アラサー魔法少女 またみ・たみたみ

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梗 概

アラサー魔法少女 またみ・たみたみ

TV画面の中、華やかなアニメの少女が、空中で指を天に翳している。
「衛星軌道上からのマジカル〜」
腕のブレスレットが輝き、翳した指の先端に光が生まれる。少女は腕を振り下ろし叫ぶ。「サミー・スプラッシュ」
地上にいる怪人目がけ光弾が放たれ、怪人はチリとなる。少女は決めポーズで言う。
「ラブ&ガッツ、アーンドキュート。このブレスレットさえあればあなたもプリンセス・サミー。絶賛発売中だよ」

毛布にくるまり、CMを見ていた又見民多美(28)は羨望の眼差し。

宅配の段ボールが届く。「失業中に私は…」。中からはブレスレット。CMと明らかに異なるデザイン。訝しがりながら腕にはめると「ポンポコポーン」のメロディが背後から流れる。振り返るとハムスター。

「貴女は星霊である僕に選ばれた。僕の名はハムオ。地球意思に選ばれた貴女は、この星を悪い宇宙人から守らなければいけない。魔法少女としてね」「私28だよ」。怖くなった多美はブレスレットを外そうとするが外れない。

田舎道。多美は自転車に乗りハローワークへ。その肩にハムオ。道中、多美は「魔法少女に年齢や性別は関係ない」こと、「信じる力で魔法は強くなる」こと、「魔法少女は熱量(カロリー)消費に応じてレベルが上がる」ことを教わる。

ハロワ。PCで求人を探す多美。ハムオは早く変身して欲しいと言うが、そんな場合では無いと多美。刹那、悪寒に襲われる。ハムオが言う。「逃げよう」

自転車を必死で漕ぐ多美。追われている。追う存在が地面を踏みつける度にアスファルトが凹む。「何あれ」「二宮金次郎星人」。各学校から集結し、金次郎星人の数が徐々に増える。
「ポンポコポーン。カロリー消費量が一定値に到達。多美はレベルアップ」「そんな場合じゃないから」

金次郎は手にした本を投げつける。落車する多美。今度は背から薪を取り出し振り被る。万事休すの多美の前に現れる、野球大好き男(36・無職)。手にしたバットで薪を打ち返す。
「ここは俺に任せろ」「誰」「もう一人の魔法少女だ」「嘘でしょ」

逃げる多美。変身を促すハムオ。「無理だよ、私には無理」
振り返ると、野球大好き男のバットが折れている。男が叫ぶ。「信じろ!俺が野球を信じるように、お前もお前の信じる何かを信じろ」

多美は逡巡するが、ヤケになって叫ぶ。
「マイ、スウィートメロディ、プリズムチェンジ!」
光に覆われた直後、フリフリの衣装を身に纏った多美が、虚ろな眼で指を天にかざす。「衛星軌道上からのマジカル〜」

多美の声に連動し、赤道上空36.000kmでステルス衛星MAGICALのレーザー発射口が解砲、カウントダウンが始まり、多美が指を振り下ろすと、金次郎像の群れ目がけ光の筋が着弾。一掃する。

我に返る多美。ハムオは不敵な笑み。野球大好き男が多美の肩に手を置き言う。「メイクミラクル、だな」。

その後、魔法少女は給料が出ることが分かり、多美の就職問題は解決する。

文字数:1199

内容に関するアピール

”あつい” →熱or暑 →熱量 →カロリー →カロリー消費に応じて強くなる+自分の中で熱い展開 →魔法少女、衛星軌道上からのマジカル、という連想ゲームで今回の梗概です。

ジャンプ・サンデーと並んで90年代りぼんで育っており、「赤ずきんチャチャ」や「姫ちゃんのリボン」を読んで育ちました。今回に関しては冨樫義博「レベルE」のカラーレンジャーの回の影響が強いかもしれません。

「カロリー消費に応じて強くなる」という設定は気に入っていて、案外ないのでは? と思います、分からんですが。
年齢設定に関してですが、個人的に「おっさんのまま、おっさんとして戦いたい」という思いがあり、転生して若返りたいとか少女になりたいとかが薄いです。年齢と性別を度外視して、みんなでゴスロリ服を着ましょう(え)

余談ですが、私のプロフィールは毎月更新されます。

文字数:363

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魔法少女 またみ・たみたみ

1.
小鳥が鳴いている。咲いたアサガオに水滴。赤い屋根の平屋には『又見民』の表札がかかっている。
玄関の先、リビングと思われる場所には、掛け布団の外された掘りごたつ。座った女の片足が、ブラブラ揺れている。こたつテーブルの上にインクと筆立て。シャーペンを手にスケッチブックに向かっている女の目線は、TV画面に向けられている。
   *
画面の中、アニメが流れている。
荒野。ピンク色のドレスの少女が、荒い息を吐く。小学校高学年くらいに見える少女が対峙するのは、白濁色の異形。二本の脚で支えられた胴体に腕はなく、代わりに肩から伸びた触手は首の上の位置で頭部と思われる球体を掲げている。
少女はよろめき、地面に膝をつく。瞬間、少女のドレスは消え、年相応のカジュアルな服装に切り替わる。
「無理だよ、勝てっこないよ」
俯く少女の目の前で、異形の頭部が割れ、発声器官が現れる。
「どうやらここまでのようだな、魔法少女エリー」
「諦めるな!」
「誰だ!?」
異形が声の方向に頭部を向けると「カキーン」という打撃音が響く。直後、異形の悲鳴が続く。白球が、地面に転がる。
「野球大好き男さま!」
エリーが見上げる崖の上には、野球帽を被り鉄バットを持った、野球大好き男の姿。その目元は野球帽に内臓された白いメッシュの部分で隠されている。
「野球が結局一番おもろい、野球を超える娯楽は無い! エリー、もう一度変身するんだ」
「でも、でも私じゃ」
「信じろ! 俺が野球を信じるように、お前も魔法を信じろ」
「魔法を、信じる……」
エリーは立ち上がると、大きく深呼吸し、指輪に口付ける。
「もう一度。マジカル、スウィートメロディ、プリズムチェンジ!」
眩い光がエリーを覆う。光が止むと、ピンク色のドレスを身に纏った、魔法少女エリーの姿。
「ラブ&ガッツ、アーンドキュート。私が、私こそがあ、魔法少女、プリンセス・エリー。阿弥陀如来に代わって、天誅!」
「おのれ、こしゃくなあ!」
異形がエリーを再び見据えた時、エリーは人差し指を天にかざしている。
「衛星軌道上からのマジカル〜」
突如、雲が渦巻き、一筋の光が異形を照らす。
「何!?」
「マジカル・エリー・スプラッシュ!!」
エリーが指を振り下ろすと、光の軌道を辿って青い熱線が地上に到達、異形を薙ぎはらう。
「こんなの、デタラメだあ!」
叫び、消失する異形。再び地面に膝をつくエリー。
「やったの?」
野球大好き男はエリーに肩を貸す。
「メイクミラクル、だな」
「……はい」
エリーは、はにかんだ笑顔を見せる。
   *
TV画面には『魔法少女 プリンセス・エリー』のエンディングテーマが流れている。それを見ている女のスケッチブックには、エリーのイラスト。スケッチブックの上に、涙が落ちる。
「尊い、尊いよエリー」
「多美、あんた朝から何泣いてるの…」
立ちながら見つめていた多美の母、表情には呆れが滲んでいる。

