今はいない滅びゆく神へ

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梗 概

今はいない滅びゆく神へ

 私は英雄のような男だと言われる。背は高く筋肉もつき、身体能力も優良と言って良い。目鼻立ちも整っている。勉学もきちんとおさめ、行動力もある方だ。博愛の精神もある。
「せめて二十年早く生まれていたら本当に良い男だったんだけどね。もったいない」と私と同類の担当医は言う。
 最近の子供たちは皆、協調的で全体の利益を優先事項として考える傾向があり、争いを嫌悪する。最大の特徴は小さく丸い頭部に光る大きな目。彼らは言葉も使うが、主にこの目で意思疎通を図る。大きな瞳の動きや揺れで、お互いが思っていることを推しはかり理解する。読み違えることはほとんどない。
 こういう傾向の子供は、70年前から現れ始め、現在22歳の私の世代では九割が、今生まれるのはほ全員だ。私のような、そういう特徴を持って生まれなかった旧来の人間はやがて滅びゆく定めだった。
 私には友達がいる。子供たちの友達だ。「子供たち」というのは新しい特色を持って生まれた者たちの呼称だ。出現し始めた頃に呼ばれていたのが定着し、今もそう呼ばれている。子供たちの中には言葉以外で交流ができない旧種を仲間とは認識出来ない者も多い。子供たちは仲間を大切にするが、それ以外には冷たく、さらに旧種の持つ暴力性を嫌悪していた。そんな中で彼の友情は貴重なものだった。小さな頃石虫に襲われているところを、私が助けたことがあり、友人は今も恩義を感じており、旧種の持つ暴力性も好みはしないが必要なものだと思っていた。
 私は友達に、これから少数派になるものの権利を守るものが必要で、君にはその資質があると言われ、素直に政治家を目指し始めた。友達は生物学者となる。
 人口比率はこれまで旧種の方が多かったが、これから徐々に子供たちが増えてくる。ここで良き関係を作らないと大変なことになると考え、二人は同じ考えの者たちと協力しながら、旧種と子供たちが尊重しながら共存をする方法を探したが、二つが乖離する方向に勢いがつくのを止めることが出来なかった。
「新しい職業を作るのはどうだろう。旧種だけがつける職業で、尊敬され必要な職業を創設するんだ」
 18になるとみな職業の希望を出し、希望と成績と適正を考慮して各職業に振り分けられ数年修練を詰んだのち本格的にその職業につく。よほどのことがなければ、一生その職業だ。
「たとえば、害虫駆除のような」
 都市の外には、この星に元々いる巨大な虫いる。滅多に襲っては来ないのだが、最近は時々襲撃がある。撃退時は住民が当番で当たっているが、徐々に増える襲撃に対応策が立てられる専門職が必要のではという議論は出ていた。旧種のみで構成しては、旧種が死に絶えた後に困ることもあり職業としての設定は難しいとなったが、当面は身体能力に優れる私を中心とした有志で対応することになった。が、その活動の中で、旧種に肩入れする友人は子供たちの中で立場を失っていっていた。
 責任を感じた私は、子供たちと同じように目で意思疎通ができ、かつ気分も子供たちと同等になるが、副作用として数日後に攻撃性が増し、自殺願望が芽生えてしまう薬を使用し、子供たちと接触する。何度かの会合ののち、虫たちの処理は旧種が当面引き受けることを条件に、友人を含む旧種たちと融和を求める人たちの居場所を確保した。
 薬の副作用に苦しみつつも、虫が現れれば退治する日々が続いた。虫が襲来が増えていることに疑問を持った友人がきちんと調べたところ、虫の死体に他の虫が寄ってくるという悪循環が発生していた。徐々に規模の大きくなる虫の襲来に旧種だけではどうにもならず、子供たちの協力も必要となった。戦わず、壁を作ればいいとの議論もあり、私は交渉をスムーズにするために薬に頼ることになり体を壊していくが、優れた身体能力から発揮される武力の魅力と献身は、徐々に子供たちに、旧種を仲間と認めさせていった。
 なんとか今回襲来した虫たちを撃退することに成功した頃には私は薬の副作用もあり視力を失っていた。その目は子供たちから見ると恐怖と畏怖を感じさせるものになっていた。そして彼の暴力性は襲撃の間ずっと見ていた。
 子供たちは、私と虫の討伐の主体になったものたちを神と呼ぶこととした。自分達とは違う、力あるもの。尊重して自分達とは乖離した存在で、自分たちを庇護するものと。そのためなら敬っても構わないと。

文字数:1786

内容に関するアピール

神さまになる話を書きたかったのですが、なんだか懐かしい感じのヒーローものになりました。
宇宙に出た人類の一部が、幸いにして居住できる場所を見つけ、苦労して住み着いたが、虫の襲来も含め色々揉めた挙句に、再度宇宙に出る能力は失ってしまい、この土地以外の人類からも忘れられてしまった街のお話。広さは約五キロ四方で、人口は五万人程度。農業やインフラはかなりオートメーション化されてはいる。多様性は元から乏しかった。
子供たちの変化は、セロトニンが増加し、オキシトシンが影響を受けと一応の分析はされいるが、なぜそうなかったは判明していない。

文字数:263

課題提出者一覧