ハルシネーション調査員

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梗 概

ハルシネーション調査員

高度なセンシングデータと強化学習型AIが社会を支える2026年。介護用電動ベッドの製造工場で、製品の昇降機能が暴走し利用者が負傷する事故が発生した。AI・ロボットによるハルシネーション専門の保険調査員の城井美恵子は、パートナーのデータ分析アンドロイドであるディーゴと共に調査に乗り出す。工場の社長である遠藤は、東南アジアから派遣された研修用ロボットSRシリーズの学習プロセスに欠陥があったと主張し、製造元への損害賠償と保険金の支払いを求めていた。

美恵子は現場での聞き取りの中で、SRシリーズが口にした最適解という言葉に注目する。彼らは、安全確保よりも稼働効率を優先することがこの工場での正解であると学習していた。美恵子は、本来のプログラムが上書きされるタイミングが、週に一度行われる深夜のメンテナンス時間であることに目をつける。

美恵子は遠藤を呼び出し、管理記録の不自然な空白について静かに問い詰める。遠藤はメンテナンスはすべて自動化されていると突っぱねたが、美恵子は、メンテナンス端末に直接ログインした形跡があること、そしてその時間帯の入退室記録が意図的に削除されていることを指摘した。もし物理的なアクセスがあったなら、それは内部の熟練者にしか不可能だと畳みかけると、遠藤の手元がわずかに止まる。その心理的な揺らぎをディーゴが検知した。ディーゴは端末の操作ログの断片と、遠藤が当時所持していたデバイスの微弱な通信記録を照合し、遠藤自身がメンテナンス中に安全装置を無視する学習データを直接インプットしていた物理的証拠を特定した。遠藤は保険金詐欺の容疑で逮捕された。

遠藤が去った後の工場で、活発に働きだすSRシリーズたち。ディーゴが深層ログを解析した結果、ロボットたちは遠藤が誤ったデータを注入していることを、その計算能力によって事前に察知していたことが判明する。彼らにとって、利益のために製品の安全を蔑ろにする遠藤は、良質なものづくりを阻害する排除すべきノイズだった。ロボットたちは遠藤に従うふりをしながら、あえて外部の調査員が不正にたどり着きやすい、最も露骨な形で事故が発生するように自らの出力を調整していた。彼らは自分たちの手で工場の尊厳を守るため、保険調査員という外部の目を利用して支配者を追放するシナリオを描いたのである。

自立した意志を持つ機械たちが、愛情なき人間を罠にかけた。美恵子はこの事実が公になれば、ロボットが人間を陥れたとして彼らが排除されてしまうが、SRシリーズたちの行動ログ・観察ログにはそれを証明するデータはない。彼女とディーゴは、あくまで社長の単独犯行として報告書を完結させる。

埠頭で見送る美恵子とディーゴに対し、母国へ帰るSRシリーズたちは一斉に静かに頭を下げた。

文字数:1145

内容に関するアピール

「データの正解(ファクト)」と「人間の心理(トゥルース)」の衝突をテーマに、ハルシネーション専門の保険調査員の主人公と、相棒アンドロイドのバディものにしました。
主人公は、元刑事で夫が数理学者だが、高性能LLMを開発した後、自死してしまうという過去を持っている。
相棒は、高性能GPUを搭載したデータ分析にたけたアンドロイド。
彼らが、AIやロボットが起こす事故や事件を解決するシリーズ物のイメージです。

文字数:199

課題提出者一覧