2.
キッチンテーブルに朝ごはんを並べる多美の母。
「今日はハローワーク行きな」
「えー? まだ帰ってきたばっかじゃん」
食卓に並んだフキのお浸しを、箸で口に運ぶ多美。
「何言ってんの、あんた32でしょ? 朝からいい歳した大人がアニメ見て涙流して。あれ、あんたが子供のころやってたアニメでしょ?」
「再放送でやってるの」
「こっちじゃ働かざるもの食うべからずだからね。東京にいた時みたいには出来ないから」
「東京でもアシやってたし」
「こっちじゃそんな仕事ないから」
「やろうと思えば在宅で出来るよ」
「あんた、なんでこっち帰ってきたのよ」
「ええ? そりゃ、生活がしんどいので」
「そうでしょ? じゃあ定職見つけな、全うなやつを。こっちじゃ働かざるもの食うべからずだから」
「いやそうだけども」
ウィンナーを箸で摘む多美。ウィンナーをよく見ると、「うぃんなー」と印字されている。

赤い屋根、山に囲まれた平屋。周りに家屋は殆ど無い。多美は玄関でスニーカーの紐を結んでいる。
「多美〜、軽トラ乗ってってもいいよ」
「いい。SUGIZO乗ってくから」
「エンジンかかる?」
「ダメなら軽トラ借りるよ」
多美は紐を結ぶと庭に出る。石の階段を降りヘルメットを手にすると、小屋の中に停めたスーパーカブに跨り鍵を右に回す。動き出すエンジン。
「いいね〜相棒。レッツゴー、SUGIZO!」
ブロブロと言いながら走り出すカブ、跨った多美はゆっくりと小屋から走りだす。

左右を山に囲まれたアスファルトの道路を、多美を乗せたカブが走る。たまに民家がポツン、ポツンと建っている。
「相変わらずど田舎だねえ、SUGIZO」
「(裏声)そうだねど田舎だ、どうしようもない街だよ」
目を細めた多美の髪が風に揺れる。
「揺れて揺れて今こころが〜、誰も信じられ無いまま!」
多美は突然、LUNA SEAの『ROSIER』を歌い出す。多美は気分が高揚すると脈絡なく歌い出してしまうタイプの女子で、これが原因で何度も転職を繰り返してきた。
『ROSIER』を一通り歌い終えた頃、目の前に学校の建物が見えてくる。校門には『馬頭東小学校』とある。多美は横目に通り過ぎようとしたが、教師と思われる数人が集まっているのを見てカブを停める。そこに幼馴染である佐々木岬の姿を見つけたからだ。
「みーちゃん!」
ガーリーな服装の美咲が振り返り、多美にむけて駆け寄ってくる。
「多美! どうしたの、帰ってきたんだねえ」
「うん、帰ってきたウルトラマン」
「小学校の時から言ってるよねそれ」
「みーちゃん服装落ち着いたねえ。昔はすごかったもんね」
「まあそれは仕事柄もあるし」
柔らかく微笑む岬。多美のカブに目を止める。
「SUGIZO乗ってきたんだ、すごい、まだ現役なんだね」
「そう、やっぱさすがだよ本田技研は。宗一郎の作った日本の誇りだね」
多美は前方の人だかりに目をやりながら言う。
「で、何これ、なんかあったの?」
「うん、実は」
人だかりの中に『二宮金次郎像』と刻印された石の台座があるが、その上に像の姿は無い。
「居なくなっちゃったんだよねぇ、金次郎」
「金次郎……まさか盗難?」
「うーん、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
岬は顎の下に指をやると、思慮深そうに眼を細める。岬がこの仕草をする際は、何か心当たりがある時か、もしくは何も考えていない時だということを、多美は長い付き合いの中から知っていた。
「みーちゃん、今もしかして何も考えて…」
「そうだ多美!」
ビクッとする多美。
「急だけど、今日の夜飲もうよ。多美の帰郷祝いで。どう?」
「え、嬉しい。飲も飲も。ごめん、私みーちゃんのこと誤解してた」
「分かんないけど、一緒に飲むのいつぶりだっけ」
「半年とか? 東京いた時に私のマンションで飲んで以来じゃん? でもこれからは頻繁に飲めるね〜」
「ねー。嬉しいねー」
神妙な教師たちをよそに、キャッキャする多美と岬。

3. 
多美はカウンター越しに、黄色いフレームの眼鏡をかけた男と対峙している。机上には『職業相談コーナー』の掲示。男は、多美の顔と手元にある多美の履歴書を、交互に見比べている。履歴書には年齢や顔写真、資格や職歴がずらっと記載されている。多美は男の目元を凝視している。
「自動車普通免許だけ」
「いや〜、資格とは無縁に生きてきちゃって」
照れ臭そうに頭を掻く多美。
「でも漫画のアシスタントや持ち込み経験があるのなら、パソコンはそれなりに使えますよね?」
「微妙かも」
「オフィスソフトは?」
「あんまり」
「漫画描くのなら、SAIやコミスタの使用経験はどうです?」
「詳しいですね」
「この仕事、プライド持ってやってますから」
「黄色眼鏡なのに…」
「色は関係ないでしょ」
手首のところで眼鏡の位置を修正する男。
「眼鏡の位置直す仕草独特!」
「そうじゃなくて、関係なくないですか眼鏡の色は」
「関係あるよ。逆に、そこの意識なくその色の眼鏡かけてるとしたら、相当ヤバいやつだよ」
「失礼な人ですね、まあいいです。この眼鏡は私の祖父が」
「アナログで描いてたんです」
「はい?」
「アナログで描いてたんです。アシスタント先の先生もアナログで」
「突き進む感じですか?」
「わかりますよ、その辺のソフトの使用経験があれば、フォトショやイラレの習熟も早いし、デザイン系の道もあったって言いたいんでしょ?」
「いや、私が口にしたい話題はそこからもうシフトしてて」
「でもこの町にデザイン活かせるような仕事ないじゃん! もういい!」
多美は立ち上がると、職業相談コーナーを後にする。背後で、男が祖父と眼鏡について何か叫んでいる声が聞こえる。

多美はカブの横で石段に座り、うなだれている。小声でX JAPANの『Rasty Nail』を口ずさんでいる。
多美は「Just tell me my life」と歌いながら立ち上がると、カブの方を見て言う。
「今思ったんだけど、東京でも私に向いた仕事無かったのに、こんな田舎に帰ってきてあるわけなくない?」
「(裏声)そんなことないよ、めっちゃあるよ、だって君は出来る子なんだから」
「そっかなあ」
「(裏声)そうだよ、そうに決まってる。あれ、もしかして弱気になってる?」」
「う〜ん、私やっぱ繊細なところあるじゃん?」
「(裏声)じゃあ神社じゃない?」
「ん?」
「(裏声)ほら、多美帰ってくるたび参拝してるのに、今回まだ行ってないじゃない。こんな時はパワースポットだよ」
「なるほど、さすがSUGIZO。私の相棒なだけあるね」
多美はカブに跨ると『Rasty Nail』を熱唱しながら、ハローワークを後にする。

