梗 概
銀河系保険証紀行
恒星間航行が当たり前となり、太陽系とプロキシマ・ケンタウリ系(以下PC)が同じ国家に属する三千年代。
大手企業を辞めフリーランスとして働く俺は、ほとんど地球で生活している。二千年代、どれだけLCCが便利になっても、日本人の5人に1人はパスポート未所持なのと似た話だ。
一方、地域活性化施策として地球の独自性をアピールするために、紙の保険証は残されたままである。俺は経費をちょろまかすため、前職を辞め、社会保険から国民健康保険に切り替える際、紙の保険証を選択した。何年か未加入の時期があったことは、内緒だ。国の保険制度にはまだまだ隙がある。
最近、SP政府(太陽系-PC系政府)は、隣国シリウスの政変を受け、ブロック経済を推し進めるため、データビジネスを強化することにした。その動きの中で、先んじて発行されている、SP圏内共通の「メジャーカード」への保険証紐付けが義務化される予定である。メジャーには「測る」や「大きな」といった意味がかけられている。政府にしては、気の利いた言葉だ。どこかの星の広告代理店が仕掛けているんだろうな。
帯状疱疹にかかって以来公共サービスのありがたみを感じている俺はメジャーカードと保険証を紐付ける。
ある日、診療報酬明細書を見ると、身に覚えのない項目がある。赤色帯状疱疹。どうやら、PC星人と誤って紐付けされてしまっているらしい。俺の名前は、ちょっと太陽系人離れしている。両親がPCかぶれだったみたいだ。PCの映画が流行った時代があるんだよ。しかし、随分高額の医療費だ。
同じ名前のPC星人に興味を持った俺は、ワーケーションがてら、本人に会いに行くことにした。
彼は自宅療養中だった。赤色矮星の影響を受ける赤色帯状疱疹は、地球の帯状疱疹よりも後遺症が重い。体の各部が痺れと痙攣に襲われ始めていて、体が動くうちに、最も明るい恒星であるシリウスを間近で見たいと。
俺は承諾したものの、フリーランスになって以来更新しておらず、パスポートの失効が発覚。言語が異なる上に、メジャーカードへの切り替えによる混乱もあり、半年待ちだという。PC有数のスタートアップを経営している彼の手引きにより、シリウスに入国するところで、政府に捕まる。
実は彼はスパイで、保険証詐欺をしていた。シリウスでは「White Lives Matter」と呼ばれる白色矮星シリウスBのテロ組織が活動していた。活動資金を得るために、彼はPCに潜入した。SP政府から目をつけられて、自由に出国できなくなっていたために、俺を囮にした。
このままSP警察に拘束され、帰れないのかと焦る俺。しかし、メジャーカードを取得していたために、身元が判明し、釈放される。帰り際に、SP警官から「未払いの保険金をきちんと払うように」と諭されるが、その心配はない。彼の部屋で預金通帳を発見したから。すると、右耳が痛くなる。赤色帯状疱疹でなければ良いが。
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内容に関するアピール
ズバリ「保険証SF」です。2020sに生きるフリーランス版の「銀河ヒッチハイク・ガイド」を意識しつつ(文体もパルプ小説を意識します。ジョイスのどれかの章のように)、宇宙時代の保険証とは、を考えたところ、結局国境の問題に行き着くのだと気づきました。
ひねりのポイントとしては
①国境がプロキシマ・ケンタウリまで広がっても、地球でしか生活しない人がいること
②同姓同名のプロキシマ・ケンタウリ人に保険証が誤って紐づけられた
③彼が実はテロ組織のスパイだった
④カードと保険証を紐づけていたおかげで釈放された
⑤彼を欺き、未払いの保険料を彼に押し付けた
⑥彼も紙ユーザーだった
⑦赤色帯状疱疹をうつされた
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