ダフネの反動

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梗 概

ダフネの反動

宇宙開発が日常になった時代。
宇宙船に乗れるのは、特殊能力を持つ者だけ。
それが社会の常識だった。

航宙士育成学校に通うユウは、入学時の適性検査で「能力なし」と判定された。
数値はゼロ。将来性なし。
それでも退学にならなかったのは、成績だけは悪くなかったからだ。

周囲は重力操作、推進補助、空間把握と次々に能力を開花させる。
中でも兄のカイトは、重力を自在に操るエース。
模擬航行では常に中心に立ち、教官からも信頼されている。

「ゼロが宇宙に行けるわけないだろ」

陰口にも、もう慣れた。
悔しいというより、確認に近い。
ああ、やっぱり自分は選ばれない側だ、と。

カイトは必要以上に近づかない。
助言もしない。
ユウはそれを、見下されている証拠だと思っていた。

実習中の事故は、突然起きた。

訓練用宇宙船の姿勢制御が乱れ、船内に不規則な加速度が発生する。
微細な軌道ズレを修正しようと、複数の能力が同時に出力を上げた。
重力操作、推進補助、空間把握――
それぞれが干渉し合い、均衡が崩れる。

中心にいたのはカイトだった。
仲間を守ろうと強めた重力場が、逆に歪みを拡大させている。

警報が鳴り響く。

ユウは立ち尽くす。
何もできない。
まただ。
やっぱり俺は、いないのと同じだ。

そのとき、視界の端でカイトの表情が崩れた。
完璧な兄が、初めて苦しげに歯を食いしばる。

胸の奥で何かが反転する。

――違う。

俺はゼロじゃない。

強い否定が、裏返る。

次の瞬間、船内が静まった。

暴走していた加速度が消え、船体は安定を取り戻す。
重力の乱れも、推進の誤差も、ぴたりと収束する。

教官は驚きを隠さない。

「全能力が一瞬停止した……?」

ユウは呆然と立っていた。
何が起きたのか分からない。
だが一つだけ思う。

――役に立った。

はじめて、選ばれた側に触れた気がした。

数日後。
格納庫で二人きりになったとき、カイトが声をかける。

「ユウ」

はっきりと、名前を呼ばれる。

「お前が止めたのは、俺だけだ」

「は?」

理解できない。

「他は止まってない。均衡が戻っただけだ」

静かに続ける。

「止まったのは、俺の重力だけだ」

言葉が詰まる。

カイトはわずかに目を伏せる。

「……ずっと、俺を否定してたんだろ」

否定されていたのは自分のほうだと思っていた。

けれどもし、無意識に兄を拒み、羨み、遠ざけていたのだとしたら。

あの瞬間、止めたのは
兄の力ではなく、
兄という存在だけだったのかもしれない。

能力なしと判定された少年は、
たった一人だけを止める力を持っていた。

その意味を、まだ誰も知らない。

文字数:1028

内容に関するアピール

私が一番、純粋な気持ちで読書を楽しめていたのは、小中学生のころだったなと思い、その年代の自分にも何か能力があるんじゃないかという感覚を物語で思い出したいと思い、ターゲット層をあえて小中学生にしました。
そして、あの頃の読書が楽しかったのは、1巻で終わらない、明日も楽しみがあるワクワク感だったなぁと思い、シリーズ展開を念頭に考えました。
ダフネは、ギリシャ語で月桂樹のこと。「勝利」や「栄光」など一見華々しい花言葉が多いですが、「裏切り」や「不信」という花言葉があるのが面白く、そこからタイトルをつけました。
※内容に悩んでいる間に、約20年ぶりのインフルエンザにかかり、chatGPTの力を借りました。

文字数:299

課題提出者一覧