんだよさっきの出来事。
「ねえ妹、これってどういう状況なの? それに何、このコブってなんなの? どうしたら取れるの?」
私は頬のコブを掴んで引っ張りながら妹を見た。皮膚は伸び、コブとの接着面がズキズキと痛む。涙ぐむ私に顔を向けた妹は、口を開けてちょっとだけ舌を出す表情をしている。私は涙を堪えて言った。
「これじゃジュディ&マリー、再結成できないよ……」
「バブフッ! ウブフッ!」
吹き出した妹が、フローリングの上を転がっている。ねるねるねるねの魔女のような声を上げながら。私はコブから手を離すと、玄関の鉄バットの元へと向かうのだった。

文字数:4626

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