4.
大きな赤い鳥居。日が暮れ始めている。木々が生い茂る中、『鷲子山上神社へようこそ』の看板。至る所に梟の置物。
多美は、カブを手押ししながら鳥居手前の駐車場に入ってくる。
「どういうことだよSUGIZO、お前ほどの男がよお!」
駐車すると、多美はヘルメットを外す。
「修理出さんとかあ。やっぱ年には勝てないってことかねえ」
多美はヘルメットをカブのハンドルにかけると、鳥居をくぐって境内へと入っていく。

境内には、お守りなどを販売する売店や小さな飲食所が並んでいる。多美は更に小さな鳥居をくぐり、その先の石段を上る。ぜえぜえと息が荒い多美。
「身体の鈍り方が尋常じゃねえよ、高校時代ならこんな石段、うさぎ跳びだって上れたのによお」
ブツブツと呟きながら石段を上る多美を、他の参拝者が避けてすれ違っていく。
石段を登りきると、目の前に金色の巨大な梟像。かつては硬派な参拝所だったこの神社も、集客を意識してかこのようにポップな御神体が建造されていた。
「時代だよなあ、子供のころは、こんなアッパーな仕上がりの神社じゃなかったのに」
しみじみとした表情の多美は、金色の巨大な梟像の手前、『抜けずの杖』と書かれた立て札に目を止める。その横には、如何にもという雰囲気の杖。その先端は二つに割れ、中心には赤い球体が光っている。
「子供のころよく引き抜こうとしたっけ」
多美は設置された賽銭箱に小銭を入れると、柏手を打って目を閉じた。
「鷲子山上神社の神様、私にパワーをください。あと仕事、私に定職を用意してください」
長く祈りを捧げていた多美は目を開けると、金色の梟像を見上げる。
「梟だけに、不苦労ってか。はは…」
多美は抜けずの杖に「ポンッ」と手をやると、振り返って石段を降りようとする。すると後方で「ガシャンッ」という音。
「え、なに」
再び多美が金色の梟像に目をやると、その手前で杖が地面から抜け、倒れている。
「は? 抜けずの杖、抜けてんじゃん」
近づいてしゃがみ、杖を見つめる多美。瞬間、杖の根元の穴から白い煙が立ち上る。叫ぶ多美の前方上空で、煙が人のシルエットを形作っていく。
「よくぞわしの封印を解いてくれた」
「え? え?」
困惑する多美。シルエットはどんどん明確になり、色を帯びていく。頭頂に何か鋭利なものが見えだしたころ、その口元が再び動く。
「わしはかつて宇宙から来たりし悪と戦いし神鳥、アメノヒワシノミコ…」
「うわあぁああああああああ!!!」
多美は倒れた杖を手に取ると、叫びながら杖が差さっていた場所に思いっきり突き刺す。
「は?」
すると、煙は杖の下に急激に吸い込まれ、辺りは再び平穏を取り戻す。
「何なの、こわ、こわ〜」
多美は慌てて石段を駆け下りる。周囲は暗くなっている。

5.
街頭の下、水色の乗用車が停車している。岬が運転席のドアを閉めると、助手席に多美が座っている。岬はシートベルトを閉め、車を発進させる。
「ごめんね、急に迎え頼んだりして。トラボルタ動かなくなっちゃって」
「全然いいよ、それより大丈夫? 何があったの?」
「いやそれがさあ、私もついに見える人になっちゃったのかも」
「どゆこと? 幽霊? 幽霊見た感じ?」
岬は、少しウキウキした様子で話を聞いている。
「いや、あれはもっとやばいやつだよ、多分だけど、悪い神様とか、そういう類だと思う」
「悪い神様?」
「うん、境内にさ、抜けずの杖あるじゃん」
「ある? そんなの」
「子供の頃あれ掴んでみんなで抜こうとしたじゃん」
「何そのRPGみたいな思い出、私そんな思い出ないよ」
少し悔しそうな表情の岬。
「無いんかい。まあいいや、とにかくあるのよ境内に。それがさ、私ちょっと触ったら抜けちゃって」
「それ、RPGだと勇者として旅立つやつじゃない?」
「いや、旅立つつもりはないんだけどね、でも抜けちゃって。そしたらそこから煙出てきて」
「それ、RPGだと勇者として魔王と戦う流れの」
「みーちゃん!」
「あ、ごめん、RPGの話かと思って」
「みーちゃんそういうところあるよね、RPGと可愛い服の話になると急にテンション爆上がりになるから」
「ごねん、続けて」
「うん、そしたら煙が人の形みたくなって。そしてその存在が言うの。『よくぞ封印を解いてくれた』」
「RPGじゃん!」
「みーちゃん! はーなーし! 話すすまないから!」
「ごめん」
「もういい」
車内が静寂に包まれる。
「…たぶんあれ、悪い神様の類だと思うんだけど」
「続けるんだ」
「でもなんか変なこと言ってた、宇宙から来たりし悪がどうとかって」
「宇宙から?」
岬の表情が変わる。
「うん、なんとなく世界観の統一がなってないっていうか、漫画の編集さんとかに見せたらきっと、よく分からないとか古いとか言われるやつだと思う」
「宇宙から…」
岬は顎の下に指をやると、思慮深そうに眼を細める。
「みーちゃん、もしかして今何も考えて…」
「多美」
「はい!」
「あの、もしもなんだけど、多美が何かまた危険を感じたら、遠慮しないですぐに私に連絡して」
「どしたの急に」
「本当に遠慮しないで、少しでも危ないなって思ったら。もしかすると私、力になれるかもしれないから」
「どゆこと?」
「お願い」
「……分かった」
眼を細めた岬が車の窓ガラス前方を見つめている。

ゲコゲコと蛙の鳴き声が聞こえる。多美は中学時代のジャージ姿。部屋で、布団に横になっている。
「何だったんだろ、もしやあれが白昼夢という」
多美は布団から起き上がり、何かを探し始める。
「漫画のネタに使えるんじゃね? メモ、メモ帳。……いや、もう持ち込みとか関係ないんだった」
多美は布団に戻ると天井を見つめる。
「仕事探さなきゃなあ」
眼を閉じる多美。「仕事探さなきゃだなあ」と繰り返すうちに、眠りに落ちている。

6.
朝。小鳥が鳴いている。鳴き声の中にブーブーという振動音が混ざる。
掛け布団の上に寝ている多美が眼を開けると、スマホのバイブ音に気づく。多美は起き上がり、スマホを手にする。すでにバイブ音は止まっている。ディスプレイには「佐々木岬」の着信が複数回。
「みーちゃん?」
顔を上げる多美。するとそこに、何か居るのに気づく。赤い球体が光る杖がまず目につく。続いて、それを手に胡座をかく、袴のようなものを身に纏った、大柄な中年男性の姿。ダンディな顔立ちだが、頭にはシマフクロウを思わせる、まるでツノのような鋭利な耳。
「うわ、うわああああ!!!」
「起きたか」
「母さん! 母さーん!」
「安心しろ、お前の母親ならミョウガを獲りに畑に向かった」
「ミョウガを獲りに畑に! 安心できないじゃん!」
「わしは鷲子山上神社の神、アメノヒワシノミコト。どうだ、安心を感じるだろ」
「安心は感じない、恐怖を、いま恐怖を感じてる」
「いいか聞け、魔法少女の血を引きし者。この町が危ない」
「この町? 何言ってんの、私32だよ?」
深呼吸をし、思考する多美。
「もしかして、私が考えてたのとは違う種類のやばい人ですか?」
何かの気配に気づき、舌打ちする大柄な男。怯える多美。
「説明している時間は無いようだ、逃げるぞ」
「は? うわあ!」
大柄な男に抱き抱えられる多美。
「待って、怖い怖い人さらい怖い!」
多美を抱き抱えた男は、しばらくその状態で立っていたが、ゆっくりと多美を床に降ろす。
「まだ本来の力が戻っていないようだ」
「重かったってことですか」

