小さな紙による大きな価値の破壊方法

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梗 概

小さな紙による大きな価値の破壊方法

ゲン達四人は、太陽系外惑星ティルスの居住区域に隠れ住む孤児だ。四人は固い絆で結ばれている。ところがある日、ゲンは仲間のシューをうっかり殺してしまった。仲間からの断罪を恐れたゲンは、死体を廃棄ダクトに捨てて証拠隠滅を図った。しかしその最中に誰かが走り去る音を聞いた。
 現場は四人の拠点なので、四人以外に近寄る者はいない。目撃者は残る仲間のどちらかだ。
 自分の処遇に怯えていたが、彼らはシューの行方を心配するだけで、二日経ってもゲンを糾弾しない。しかし目撃者への疑念、殺人の罪悪感や後悔からゲンはシューの捜索を提案する。
 捜索中に目撃者を見つけ、口を噤むよう説得するのだ。それに死体は弔ってやりたかった。
 ダクトの終点、廃棄場での目撃情報があると二人を誘い出す。道中仲間のハルとクォに探りを入れるが、二人は何も知らないようだった。廃棄場に着いたゲンは、犯行に用いたダクトの出口付近を探し死体を発見した。腐敗が進んでいたので、クォは布を探しに行った。死体はハルと掘り出すことにした。ゴミをかき分けながら、ハルが話を切り出す。情報の提供や死体へ迷わず向かったことから、ゲンが何か隠していることを察したようだ。
 シューは地球行きの航空券を手に入れて、真っ先にゲンへ見せに行ったはずだと言う。
 ハルの言う通りで、そしてそれがシューの死因だった。孤児が価値あるものを仕入れるには危うい橋も渡る必要がある。ゲンは彼の勇気を褒めようとして、代わりに小突いた。彼の自慢が鬱陶しかったのだ。シューは足を滑らせ、先の尖ったパイプが首に刺さり死んだ。

自分の航空券もあるはずだというハルの言葉に、ゲンはカッとなった。彼らは二人で地球へ行こうとしていたのだ。一人の成果は個人のものだが、複数なら四人で分かち合うのがルールだった。ハルの首を絞める。シューの死は、ゲンから殺人への忌避を消していた。ハルが死んだ時、行為をクォが見ていた。我に返った時クォも死んでいた。ゲンには仲間への親愛は消え失せていた。廃棄場を後にしようとして、断続的な音が聞こえる。まるで人が走るような音だ。ダクトから落ちてきた死体を見て、目撃者はシューがダクトを通る音だったことを悟った。
 途端にゲンは後悔に襲われた。いないものに怯え仲間を失ってしまったのだ。
 ゲンは三人の墓を作ることを決めた。航空券を売れば、それなりの墓を用意できるはずだ。シューの死体を漁り、ゲンは更に後悔した。航空券は四枚あった。早とちりで二人を手にかけたのだ。呆然としながら、三人の首を丁寧に布で包んだ。ゲンには丁重に弔う義務があった。
 金券屋に行くと、端金を提示された。航空券は偽物だった。結局手元には紙屑と仲間の首が残った。首は焼き、鉄くずの墓を作る。紙屑はスラムへ持って行く。飢えた目をする住民に紙屑を自慢する。背後から聞こえる複数の足音と一緒に、ゲンは薄暗い路地へ消えていった。

文字数:1200

内容に関するアピール

物語は仲間内の結束を失くさないように動いたはずが回り回って孤独になり最後は誰も残りません。
 以下のようにひねりを盛り込みました。

①四人の固く結ばれた絆は跡形もなく消え去った
②と思ったら早とちりした主人公が消してしまっただけだった
③仲間へ罪滅ぼしを行おうと思ったらそれさえも満足にできなかった

文字数:145

課題提出者一覧