梗 概
形式言語と区分機のユートピア
主人公・松江卓也は20歳の郵便局員。趣味はネットの対談番組を見ることとトリカブトの栽培。ある日郵便局に中学時代の担任教師・桂がやってくる。桂から中学の同級生・桧之坂ミヤコが大学で研究しているOpenEthicについて聞く。
退勤後、OpenEthic(以下OE)を調べる。これは『初デートでサイゼはありやなしや』など、あらゆる倫理を形式言語で記述し体系化するというプロジェクトだった。形式言語とは所定の文法で論理を記述することで、機械的に正誤を判定できるもので、数学の証明や情報システムの設計の検証に使うものだ。
松江は中学時代の嫌な思い出である、応援合戦問題をOEで検証してみた。自主練習に参加しなかった数人が皆の前で謝罪させられた事件だ。プログラミングは小中学校で習っていたので形式言語の記述はできた。結果は『謝罪不要』。松江は桂の家に押し掛け土下座させる。そこに居合わせた桂の娘から冷たいことを言われ腹が立つ。OEに逆らうな。翌日、区分機をわざとジャムらせて桂家宛の郵便物をボロボロにするという報復を行う。
気を良くした松江は、仮面を買い、時事ネタをOEがどう判断するか解説するYouTube番組を開始。
ある日ネットの討論番組に呼ばれる。相手はOEの創始者。
創始者は「OEはただのジョークプロジェクト。現実社会に適用できないからやめろ」という。
松江は「実際の話し合いの場では、定義や場合分けなど論理の手続きを丁寧に踏む人より、話を逸らしたり、レッテルを貼って大騒ぎをする人の方が有利になってしまう。だからOEを使っていくべき」と主張。
対して「論理は本当に中立か」「機械にミスがあった場合誰が責任を取るのか」「論理的をどうやって人間に信頼してもらうつもりか」と質問され、上手く答えられない。
しかし、そこから過激なパフォーマンスで注目を集めることには成功。皮肉にも松江の主張が裏付けられる。
追従者が発生。同じ仮面を付け、OEに反する意見を言った人に会いに行き、謝罪させ、その動画をあげるという運動が広がる。松江自身も郵便局員の制服を活用。
化粧品会社事件。元々OEのスポンサーだった化粧品会社が、自社に不利な論理の取り込みに対して圧力をかけたことが発覚。松江は料金別納郵便の仕組みの隙をついて、トリカブトの毒を塗ったハガキを化粧品会社各部署に送った後、粛清の声明を発表。
誤審事件。OEのWeb画面の実装に誤りがあり、本来誤の論理を正と表示してしまった。機械の失敗は誰の責任か紛糾。
茜坂アカネ事件。さらにOEの信用を高めたい松江は、既に信用ある有名人にOEを肯定する発言をしてもらおうと、依頼(脅迫)行脚。有名女優・茜坂氏にYouTubeで暴露され大問題に。
松江、ついに捕まる。報道陣の前で、用意した毒を飲み自殺。しかし、その周囲には仮面を付けた追従者が集まっていた。
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内容に関するアピール
ネットでの口論を見ると『やはり自然言語は限界、形式言語で語り合うべき』と感じずにはいられません。それが実現する第一章をこの小説にしました。参考は映画ジョーカー。
AIに管理されるディストピア、という作品はよく見ますが、技術的には形式言語の方が現実味ありそう。『アレは許されてコレがダメなのはおかしい』という文句に力を与えやすいので。
作品内世界は大変なことになっていますが『意外とこの先に幸せな社会が待っているのでは?』と思わせてしまいたいです。誰しも論理的でない非難にもどかしさを覚えた経験があるはずなので、その共感をフックに読者をダークサイドに引き込んでやりたいです。
ちなみに区分機をジャムらせるには。通常、鍵などが入った封筒はより分けて手区分します。しかし運悪く区分機に紛れ込んでしまうとジャムが起こります。その時たまたま鍵の封筒の真後ろを流れていた郵便物が巻き込まれてしまうことが。
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