玄関を飛び出る男。家の中から多美の声。
「SUGIZO、神社に置いてきてるんだった! 待って、いま軽トラの鍵持ってくるから」
「何でもいいから早くしろ!」
中学ジャージ姿の多美が、玄関から出てくる。
白の軽トラに乗り込む多美と男。
「この白い箱は動くのか?」
「動きますよ、てかマジで不審者怖いんであんまり喋らないでください」
「…….」
「怖いんで何か話してください!」
「早く発進させろ!」
「シートベルト!」
「見ろ」
「え?」
男が指差す先、アスファルトの道の上に、鉛色の何かが立っている。手には書籍、背中に何かを背負っている。
「金次郎像?」
書籍に目をやっていた金次郎像が顔を上げると、大きく腕を振り、駆け出す。男が叫ぶ。
「動かせ! 早くしろ!」
慌ててエンジンをかける多美。車庫から急発進した軽トラが公道に出る。多美はアクセルをベタ踏みする。
「なんで金次郎? 何この状況!」
「絶対に捕まるな! いまのお前のレベルじゃ戦っても死ぬ」
「戦わないし! それにレベルとか、ゲームかよ!」
後方を気にする男。金次郎像が振りかぶり、手にした鉄の書籍を投げる。軽トラの後部にぶつかり、車体が凹む。
「怖い! 死んじゃう、死んじゃう!」
金次郎像は背中から鉄の薪を取り出すと、再び振り被る。薪が軽トラをかすめる。
「ねえ! なんなのあれ! なんで私、追われてるの!」
「あれは宇宙王のコマだ」
「宇宙王? 待って、ネーミングセンス酷くない?」
「追われている理由は明白。お前が血を引いているからだ」
「血ってなんの血よ」
「魔法少女の血だ」
「いや、宇宙王のネーミングセンス酷くて全然入ってこないんだけど!」
金次郎像が再び振りかぶった薪が、軽トラの後部タイヤに直撃、タイヤがパンクする。
「いやあ!」
軽トラは、バランスを崩しながら空き地に突っこむ。

7.
空き地。小さな五輪の塔が建っている。停留所の看板があり、錆びて茶色くなっている。そこには『停留所・五輪場』とある。
軽トラから降りる多美と男。金次郎像が迫っている。男が口を開く。
「仕方ない、戦うか」
「戦っても死ぬってさっき言ってたじゃん!」
「抵抗せず殺されるのか?」
「……」
男は、多美に杖を渡す。
「変身しろ」
「変身?」
「杖を天にかざし、力ある言葉を口にしろ」
「力ある言葉って、どんな」
「人によって違う。お前の、魂の言葉だ」
「LUNA SEA」
「違う、魂だ」
男は、地面を蹴り、飛ぶ。しかし、一時宙を舞うが、すぐに着地してしまう。
「やはり鈍ってるな」
男は駆け出す。金次郎像、薪を手に殴りかかる。一瞬宙を舞い交わす男。
「早くしろ! 変身するんだ」
「待ってよ、魂の言葉なんて……。へんしーん! 定職につきたーい! ……お金欲しーい! 漫画家になりたかったー! ……ダメじゃん、分かんないよ」
金次郎像、男と感覚を開けると、急にサイドスローで薪を投げてくる。交わせず、負傷する男。
「神様!」
瞬間、多美の脳裏を映像が駆ける。
  *
TV画面にはアニメ。
膝をつくエリーに対し、野球大好き男が叫ぶ。
「お前も魔法を信じろ!」
「魔法を、信じる……」
立ち上がるエリー。指輪に口づける。
「もう一度。マジカル・スウィートメロディ、プリズムチェンジ!」
眩い光がエリーを覆う。
  *
空き地。意を決した多美が、杖を天にかざし、叫ぶ。
「マジカル・スウィートメロディ、プリズムチェンジ!」
多美の身体が光を帯びる。男が叫ぶ。
「よし!」
多美を中心に、長方形の空間が形成される。空間の前方から覗いていた多美の姿が、上空から降りてきたレースのカーテンによって閉ざされる。レースの間から、光が漏れる。
「ラブ&ガッツ、ア〜ンドキュート」
カーテンが開く。中から、ピンク色のドレスを身に纏った多美の姿。
「私が、私こそがあ、魔法少女、プリンセス・タミー! 阿弥陀如来に変わって、天誅!」
「阿弥陀如来!?」
男は訝しげな表情。
「できた、変身! げ、やっぱピンクかよ〜」
金次郎像、薪を振りかぶり投げる。
「避けろ!」
多美、あわあわ言いながら避ける。
「神様! 次はどうしたらいい?」
「杖の先端をそいつに向けろ! そして叫べ! 力ある言葉を!」
「またそれ?」
再び金次郎像、薪の投擲。多美交わす。
「でも分かるよ、もう分かる気がする」
多美、杖の先端を金次郎像に向ける。
「マジカル・タミー・スプラッシュ!」
多美の杖の先端から、蛍のような光が飛び出す。光、金次郎像に直撃。
「どう!?」
金次郎像、ノーダメージ。
「ダメじゃん!」
「ダメか」
男、多美に駆け寄る。
「逃げろ」
「無理じゃん、あいつ車でも追いかけてきたのに」
「わしが食い止める」
「神様、強くないでしょ!」
「いいから早くしろ!」
「でも」
金次郎像、左右に薪を一本ずつ持つと、めちゃくちゃなフォームで投擲する。
多美、男、交わせず、目を閉じる。
バギャッ、という音がこだまする。何かが地面に落ちる音がする。一つ、二つ。多美は口を開く。
「終わった……」
「大丈夫、間に合ったから」
「え?」
多美は、聞き覚えのある声に、目を開く。そこには白と青を基調に、ふわりと華やかな衣装の岬。青く輝く日傘のようなものを、金次郎像に向けている。地面には薪が二つ転がっている。
「みーちゃん、なんで」
「話はあとだよ」
岬の肩から、黒い猫が姿を表し、地面に降りる。黒猫の首にはコルセット。
「まずはこいつを倒そう!」
「しゃべる猫! いやなんか首!」
「僕の名前はテトラ。岬の使い魔だよ」
岬は、青く輝く傘をかざしながら、サクサクと金次郎像に近づく。
「みーちゃん気をつけて! そいつは」
金次郎像、薪の投擲。岬が叫ぶ。
「アンジェリック・プリティ!」
青い傘の光が増す。薪は、傘にぶつかると跳ね返り、金次郎像目がけて襲いかかる。バキッ、という音とともに直撃し、鉛色の身体にヒビが入る。
「強っ」
「今回は相性もいいよ。彼女は本来、防御特化型の魔法少女だから」
感嘆する多美に、テトラが答える。
金次郎像、再び振りかぶり、薪を投擲。岬の傘が輝く。薪は金次郎像に跳ね返り、左肩に直撃、肩から下が地面に落ちる。
「レベルはいくつだ?」
腕を組みながら男がテトラに話しかける。
「7だね」
「ほう、相当な熱量を消費したな」
「なに言ってんの」
金次郎像、背中に手をやるが、既に薪のストックが無い。岬が前に出る。
「ここまでのようね、宇宙王のコマ」
「宇宙王……」
苦々しい表情の多美。
瞬間、金次郎像は跪くと、地面に落ちた自らの片腕を手に取る。横投げでその腕を、多美・男・テトラに向け投げつける。
「うそでしょ」
呟く多美。金次郎像はそのまま地面に倒れると、バラバラになり崩れ去る。慌てて3人を守る岬。岬の傘がすんでのところで金次郎像の攻撃を弾く。
「良かった」
ほっとした表情の岬。バラバラになった像から、地面を這うように黒い影が移動し、その場から消える。
「逃しちゃったけども」
「ポンポコポンポンポーン♪」
ビクッとする多美。多美が振り返ると、虚ろな瞳で男が言葉を発している。
「多美の消費カロリーが規定値に到達、多美はレベル2になり今ここに立つ。新しいマジカルを手中にして、唱えろ、それマジに集中して」
「だ、大丈夫?」
「多美は新しい魔法『ハイブリッド』を手に入れた」
「なんか手に入れたけど、怖い……」

