梗 概
シャチピの確率
不幸体質の充と、時間を守れない椿は、自分のせいでない理由で、うまく生きられない夫婦だった。充は不幸体質が遺伝すると思うと、子がほしいと思えない。椿は仕事がうまくいかず、充にも迷惑をかけるのを気に病んでいた。二人はある日、検見川シーワールドへ行く。ぬいぐるみが当たる「シャチくじ」をやる。結果は5等。小さいサイズのぬいぐるみを持ち帰り、シャチピと名付ける。
その夜、二人はシャチピの声を聞く。彼の正体は《シャルルチルピス生命体》––地球外生命体だった。「ぼくらは増えない。分裂し、散った」。他のシャチぬいぐるみ個体とテレパシーで知覚を共有する。普通、人にシャチピの声は聞こえないが、二人は特殊だった。
充の不幸体質は、実は《主観過敏症》という疾患であり、椿が時間を守れないのは個人の内在時間と世界時間がズレる《クロノ・デシンク症候群》の症状だとシャチピは説く。地球では病気として発見されていないが、他星では疾患らしい。それはいわば世界から疎外される病。地球の理から弾かれた二人ゆえ、シャチピの声が聞けた。
シャチピの目的は《確率の観測》。彼らは「未来が確率として分岐する惑星」を見つけ、その星の生命体の確率を観測する。くじで喜び、落胆する、その瞬間の熱量をエネルギーとして回収し、母星に送信する。
5等のシャチピは「最もどうでもいい確率を引いた人間」の観測を担う個体。人間は5等のシャチピに名を与え、話しかける。シャチピは言う。「役に立たないものに意味を与える知性。不思議だね」。充にとってシャチピとの出会いは、自分の不幸体質が幸せに繋がる出来事だった。他方、椿はシャチピを不気味に感じる。
シャチピの別個体たちは持ち主に捨てられ、水族館の在庫処分に合い、次々に死んでゆく。テレパシーの共有知覚がまたひとつ消える。「一度分裂したら、元に戻れない。個体が死ねば僕の存在も薄くなる」
天敵も襲来。《ネルリコルルコス生命体》、通称ネコは確率を喰う。エントロピーの増大の抑制を行動原理とする。ネコに別個体たちがやられる。シャチピもネコに襲われるが、椿が懸命に追い払う。その過程で危機に瀕した椿をシャチピが助ける。以来、椿はシャチピを大切に想う。
シャチピの指導で、主観過敏症とクロノ・デシンク症候群を治療する。椿が普通の時間感覚を初めて得た日、シャチピの声が途切れる。二人の症状は緩和していくが、それ故にシャチピの声が徐々に聞き取れなくなる。
「残機1。それが、5等の僕とはね」。ついにシャチピ以外の個体すべてが死ぬ。充と椿は何があってもシャチピを守ると誓う。
二人はシャチピの声が完全に聞こえなくなった。シャチピに関する記憶も失われたが、二人はシャチピを大切にし続ける。この未来はシャチピが選び、人間が気づかないまま受け取った確率だった。時が経ち、充と椿は子供を連れ、検見川シーワールドを訪れる。子供の手にシャチピが握られて。
文字数:1200
内容に関するアピール
「キャラ」と「成長」を意識しました。
【ジャンル】
「ゆるSF」。少し不思議なSF的な設定を用いたファーストコンタクトもの。テイストは青年向け漫画的なイメージ。厳密なSF世界というより、SFを使ったエンタメに。
【読者】
普段SF小説を読まない、大衆小説を時々読む中高生から大人。いわゆる「SF小説」は読まないものの、SFっぽい小説は読むし、アニメや漫画でも比較的このジャンルを好む。読書インフルエンサーのショート動画がたまたま流れてきて、興味をもったらポチる。そんな層を想定。
【方針】
キャラに設定を。夫婦にSF的な属性を与えつつ、現代の生きづらさを描き、読者の感情移入を誘う。その上で、エンタメに不可欠な要素と考える登場人物たちの「成長」を描く。
文字数:320




