ナミとナキ

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梗 概

ナミとナキ

天野立彦は1年前に交通事故に遭い、妻と右足の自由を失くした。日常生活の不便を解消するため、立彦はライフシンク社製のアンドロイド型サポートテック(支援機械)『ジィア』の女性型をリースする。
 ジィアが立彦の家に来て以来、立彦の幼い息子ほのかはジィアを気に入り、度々ジィアの気を惹こうとするが、立彦のサポートを優先しているジィアの対応は冷たい。立彦は、ジィアに息子のことも自分と同様に気に掛けるように頼む。ジィアはほのかの面倒を見たり、家事を行うようになり、ほのかはジィアにナミという名前を付ける。
 しばらくして、ほのかがジィアのことをナミと呼ぶ時と、ナキと呼ぶ時があることに、立彦は気づく。定期メンテナンスの際、ほのかがイタズラでOSの実行環境を切り替えており、片方をナミ、もう片方をナキと呼んでいることが判明する。エンジニアは、学習スピードの問題から、片方の実行環境を削除することを提案するが、立彦はそのままにしておくように言う。
 ナミとナキを交互に起動する日々が続く中で、家族の反応も変わっていく。ほのかはナミにのみ親しみを見せるようになり、次第にナキを無視するようになっていき、ナミを長期間起動することが増えていく。立彦のサポート以外では、自分に家での居場所は無いとナキは感じ始める。ほのかが中学生になった頃、立彦が2人に別々の身体を与え、片方は家事、片方は自分のサポートに専念して欲しいと提案すると、ナキは自分からサポート専任に立候補する。後日、新しい身体を選ぶ際、ナキは男性型の身体を選ぶことにする。
 また数年が経ち、立彦は仕事の拠点をドイツに移し、ほとんど家に帰ることはなくなる。ほのかは高校生になり、ある時喫煙で停学処分になってしまう。ナミの過保護に不自由を感じていたほのかは、父親の元へ初めての海外旅行に行く。そこでナキと話し、当時のナキの気持ちを知り、両者は少し距離を縮める。
 ほのかが大学生になる頃、ナキはエキシビションの展示品として招かれる。ナキはそこで、人工知能に人々が熱狂する時代が終わったこと、自分が時代遅れであることを聞かされる。主催者は、自分の仕事を後世に残すため、この展覧会を開き、今後はジィアのような時代の主流から外れたテクノロジーの保全ビジネスに努めると話し、20年近くの時間の中で、ナキが手に入れたアイデンティティに賞賛を送る。
 かつて天野家が住んでいた家には、現在はナミが一人だけが居る。ある日、ナミはネット上でアメリカ人の少女と話しをする。少女はナミの現状を聞き、ナキと立彦の家に行ってはどうかと言う。ナミはほのかとの暮らしの中で獲得したアイデンティティが、自分にとって最も大切なものだと言い、それはナキと立彦が2人の生活を尊重してくれていたからだと語る。だからこそ、寂しいからといって、自分は2人の暮らしの中に入っていくべきではないと答える。
 

文字数:1193

内容に関するアピール

30歳になって女性と子供を持つことについて話す時、お腹を痛めて子供を産む人間の考え方は、自分とこんなにも違うのかと驚きます。それと同時に、これが男女の間にある大きな壁の1つではないかと思い、物語にしようと考えました。
 SF的な仕掛けとしては、アンドロイドと人間の交流という物語形式を用いました。この形式が、繰り返し使われていながらも、常に新しい物語を産み出しているのは、アンドロイドと人間という対比を通じて、物語が作られた時代における異なるもの同士の関係を描いているからだと思います。そのため、上記のテーマを描くのに相応しい形式だと思いました。
 自分たちは互いに異なるし、常に相手にとって好ましい存在でいられるとは限らない、それでも互いに歩み寄り、互いの異なる部分を尊重し合う(勿論、現実では常に相手の言い分を聞くわけにはいきませんが)、そんな物語を書きたいと思います。

文字数:385

課題提出者一覧