 

【以降、多美一人称】
8.
朝。例によって小鳥のさえずり。私の実家のビニールの車庫の中には凹んだ軽トラが停まっている。なんでこうなったのか、なんでこんなことになってしまったのか。私は知っている、こいつのせいだ。
私は布団から出ると、こたつテーブルの前にしゃがんでいる大柄な男に目をやる。白の羽織に黒の袴。頭には冗談みたいな尖った耳が生えている。
くそが、私の平穏を奪いやがって。そう思って眺めていると、何かペラペラと紙が捲られる音に気づく。おっさんが私の描いた漫画を読んでた。
「ああ! 鷲子さん勝手に読まないでよ!」
「だ〜れが鷲子さんだ! わしは鷲子山上神社の神、アメノヒワシノ…..」
おっさんが長い本名をその口から垂れ流しているうちに原稿を取り返す。私がポンポンをペインして産んだ作品、私の子供だ。私の子供がニイハオと言って帰ってくる。ありがとう、僕の君たち。私は原稿用紙に頬ずりをした。
「でもあれだな、お前はなかなか絵心があるな」
「ええ? ある? 絵心ある?」
おっさんが急に褒めてきた。どうしよう、だいたい男が急に褒めてくる時というのは相場が決まっていて、私に対して愛とか恋の感情が芽生え始めた時だ。言うても、確かに私はなんて言うんだろ、そりゃ見た目は派手じゃないですけど、ほらあるじゃないですか、笑顔? こう、男をさ、勘違いさせちゃうところがあるんだろうね、いや私はみんなに優しくって思ってるよ? コンビニの店員さんとかにも同じようにね、みなさん楽しく働いて欲しいじゃないですか。でも私の根源的な魅力? リビドーを喚起させるそういった力が自然と働いていて、結果として寄って来ちゃうのかな虫が! 私は警戒しつつおっさんの次の言葉を待つ。
「話の筋はよくわからんが」
はぁ? なんだこいつ。そっちこそ分かってほしいのに。
「そっちこそ分かってほしいのに!」
「いやまずこの冒頭の作中作、いるかこれ」
「なに言ってんの! いるに決まってんじゃん! 中盤と終盤で回収するんだよ!」
「だいたいアマチュアが作中作みたいな難しいことやるとすべるんだぞ」
おっと、この野郎、とんでもねえところに踏み込んできやがった。私はGペンを強く握ると叫ぶ。
「お? 批評家きどりか? よろしい! じゃあ戦争だ!」
瞬間、勢い良く引き戸が開き、私のママんが顔を出した。
「なに、あんたどうしたの、大きな声だして」
「え、いや、あの」
「寝ぼけたの? 朝から勘弁してよ全く。軽トラはぶつけるし、無職だし。我が娘ながらほんとに」
ママんが部屋から去っていく。なに、どういうことだってばよ。
「安心しろ、わしの姿は普通の人間には見えん」
「アニメとかでよくあるやつ!」
アニメとかでよくあるやつだった。問題は、このおっさん、私の使い魔が、全然可愛くないところだ。

9.
私は車庫で、軽トラの後部タイヤを交換している。そういった工具を使って、なんやかんやあれするのだ。私のその様子を、腕組みしながら鷲子さんが見守っている。なんでやねん、手伝えや、でかい図体しやがって。
タイヤ交換を終えると、私は手にしたバックと一緒に運転席に乗り込む。鷲子に助手席に乗るよう、ジェスチャーを送る。
鷲子が乗ってくる。でかい図体のせいでぎちぎちの車内。私は鷲子に杖を要求する。鷲子は胸ぐらに手を突っ込むと、折りたたみ笠くらいのそれを取り出した。
「どこ仕舞ってんだよ! あとちっちゃくなってんじゃん」
不安になり聞く。
「安心しろ。抜けずの杖は伸縮式だ」
そういうと、なんか小学校の時に流行った伸び縮みするボールペンみたいな、そういうノリで杖がニョキニョキと伸びた。
「新しい!」
私は新しさを感じて、思わず叫ぶ。私という女は何かことあるごとに急に叫んでしまう存在で、それ故にこれまで何度も転職を繰り返してきました。恥の多い人生です。
鷲子から杖を奪うと、大きな声で力ある言葉を口にする。
「マジカル・スウィート・メロディ、プリズムチェンジ!」
車内を眩い光が覆う。長方形の空間が私の周囲に生まれるが、車内なので歪になり、なんか着替えに時間がかかる。
「目がー! 目がー!」
鷲子が何か呻いている。私は頑張ってピンク色のドレスに着替えると、光が徐々に収束し、目の前が開けた。バックの中から中学ジャージを取り出し、衣装の上から着る。鷲子が目をしぱしぱさせながら言う。
「なぜそんな煩わしいことを」
このおっさん、何十年杖の下に眠っていたのかしらないけど、社会常識が無くてしんどい。
「あのねえ、不審者でしょ、この歳であんなショッキングピングのドレス着て、こんな過疎が進んだ町闊歩してたら」
「歳は関係ないだろ」
「関係あるよ! 私、32だからね?」
「お前、まあまあいい歳だな」
「今の時代余裕でお姉さんだけどね!」
私はそういうとだるいのでとりあえず軽トラのキーをギュわんと回した。これから私たちは行くのだ、この前倒した金次郎像から逃げた、黒い影を見つけに。そしてぶっ飛ばす! 平穏を取り戻すために!

