梗 概
とらえぬ色の宇宙人
悠真は色がうまく判別できない。手元にものは正確に見えるが遠くのものには色が混じる。空などは様々な色が折り重なって見える。人間の目に捉えられない光の一部を見ているのではと診断された。そういう見え方をする者はぽつぽつとおり、同級生の澪もその一人で中学の終わり頃には付き合うようになった。
ある日、空に飛行機雲のような濃い光の線が見え、ほど近い小さな山に接近してきた。二人は山に向かった。途中で定期検査時に会う少年と姉妹に鉢合わせた。そして宇宙人と出会った。肉体はなく光の群だ。五人は光に包まれ、彼らは言葉でなはなく光で語りかけてくる。一緒に行かないか?
「行く」
澪が即答して、すぐに他の三人も続いた。
宇宙人は集合体で、個で感じたことも皆に共有される。一緒に行けばやがて肉体は破棄し同化することになる。異物になられても困るのでよく考えてと伝えられた。
澪は行くと強く望んだ。この世界に強い違和感があるのが最大の理由だが、母親が出ていってから、仕事の虫で育児放棄した父親のことも理由の一つだった。悠真は澪と別れたくなかった。約束の日、澪との待ち合わせ場所の雑貨屋に行くと宇宙人がいた。待つ間に思い出としてプレゼントでも買うといいと伝えてくる。雑貨を見ている間に宇宙船は飛び立った。宇宙人はまだいた。
澪たち四人が行方不明となり、悠真は澪の父親と宇宙人と共に暮らすことになった。
澪も悠真も親宛に嘘のない報告と別れの手紙を書いていた。手紙の内容を科学者だった澪の父親だけが信じ、澪を探す、悠真くんの手助けが欲しいと両親に訴えたのだ。
宇宙人は勝手についてきた。個体に憧れ、群れから離れ孤独だった。そこに意志の疎通ができるようになった悠真が現れた。
宇宙人は澪の伝言を伝える。巻き込んでは悪いと思った。ごめんなさいと。伝えながら、会話楽しいとはしゃぐ宇宙人にも腹が立ったが、父親にはもっと腹が立った。宇宙人の生態や視認方法ばかりを気にして澪を探すそぶりがない。
一年がすぎる頃、父親は宇宙人を認識する方法を発見した。
「君は変わってる。澪は逃げ出したのに」
嫌なら家に帰ればいいのだ。でも澪の気持ちを理解したかった。わからないまま父親と宇宙人と暮らす方法を身につけてしまった。
「もう、宇宙人を認識することは君たちだけの特権ではない」
探しはしなかったが、父親なりに澪を思っていたのだなと思う。
「俺は澪に何にもしてあげられなかったのに」
悠真、これは友情。と悠真にヒカリと名をつけられた宇宙人が言う。空を見て、と。
かつて見た飛行機雲のような光があった。悠真は山頂へ向かう。宇宙船から姉妹が追い出される。宇宙人たちは、四人が異物にならないか見極めるため、地球に近いところにずっといたのだった。宇宙船はすぐ飛び立ったが澪の思念が伝わってくる。
「解ろうとしてくれてありがとね。私、調べちゃった、お父さんの子供だから」
悠真たちが見えない光が見えるのは、ヒカリが十数年前に個を求めてやって来たからだ。ヒカリを構成する物資が親に影響を与え、悠真たちは変質した。この物質をばら撒けば、いずれ人類は宇宙人たちを視認できるようになる。方法はヒカリを拡散させて空に撒くこと。ヒカリが死ぬのではと驚けば、拡散されても戻れるが色々面倒らしい。渋るヒカリに素敵な友情ねと澪が伝えれば友情ならばと了解した。判断は悠真に任された。
宇宙人を空に飛ばしてばら撒くと、花火みたいに見えるらしいよと、すでに途切れてしまいそうな澪の気配が伝えてくる。
「でも花火、色が混ざりすぎて見えないけどね」
二人がが同時に思う。思わず笑いが溢れたところで、澪の気配はかき消えた。
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内容に関するアピール
父親のダメっぷりと宇宙人のアレっぷりを少しでも滲ませたかったのですが、梗概には入りませんでした。
宇宙人は群体から離れた段階で、知力が落ちている設定です。
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