フォーク、コミット、マージ

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梗 概

フォーク、コミット、マージ

 仮想現実で暮らす人々。割り与えられた計算資源をどう使うかは個人(個人の証明サーバーへのアクセス権を持つ存在)次第で、わたしは迷ったときに自分に割り当てられたリソースを使って、自身をクローンし、サイコロを振ってどちらがどの道を行くか決めている。

 そしてそうやって分岐したわたしたちは定期的に自分たちで集まり、経験や知識を共有し、平均化するマージパーティがある。

 もちろんマージすべき各わたしが探索した情報自体に思想的トロイが含まれてないか確認する必要がある。しかし、もちろんスキャンで取り除けないものも存在する。かつてマージ後の1/2のわたしがそのまま地球を離れ、恒星間調査船に乗り込んで地球を離れた事件があってから1/4が最新マージ、残りが一個前のマージという風になっている。

 そして、マージパーティではまず、わたしたちそれぞれの体験をそれぞれが語ることからはじまる。そして、ひとりのわたしが衝撃的なことを語った。基底現実に残した私を名乗る人物からメッセージが来て、その人物が自らの人格スナップショットをわたしたちに渡し、マージして欲しいというのだ。果たしてそれを信じマージするのか、そもそもその個体を自分として認めるのか、議論は紛糾する。ひとまず、人を送るべきだろうと決定される。すべてのマージバージョンを送るのは無理なので、外の世界に必要そうな知識やプラグイン、そして、過去の自分のコンバートされた記憶や大元のバージョンに共有されたストレージを入れ込み、一人をベースに作られたものがマージパーティ終了とともに送られる。仮想現実の人々は外のことを気にしていなかったが、外は驚くほど牧歌的だった。メッセージを送ってきた人物に会い、彼が暮らしている村を案内してもらう。外の世界は各種の荒い公開情報しか持たないわたしには新鮮だった。わたしの思い出話に花を咲かせ、互いの近況を話す二人。ただ、過去の記憶があまりに詳細で、目の前の人物に対して自己判定システムが出す一致度があまりに高すぎることに違和感を覚えながら、わたしを名乗る人物から、そのスナップショットを受け取り、わたしは帰還する。調査結果に関して、ひとまず開発用の標準スナップショットを最低リソースでマージしたものを動かすことを提案する。それはサンドボックスの中で現実の素晴らしさを解き始め、現実への帰還を出張する。最低限のボディを渡すとそれはあの村の近くの集積場へ向かっていき、そこにある巨大な何かに解体され、信号は途切れた。

 村の定点観測をすると、そこにいる人は定住しているように見えなかった。村の人々は集積場の巨大な何かによって養われ、ひとりの顔を変えて発掘した過去の個人情報をもとに他のいくつかの仮想世界にいる人々にも同じようなメッセージを送り、トロイ入りのスナップショットを送っていたのだ。わたしは他のメッセージを受け取った人たちとセキュリティレポートを作成した。

 だが、それまで目を向けていなかった外にわたしたちは興味を引かれた。わたしは自分をクローンし、サイコロを振り、目の前のわたしは外を調査するためのより効率的な機材の設計に向かい、わたしは外に関するより多くの情報を集めにライブラリに向かった。

文字数:1332

内容に関するアピール

 人生において何かを選択するとき、誰もがもう一人自分を増やし、別々の道を行き、そしていつしか再開して情報を交換できたらと誰もが思うでしょう。実際似たようなテーマのSFはいくつかあって、サラピンスカーの『そして(Nマイナス1)人しかいなくなった』やデイビッドプリンの『キルン・ピープル』など思いつきます。個人的には複製される場合、コピーとオリジナルという差異はあるべきではないと思っているのですが、ただアーキテクチャが異なる複製をした場合は必ずもとのアーキテクチャの自分とそれとは異なるアーキテクチャの自分という差異が発生します。そこらへんの差異をテーマにするとしたらと考えて、肉体を持っている自分との再会とそれがある種の詐欺だったというひねりを加えてみました。

ただ世界観が『ディアスポラ』まんますぎるという気はちょっとしています。

文字数:365

課題提出者一覧