梗 概
三文オペレーション
『遂にこの日が……』
寝所で老女帝・金糸雀(かなりあ)の髪を梳きながら、侍女の莉芳(りおう)の心は震えた。
先史文明の遺跡由来の超科学を背景に、一代で《朱雀》を銀河の覇者にしてのけた金糸雀。数多の惑星国家が灰燼に帰し、莉芳の両親も血の海に沈んだ。
幼い莉芳は、汎銀河の抵抗組織に拾われ、暗殺者へと育てられた。
《朱雀》の宮廷に、下働きとして莉芳が雇われた時、彼女は14歳。 金糸雀の髪を梳くまでに3年を要し、莉芳の眼前に今、女帝の無防備なうなじがある。
莉芳が暗器を構えた瞬間、女帝は姿勢を崩さず
「急所を外すな。一撃で我が命を絶て」
「陛下?」
「血縁の手で、生が絶たれるなら、血塗れの我が生涯の結末にふさわしかろう」
「ご冗談を。陛下と私に血の繋がりなど……」
「莉芳。貴女の真の名は朱鷺(とき)、私の姉だ。《朱雀》は本来、貴女が治める筈の国だった」
朱鷺と金糸雀は、3歳違いの仲の良い姉妹だった。過日、幼い姉妹は供も連れず《朱雀》王宮の地下にある先史文明の遺跡へ。遺跡は何の意図で建設されたか判明せぬまま数百年。今や王家の子女たちの格好の遊び場と化していた。
何が引き金だったのか。
その日、姉妹の前で、遺跡は鳴動/咆吼/発光した。光が収束すると、朱鷺の姿は消え、金糸雀は強烈な頭痛に見舞われ、昏倒。
後日、医療施設で目覚めた金糸雀は、先史文明の叡智の全てが、己が脳に灼きつけられたのを『自覚』した。遺跡の起動時に別次元への門が開き、姉は過去か、未来か、別の時間軸の、別の空間へと弾き飛ばされたと『理解』した。
莉芳は思い出す。自分に幼い頃の記憶がなく、亡き両親が「高熱を伴う病のせい」と言い張ったのを。
女帝は
「宮廷へ上がる者は、遺伝子構造も精査される。莉芳、貴女の遺伝子パターンは朱鷺姉さんと寸分違わなかった」
「あの日から数十年。頭の中で響く【声】に導かれ、私は覇道を突き進んだ。【声】は私の内なる意志か、古の文明の呪詛か、自分でも分からぬ。もう倦(う)いた。朱鷺姉さん、貴女の手で終わらせてくれ」
莉芳の暗器を持つ手が震える。
[お取り込み中、失礼!]
二人だけの寝所に、突如響く声。声の主の姿は黒猫だった。猫は太古、この銀河を支配した文明より派遣された《後始末人》と名乗り、《朱雀》に残した《端末》の誤作動で、銀河に多大な迷惑をかけたと謝る。
[お詫びに、君達の時間で40年ほど巻き戻すね!]
猫が目を凝らす。
莉芳が「待っ」と言いかけるも、時空間が歪み、
「あれ?」
幼い姉妹は、王宮地下の宝物庫で目を覚ましました
「何でこんな所で眠ってたのかな?」
二人は首を傾げつつも、お部屋に戻って遊ぶことにしました
「今日も明日も明後日もいっぱい遊ぼうね!」「うん」
二人は手を繋ぎ、階段を上がっていきました
~後に姉妹は一人の男性を巡り、《朱雀》を二分する、血で血を洗う抗争を繰り広げるが、それはまた別の話。
文字数:1198
内容に関するアピール
題名は『三文オペラ』のもじり。
今回の課題に接し、あるギャグ漫画賞の佳作の粗筋を思い出しました。小坊主・珍念が、事件に巻き込まれ続ける筋立ての『珍念ストーリー』。佳作なので、雑誌には原稿の一コマと粗筋のみ掲載。にも関わらず、妙に私の記憶に残りました。「珍念が見たモノは○○だったのだが、実は××で、だがその実態は△△で、しかしながら実は□□で……」という具合に、脈絡もなく無限に変転し続けるお話が、私の笑いのツボをついたのでしょうか。
そのときの感覚を、自分なりの味付けで再現できないかと模索したのが本作。
まぁ私はあんまり主体性がない人間なので、「どこが」とは言いませんが、直近で手に取った『鋼鉄紅女』(冒頭1/3まで読了)の影響を明らかに受けているな、と後で気づきましたが、後の祭り(笑)
かくして本作は『珍念ストーリー』と『鋼鉄紅女』が悪魔合体した作品となります。ご笑覧あれ。
文字数:393