梗 概
今日のラッキーワード
ユスフが育った海辺の港町では、国家の機能はすべて民営化されていた。立ち退き、隔離、借金整理。それらは「調整業者」というアルゴリズムの執行対象に過ぎない。住民はおしゃれなチョーカーを身に着け、当局が指定する「日替わりの短い言葉」を口にする。デバイスが声紋と胸の揺れを解析し、心拍が一定の範囲に収まった瞬間、手続きは「合意」として完了する。その直後、近隣で「調整」の完了を告げる破裂音が響き、対象物は消える。誰が執行者で、誰が、何が調整されるのか分からない。それがこの町の日常であり、ユスフだけがその「清算」の構造に戦慄していた。
彼はこの仕組みを止めるため、先進国の法工学大学へ留学する。そこで出会ったのが、契約書の余白からシステムの弱点を嗅ぎ取る天才ニナと、故郷の家族のために泥臭く働き続けるミナだった。ユスフは、祖国を愛し続けるミナの純真さに惹かれ、彼女を守るために力を欲する。一方、ニナは自分と同じ知性を持つユスフを独占しようとする。
弁護士事務所の極秘案件に参加したユスフは、故郷の仕組みの源流が、誰かが言い、胸の揺れが収まった瞬間にのみ、処理は通る。ここにあると知る。先進国において、そのシステムは「死刑の合理化」のためにのみ運用されていた。国家が手を汚さず、死刑囚自らに「死への合意」を唱えさせるプロセスの輸出。ユスフの祖国は、その技術の許容誤差を測定するための実験場とされていた。黒く塗られた輸出契約書の余白には、ミナの家族を含む名もなき人々を「負債」と定義する数式が並んでいた。
ある夜、ミナが消える。記録上は事故とされたが、黒塗りの契約書の余白に彼女の署名だけが「未処理のエラー」として残っていた。ユスフは気づく。毎日の合言葉は標語ではなく、先進国の株式市場の乱数と同期した「処理の合図」だった。真実に辿り着いたユスフは抵抗の施策を試みるが、即座に滞在資格を取り消され、帰国を命じられる。
迎えに来たのはニナだった。彼女はユスフに古いチョーカーと小型端末を渡す。それは逃げ道を装い、彼を破滅へと誘導する罠でもあった。ユスフは、自分がもはや人間ではなく、手順に従って処理される「データ」に堕ちたことを確信する。
変わり果てた祖国では、全員が合言葉を唱えていた。ユスフは悟る。力による抵抗は、さらなる管理の口実を与えるだけだ。彼は「逆」を選ぶ。
合言葉を唱える瞬間、わざと息を乱して生体反応を狂わせる。システムが「判定不能」の計算ループに陥った瞬間、彼は海へ身を投げた。心拍がゼロになったことで、彼の命は「永遠に合意されない未処理エラー」としてシステムに突き刺さる。残されたのは、不合意の手法を記録した濡れた端末と外れた輪。ニナはそれを捨てれば隠蔽できると知りながら、鞄の底へ沈める。彼が命と引き換えに遺した「システムの拒絶」を、最も残酷な愛の形として、自らの知性に飼い続けることに決めた。
文字数:1200
内容に関するアピール
仕事で格闘ゲームを作っているのですが、エンタメってなんだろうなぁと全然答えが出てきませんでした。
「死刑の民営化」もしくは「味の共感覚」をテーマにしてそれをもとにミステリーを目指していたのですが、社会の穴を潰していくうちに時間切れとなりました。結局、死刑の民営化を選びましたが、企画としてはもうちょっとこねくり回したほうがいいのではと思います。
最初のとっかかりは、こち亀の「不発弾とどけます」というタイトルから連想したものだったのですが、奇抜なSFらしさ、派手なアクションは3分の1くらいにして、人間ドラマが描ければと思います。ガンダムSEED序盤のドロドロ感を目指します。
文字数:287




