ゴースト・キャッチャー・イン・ザ・ムライ

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梗 概

ゴースト・キャッチャー・イン・ザ・ムライ

二一〇〇年代初頭の日本。各地で、光熱、水、交通、通信や建材等の社会インフラの要所にフィジカルAI「ツクモ」が実装され、インフラ設備の劣化や使用状況のデータ収集と、予防保守や新サービス創出が進んでいる。一方、ツクモに蓄積されるユーザーの悪感情や破壊衝動の情報は「悪霊」という不具合となり、異音や振動、電子的な情報の干渉等、異常現象を度々起こす。

日本のサブカル好きでベトナムと日本の混血の青年、村井久遠くおんは、悪霊を駆除し、ツクモを修正するバイトをしている。それは悪霊退治業という仕事で、圧倒的に不足する認可業者を補うフリーの業者達が増えている。その一人である久遠は自分を武士と自認し、武士の情けとして悪霊を消滅させずに回収し、式神と呼んで自宅の情報端末で飼いならしている。自分は人々を害から守る国体護持のもののふだ、と久遠は言うが、意味は自分でもよく分かっていない。

久遠は、外国ルーツの市民を支援するNPOの女性職員の美緒と何度か会話する機会を得て、差別撤廃や多国籍化に熱心な彼女の真剣さに触れ、混血である自分の出自への無頓着さに気づく。

ある日、美緒が「支援対象の外国人に利用された被害者的テロ実行犯」に仕立てられようとしていることを悪霊の声から知り、久遠はそれを止めようとするが失敗。逆に、二人は共犯として警察に追われることになる。
久遠は美緒と共に移民コミュニティへ逃げるが、そこで暴動を起こそうとする人々の周囲の悪霊の挙動から、移民以外の意志が暴動に介入していると感じる。

久遠は、テロ首謀者の情報発信源を悪霊探知の技術応用で見つけるが、そこは自動的に維持費用を稼ぎ出すサービス自動生成型のデータセンターで、美緒のNPOビジネスの生成元であることも判明。美緒は戸惑う。
美緒のアクセス権を利用し、久遠はシステムに侵入。データセンターで稼働中の「国体護持システム」がテロ介入犯だと突き止める。過去の某政治団体が創ったらしいそれは、日本文化への完全な迎合か極端な反発を移民に情報誘導することで、融和と反動保守の動き、日本の単一民族性強化を狙う代物だった。

久遠は、自分もまた日本文化への傾倒と、悪霊捕獲者という人格を、システムに植え付けられていたと気づく。彼は武士でも式神使いでもない人々の思いの代弁者として、集めてきた悪霊達をシステムに解き放つ。

悪霊達の仕業によりデータセンターは焼失したが、国体護持システムは健在だった。データセンターはツクモの総体ではなく一部分で、ツクモは未だ全国に遍在しているのだ。それでも、世界は変わっていく。久遠は移民コミュニティ、美緒はNPOに残り、共に国体護持システムに各々の理想を願って悪霊をぶつけ続け、日本人像に対し、時代への適応を促そうとする。

久遠は、気遣いや義憤から生じた個体など、多様な悪霊を業務で見つけ、国を変化させ続ける新しいシステムと自身の関係を悟る。

文字数:1200

内容に関するアピール

今回のお題に限らず、私が大事にしていることは「自分がその作品で楽しくなれるか」ということです。自分が書いて、読んで、楽しいと思えるテーマや物語を目指す理由は、実は誰かではなく自分のために創作しているという面が半分。もう半分は、私と同じ興味や趣味の人には刺さるはずだ、と信じているからでもあります。

具体的には、架空の科学的な技術や世界設定にしかなしえない、主人公の成長や、人間関係、価値観、概念、世界の変化や創出を伴う物語が私の趣味です。そして、それは一定数のSFファンの方々が求められることだとも考えます。今、移民や国をテーマにした小説がエンタメとなりうるのかは懸念もありますが、このテーマで書き、読むことが今の自分には楽しかったため、その点は目を瞑りました。せめてものあがきで、タイトルは思いっきりエンタメ風に振ってみました。

私以外のどなたかにも、エンタメたりうる内容となっていますように。

文字数:396

課題提出者一覧