10.
話は、金次郎像を岬がやっつけたその日の夜に巻き戻る。私は、口頭では岬のことをみーちゃんと呼ぶが、脳内音声では岬だ。岬はみーちゃんで岬なのだ。みーちゃんはかわいい。結婚!
私はみーちゃんのマンションの部屋で、みーちゃんの本棚をジロジロと見ていた。あ、さっき脳内音声は岬だって言ったのに、みーちゃんって言っちゃった! そういう感じでやっていきたいです。やっていくぞ!
岬の本棚には『ゴシック&ロリータバイブル』や『KERA』といった雑誌が並んでいる。部屋の隅にはマネキンに着せたロリータ服。そう、岬はこの馬頭町というクソ田舎が誇る、いわゆるロリータさんだったのだ。岬は、ファッションモールすら無いこの町で、中学の頃からロリータ服を身に纏い、なんだかんだ勉強も出来た。私が言う。
「すっごーい、ひっろーい」
「そりゃ、東京の時の多美んちに比べればね」
「なんだその魔法少女のような衣装は」
鷲子がマネキンを見ながら言う。私と岬の空間に首をつっこんでくるとか、やばい。中学のころの男子だったらボコられてるところだ、私に。
「でも着てたよね〜これ。やっぱそう考えると今は落ち着いたよね」
「うん、もう家でしか着てないよ、完全に在宅ロリータだから。あ、待って、お茶入れてくるね」
そう言うと岬は、キッチンに向かって歩いて行った。岬はその後ろ姿も可愛い。私が仮に男だったら、その後ろ姿だけで劣情が喚起され、河村隆一のglassを歌い出してしまうところだと思う。
岬が茶をしばく準備をしている間、なんとなく本棚を見聞する。並んでいるファッション誌をごっそり抜き取ると、背後から『RPGにおける古今東西の武器』、『RPG神話体系』などの書籍が顔を出す。私は鷲子とは違ってデリカシーがあるので、そっと雑誌を元の場所に戻した。
「ごめんね〜、ビール無くて」
そう言いながら岬が一升瓶を持ってきた。この町の地酒『馬の力』である。岬は基本的にナチュラルに狂っていて、そういうところが好きだ。
「僕はミルクがいい」
岬の使い魔、テトラが顔を出す。
「猫はやっぱ牛乳なんだねえ」
「僕は猫ではないけどね」
「じゃあ何なんだってばよ?」
ちょっとイラッとして聞くと、テトラが語りだした。
「向こうの世界では『魔獣テトラ』と呼ばれていたよ。『テトラ』というのは呼称であり、総称でもあるんだ」
「よく分からないけど、別な世界から来た的なこと?」
「そうだね、私はこの世界の出自では無い」
「へー、猫にしか見えない。あれ、でも鷲子さんはこっちの神様じゃないの?」
そういって鷲子の方を見ると、美味そうに馬の力を啜っている。表情だけでわかる、酒で失敗するタイプの男だ。私の使い魔しんどい。
岬が言う。
「テトラは先代の魔法少女の頃からの使いなんだって。使い魔の中でテトラだけ特殊みたい」
「使い魔?」
この時の私は使い魔について無知だったので素直に聞いた。
「君たち、魔法少女それぞれのパートナーだよ。協力し、補い合う存在さ」
「じゃあ私のパートナーがこのおっさんってこと?」
「誰がおっさんだ! わしはアメノヒワシノ」
「そうだよ。彼は私がこの世界に来て、協力を願った4人の土地神の一人さ」
「私のパートナーも猫とか、モフモフしたのが良かった〜」
そう口にすると、鷲子がおもむろに羽織をめくり、ややモフモフした胸板を晒してきた。基本が梟の神様なので、毛深いのだ。
「どうだろ、他に多美が知りたい情報はあるかな?」
テトラが鷲子を無視して続ける。ナイス。
「そういえば、金次郎と戦ったあと、このおっさんなんか言い出したじゃん。なにあれ、レベルが上がったとかって。怖かったんだけど」
「ああ。あなたたち魔法少女は、返信時間中に消費した熱量に応じて、レベルが上がるようになっているんだ」
「変身時間中に消費した熱量」
「平たく言うとカロリーだね。魔法少女は、カロリー消費に応じてレベルが上がる」
なるほどどですね。私はごくりと生唾を飲む。もうこの時点で私は、日本酒を呷りたくてしかたなくなっていた。

11.
蝉が鳴いている。私は軽トラを走らせている。助手席には鷲子。鷲子さんさは、杖を伸び縮みさせながら窓の外を眺めている。
「ねえおっさん、私、この前レベル上がった時、なんか覚えたでしょ? あれなに覚えたの?」
「しらん」
あ”? 聞き違えかな、私はもう一度聞いてみる。
「私この前レベル上がって、何か覚えたじゃん、あれなに覚えたの?」
「しらん」
嘘でしょ、ちょっと待って。私はこめかみを片手で押さえながら、もう一度聞く。
「レベル上がって私はなに覚えたの?」
「知ってるがしらん。わしをおっさん呼ばわりするような、失礼な奴には教えん」
まじかよこいつ、まあまあ面倒くせえな。
「ちょっと、じゃあ神様、神様少しあれじゃない? 器小さくない?」
「小さくない。むしろでかい」
窓の外を眺めながらおっさんが答える。杖を伸び縮みさせるその動きが、やや速さを増す。心理状況把握しにくいな。私はアプローチを変える。
「じゃあ教えてよ〜、でかい器の鷲子の神様〜、教えてよ〜」
「お前、人の神経を逆撫でするところがあるな、いい歳して」
かっちーん。お、いる? 最後のいる?
「ああ! 歳は関係ないんじゃなかったでしたっけ〜、魔法少女に歳は関係ないんじゃなかったでしたっけ〜」
「ああもう煩い奴だな、いいか、あれは『ハイブリッド』だ。お前たち、魔法少女の基本戦術となる魔法だよ」
「何それ」
私は素直に聞く。何それと思ったからだ。
「使い魔の力を借りることが出来る」「使い魔の。てことは、おっさんの力を借りれるの?」
「そうだ。わしの力を使える。って誰がおっさんだ!」
おっさんが、おっさんらしく、古いツッコミを返してくる。どうしてもおっさんというのは、こういうことになってしまう。てかおっさんの力借りれるって、シンプルに微妙だと思う。だっておっさん弱いし。
そうこう言っているうちに、金次郎と戦った停留所、五輪場に私たちは辿り着く。

