梗 概
我が子のためなら
近未来。臨床精神療法士の祐天寺の助手、凜の勤めるオフィスに弁護士の須永が来訪する。祐天寺の友人で担当事件のことで相談があるという。
事件の被告人、春山には中学生の双子がおり、そのうちの一人である娘が通う学習塾の責任者、宮崎を殺害した。動機は宮崎が娘をそそのかして肉体関係を持ったこと。宮崎はかつて婦女暴行の罪で嫌疑がかけられたが、証拠不十分で不起訴になった過去を持つ。娘は洗脳されていたというのが春山の主張。接点がない上に宮崎は五十男で容姿にも恵まれていないことから春山の主張は否定しがたかった。娘をカウンセリングすれば真相がわかるのではないかというのが須永の考えだった。
臨床精神療法士は、患者の深層精神世界へ入り込み、本人も自覚的認識のない事実や記憶を探る。精神世界の見え方は人それぞれで海に見える者もいれば街に見える者もいる。祐天寺の場合は建設中の建物、特に高層ビルに見える。
祐天寺が面会すると春山は、娘を助けてほしいと頭を下げる。カウンセリングは他の医学鑑定と同程度の証拠能力しかないことを伝えるが春山は同意する。
凜は同行者として娘の精神世界に入場する。そこは建設中の建物だった。ビルの所有者は患者であり、九九まで患者の制御下にあるが、残りの一が問題なのだという。異常があり、かつ患者の制御下になければ、それは外的な作為を意味する。各階には娘姿のフロアマスターがいて、階によって外見が異なる。一階から順に見て回ると、十一階で不審な部屋を見つける。扉はロックされ、フロアマスターもいない。扉をこじ開けて部屋に入ると小学校高学年くらいの少女と、少女と似た雰囲気の少年、それに中年の男がいた。少年は威嚇するような表情を男に向けている。男は宮崎だった。逃げようとする男を凜がなぎ倒す。凜は空手と合気道が融合した「空気術」という格闘技の心得があった。もともとオンラインの有料会員プログラムが好きで、空気術もその手のプログラムで修得したものだが現実の実戦では役立たずだった。だが、こと深層精神世界においては効果を発揮した。洗脳されたのは十一歳のときのようだなと呟くと祐天寺は宮崎の頭を手でつかみ、出入り禁止と退場を告げる。宮崎が消える。
須永が知り合いの刑事に訊いたところ、宮崎はかつて記憶の書き換えに関する大学の研究室に在籍していた。その研究自体は犯罪被害者救済を目的としたものだったが宮崎は研究内容と機材を盗んで大学を放逐されていた。祐天寺から話を聞いた須永は宮崎が春山の娘を洗脳した証拠をさらに探すと言う。祐天寺は娘の精神世界で見た少年の顔を思いだし、春山と面会する。本当に宮崎を殺したのはあなたかと問う。春山は祐天寺の目を見て自分が殺しましたと言う。「息子さんは関係ない。そういうことでいいですよね」そう言って祐天寺が頷くと春山は目に涙を浮かべて立ち上がり、深く腰を曲げて頭を下げた。
文字数:1191
内容に関するアピール
本創作講座の1回目から今に至るまで、自分はSFリテラシ-が低いということを痛感しています。ただ、ないものをなんでないんだと嘆いても仕方ないので自分にあるもので最後は勝負しよう、と決めました。
当初、書きたいと思っていたものは成長物語であり、
英雄譚であり、
人生や生き方の転機を描いた物語であり、
どん底にいる人間への応援歌であり、
夢追い物語であり、
苦難を描いた現実的な物語であり、
ボーイミーツガール物語であり、
絶望の物語でもある、
希望の物語だったのですが、いざ梗概を書き上げたら別のものになっていました。
本作は「精神カウンセリング」「建設工事」「格闘アクション」「心理スリラー」「謎解き」「家族愛」あたりがキーワードになるかと思っています。
物語として読めるものを自分が楽しんで書く。
それが最終課題に向けて自分が定めた課題テーマです。
よろしくお願いします。
文字数:374