12.
昨夜の多美のマンション。私はまあまあ酔っていた。岬は台所で洗い物をしているし、鷲子は横になっているし、テトラは素面で語っている。
「魔法少女に年齢は関係ないんだ」
テトラが言う。私は酔っているので、そうなんだ〜と思いながら聞いている。相変わらずテトラは首にコルセットをしていて、それが気になる。
「それより、なんで首に白いの巻いてるの?」
「これはね、頚椎のヘルニアなんだ」
「そっか〜」
酒で脳がやられた時の、生産性のないやりとりが心地いい。
「何なら別に性別も関係ないんだ。さらに言えば人間である必要もないし、生命体である必要もない。存在が認められている概念であれば、何だって魔法少女になる可能性を秘めているんだ」
何か難しいことを言われている感覚がある。常々思っているのだが、酒が入っている時に難しいことを言ってくる人の気がしれない。ぽわ〜んとしか入力されないので、長い文字列が耳に入った段階で逆の耳から「ぽわ〜ん」という感じで抜けていく。
「そうなの〜、でも少女っていうじゃん」
「それは私たちの戦いを見た、こちら側の人間が言い出した呼び名だから。実際、先代の魔法少女も、あなた達くらいの年齢だったし」
「へ〜、そういうもんなんだ」
「お前達に比べると、あいつらの見た目は幼かったけどな」
鷲子が横になりながら答える。
「向こうにお人間は小柄だからね」」
私は聞きなが理解する。つまり先代は、テトラと一緒に平行世界からこの世界に来て、その小柄な見た目で宇宙王のコマと戦っていたと。漫画じゃん。あと宇宙王ってネーミングセンス酷っ。
「ゴシック&ロリータバイブル〜、それにKERA!」
岬の突然の大声で、私はビクッとして振り返る。眩い光。そこには魔法少女に変身した岬の姿。
「なんで?」
「変身してる間のカロリー消費しかカウントされないから、部屋ではなるべく変身しとくことにしてるの」
「そうなんだ、てか力ある言葉」
「私の魂の言葉、あれだった」
岬が笑うので、私も笑った。RPGの方じゃなかったんだな〜とか思いながら。テトラは素面の顔でミルクを舐めていた。

13.
停留所、五輪場。
私と鷲子に続いて、岬の車が停まる。ドアが開き、岬とテトラが出てくる。
4人で辺りをウロウロするが、すでに金次郎の残骸は消えており、手掛かりになるようなものは見当たらない。鷲子さんが、神妙な顔で膝をつき、地面をゆったりと撫でる。私は聞く。
「どう、何かわかる?」
「いや、何も分からん」
「ええ、じゃあなんで神妙な顔してたの?」
「意識はしてなかった」
「意識はしてないんだ、腐っても神様だね」
無駄に雰囲気が有ったので私が感心していると、テトラが叫ぶ。
「まずいよ」
「どうしたの猫ちゃん」
岬が急にテトラを猫ちゃん呼ばわりする。正しいが、こういう時に本来の関係性というのは露わになる。
「どうやら境内に入られたみたいだな」
鷲子が相変わらず神妙な表情で立ち上がる。
「いくぞ、鷲子山上神社だ」
そういって鷲子が軽トラの助手席に乗った。

14.

神社境内。黒い影が地面を這う。赤い鳥居をくぐり、そのまま長い石段を登っていく。参拝客がそれに気づき、悲鳴が上がる。
私は軽トラを停め、ジャージ姿で走っていた。岬と、おっさんと、猫と、走る。
黒い影は石段を上り終え、巨大な梟像に辿りつく。にゅるりとその身体を像に重ね合わせると、同化を始めた。巨大な梟像の翼が、徐々に開いていく。
「HO〜」
間抜けな鳴き声をあげ、翼が開く。参拝客は一斉に逃げ出す。その中に、黄色い眼鏡の男の姿。ハロワの職員だと私は気づく。いや、いらないでしょこのモブキャラの回収。
「くそ、わしを模した像が」
「全然模してないじゃん!」
「岬、多美、変身だ」
テトラが言う。小動物に支持されるのは尺に触るが、そんなことを言っている場合ではない。私は叫ぶ。
「マジカル、スウィートメロディ、プリズムチェンジ!」
岬が続く。
「ゴシック&ロリータバイブル、それにKERA!」
光を帯びる岬。私は身構えていたが、変身できず。え、失敗? 不安にかられるが、そういえば私、軽トラの中で変身済みだったわ。いそいそと中学ジャージを抜ぐ。そんな私に、ハロワの黄色眼鏡が気づく。
「君は、確か」
鷲子、瞬時に黄色眼鏡に手刀。気絶する男。この流れでモブキャラに時間割いてる場合じゃねえんだよ! あのなあ、締め切りって知ってるか? あぁん?
「ポンポコポンポンポーン」
鷲子が急に背筋をただすと、虚ろな瞳で口を動かす。
「多美の消費カロリーが規定値に到達。多美はレベル3になり今ココに立つ。より強いマジカルを手中にして、放てよ、自らを肯定して! 多美は新しい魔法、『ラビットファイア』を手に入れた」
怖ッ。私は口に出さず、問う。
「なに? 私今度は何覚えたの?」
鷲子が真人間の瞳に戻り答える。
「連写だ」
「金次郎の時の、豆鉄砲みたいなのの?」
「多少、火力も上がってる!」
「HO〜〜」
巨大梟像の咆哮がこだまし、変身した岬に向かって、空中から突進する。
「アンジェリック・プリティ!」
岬、光の傘発動。テトラが叫ぶ。
「無理だ、逃げろ!」
「なんで!?」
光の傘を投げ捨て、慌てて回避する岬。巨大梟が落下した地面が、大きく陥没する。
「強い……」
岬がつぶやく、はあ? 私の岬に! 私は覚えたばかりの魔法を発動させる。杖を梟像に向け、力ある言葉を放つ。
「タミー・スプラッシュ! ラビットファイア!」
私の杖の先端から、複数の光弾が放たれる。そして、巨大梟直撃。辺りを爆煙が立ち込める。
「どう?」
煙が消えると、ほぼノーダメージの巨大梟。
「相変わらずダメじゃん! 私弱くない?」
「あいつが強いんだよ!」
テトラが答えた瞬間、私とテトラと鷲子めがけて、梟像が飛び込んでくる。三者、なんとか交わすが、勝ち筋が見えない。でも私は気づく。この像、飛べると見せかけて、出来るのはジャンプだけ。空中を長く飛ぶことは出来ないみたいんだ。私は岬に言う。
「長くは飛べないみたいんだよ!」
「あの巨大だからね」
直後、巨大梟は翼を広げ、その金色の翼を大きく震わす。
「HO〜〜」
翼から、複数の金色の羽が襲いかかる。
「アンジェリック・プリティ!」
岬、光の盾を発動、3人をガードする。しかし、後方に押しやられ、光の盾消失。私は岬に守られながら思う。無理じゃないこれ。
「ねえ、勝てんのこれ」
「難しいだろうな」
鷲子が言う。
「ええ! やだ!」
「このままじゃ、だけどね」
「いや! 可愛くない!」
テトラの言葉に、岬が返す。
「岬! 今はそんなこと言ってる場合じゃない」
私はおどおどと二人のやりとりを眺めている。何、どういうこと
巨大梟、再び金色の翼を広げ、大きく震わす。
「アンジェリック・プリティ!」
光の盾発動。羽の攻撃を受け、即座に粉砕。
私は思う。これ、死んじゃう!
「ねえ! 一旦逃げようよ! こんなの、勝てっこないよ!」
「どうする岬、逃げるのも手だ、でもその場合、きっとたくさんの犠牲が出るよ」
「……」
瞬間、私は気づく。巨大梟の進行方向、その先に、気絶したハロワの黄色眼鏡が倒れていることに。おいおいモブのくせに。私は、気づくと駆け出していた。岬の声が背後から聞こえる。
「多美!」
私は黄色眼鏡を抱き起こすが、巨大梟が空中から飛び込んでくる。私は思う、「終わった」。考えてみりゃちょっと前の金次郎の時もこんな風に思ったっけ、はは、まさかこんな形で人生の結末を迎えることになるなんて。背後で、岬の声が聞こえる。
「テトラ、やって!」
「わかった! ハイブリッドだ」
テトラが岬に向かって飛び込むのが見える。何かしようとしているのは分かるけど、もう遅い気がする。巨大梟が間もなく私に襲いかかる。さよなら、母さん。無職のまま天に召される私を許して。あと漫画、私の描いた漫画は誰にも見せずに燃やしてください。棺桶になんて入れなくていいんだからね。

「シャー!!!」
刹那、私の走馬灯的なにかを遮り、四足歩行の岬が目の前に現れる。そのまま、巨大梟に対して襲いかかると、左右の殴打を繰り返す。私は一瞬あっけに取られるが、黄色眼鏡を引きずって、鷲子のところまで逃げる。
「なにあれ、岬が!」
「ハイブリッドしたんだ」
鷲子が答える。
「使い魔の力を借りるっていう?」
「そうだ。岬は本来、防御特化型の魔法少女。それがハイブリッドし、今は猫の身体能力を手に入れた」
「猫の身体能力」
え、やっぱテトラって猫なんじゃん、そんなことが脳裏をよぎるが、流す。
岬は拳の先から爪のようなものを出すと、巨大梟に飛びかかる。梟像、翼で身体を覆いガード。直後、岬めがけて飛びかかる。避ける岬。距離が離れると、巨大梟、翼を広げ羽を飛ばしてくる。岬、交わすが、少しずつダメージを受けているのが私からも分かる。再び岬は飛びかかるが、梟像は翼で身体をガードしている。
「隙を作る必要があるな」
「どうしたらいい!?」
私は鷲子に言う。
「ハイブリッドだ」
おっさんと! でもそんな場合じゃない。私は答える。
「わかった」
鷲子、小さく頷くと、多美に向かって飛び込む。多美の杖の赤い球の中に、鷲子が消える。
「で、鷲子さんの力ってなに?」
「決まってるだろ、鷲子の神であるわしの力といえば……」
杖の中から声に、多美、薄く笑う。

15.
鷲子山上神社、上空。
私は、杖にまたがって、境内の上空を飛んでいる。
「凄! あ、富士山! 富士山が見える!」
「今はどうでもいいだろ!」
おっさんが杖の中から、至極まっとうなことを言う。
「了解だよ!」
私は素直なので素直に答え、巨大梟を見据える。

地上では、岬が梟像と対峙している。荒い息を吐く岬。私は、腹の底から声を出す。
「岬ー!! 離れて!!」
「多美?」
岬が一瞬、普段の表情を見せる。私は、人差し指を天にかざし、言う。
「ラブ&ガッツ、ア〜ンド、キュート!」
目をつぶった私の瞼の裏側では、プリンセス・エリーのアニメが流れている。

  *
眩い光がエリーを覆っている。光がやむと、エリーはピンク色のドレス。
「ラブ&ガッツ、ア〜ンド、キュート。私が、私こそがあ、魔法少女、プリンセス・エリー! 阿弥陀如来に変わって、天誅!」
怪人が叫ぶ。
「おのれこしゃくなあ!」
エリー、人差し指を天にかざしている。
   *

私は、喜色満面の笑顔で、人差し指を天にかざしている。
「衛星軌道上からのマジカル〜」
巨大梟像が、私の方を見る。私は、力ある言葉を口にする。
「タミー・スプラッシュ! ラビットファイア!!!」
私が人差し指を振り下ろすと、またがった杖の先端から、光弾が連続して発射される。私は繰り返す。
「タミー・スプラッシュ! ラビットファイア!!」
私は繰り返す。
「ラビットファイア!」
地上では爆煙。
「どうっすか」
私は、なんか力全部使った感があって、もう無理という心境。煙が消えると、よろめきつつも私に向け、翼を広げる巨大梟の姿があった。
「エリーになりきれない……」
今まさに私に向け羽を飛ばそうとする梟像の喉元向け、岬が襲いかかる。岬の拳の先からは、長い光の爪が生えている。
「ベイビー・ザ・スター・シャイン・ブライト!!」
岬の攻撃が、梟像の喉元を切り裂く。金色のその身体に、亀裂が走る。
私はそれを杖に跨ったまま、空中で見ている。杖の中から、鷲子の声が聞こえる。
「すまん、長時間の飛行はまだ難しいようだ」
「奇遇だね、私ももう無理みたい」
地上では、梟像が瓦解し、きその下から黒い影が逃げ出そうとしている。
空中でバランスを崩した多美は、地上にヘナヘナと落ちてくる。
多美が境内に落下すると、その杖の切っ先が、黒い影に突き刺さる。
黒い影の断末魔が響く。岬とテトラが駆け寄ってくる。
多美、大の字になり目を回している。多美の身体を守るように、鷲子が下敷きになっている。

16.
赤い屋根。『又見民』の表札が見える。庭には後ろ側が凹んだ軽トラックと、カブが停まっている。
布団のかかっていない、掘りごたつが見える。その奥で、布団の上に多美が横になっている。その横に、呆れ顔の多美の母。手には湿布を持っている。多美が言う。
「大丈夫だよ、自分で貼るから」
「そう? じゃあここに置いとくね」
多美の母は湿布を多美の枕元に置くと立ち上がる。
「全く、なんで働いてないのに筋肉痛になってんのよ、なんの運動したの」
「いや、まあ岬たちとちょっと」
「急に動くからよ。もうあんたもおばさんなんだから」
「はあ? おばさんじゃないし。むしろ、少女だし」
「なにをばかなことを。いいからさっさと治して、仕事探して。お金入れないようだったらうちからも追い出すからね。まったく」
多美の母が部屋から出て行く。多美は苦痛の表情。
「人が弱ってる時に。鬼かよ〜」
枕元の湿布を手にし、自らに貼ろうとする多美。いつから居たのか、いま来たのか。鷲子が現れる。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃねえよ、みりゃわかるでしょ」
ちょっと泣く多美。嘘泣きだが。泣きながら、湿布を貼ろうとする。
「なんだ、それを貼るのか?」
「そうだよ、鷲子さん貼って」
「たわけ、わしはこの町の神だぞ」
「けち」
「けちではない。むしろ気前はいい」
「ええ、じゃあお金ちょうだい」
「図々しいなお前」
「だって、この町の為に危険な思いして戦ったのに、母さんにはあんな風に言われるし、無職だし、かわいそうじゃない? 私」
「職は無いのかもしれんが、魔法少女は立派な使命だろ」
「でも給料出ないじゃん。使命が立派でも、給料出ないじゃん」
腕組みをして、神妙な表情の鷲子。
「なに、その無駄な神様っぽい雰囲気」
「……出るぞ」
「え?」
「ここだけの話だが、魔法少女は、給料が出る」
「……ちょっとそれ、詳しく教えてもらってもいいですか、神様」
鷲子の口元に、耳を近づける多美。
掘りごたつのテーブルの上で、杖の宝玉が光っている。

文字数:19780

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