梗 概
終わりなき絆
検察から法医学研究所に、女性の解剖依頼があった。
法医学者のサヤトは、死ぬ直前の視界画像を取り込み、確認していく。交際相手らしき男性が映った瞬間、手が震え、わが目を疑った。二十年前に三歳で死んだはずの息子が、映っていた。息子は大きくなり、ひげが生えていたが、自分の息子だと確信していた。元妻のエミに音声通話をし、家まで行くことを伝えた。
一回りも年上のエミは老いてはいるものの、昔と変わらず美しかった。早速、画像を見せた。何か言おうとしているが、押し黙る時間が続く。何か知っているのかと何度も聞くと、住所のメモを手渡された。
玄関を出る時に、サヤトは息子のことを思い出していた。
「いつか息子と三人で暮らしたい。息子が死んだときに家庭は壊れてしまったけど。せめて三人で食事をしたい」エミは小さくうなずき、ドアを閉めた。
メモにあった住所に着くと、小さなアパートの一室だった。息子は、二十年前と同じ目と口をしていた。ママと食事をしないかと誘い出す。
みんなで住んでいた家は、今はエミが住んでいる。ワインを飲みながら、息子にどんな人生を歩んできたかを、ゆっくりと訊ねていた。それは、失った時間を埋めるようだった。サヤトは大人になった息子にはじめて、自分が孤児だったことを告白した。
息子が先に就寝した。二人になると、息子は確かに死んでしまったはずで、なぜ生きているのか。なぜ住んでいる場所を知っているのかなどを質問した。驚きの返答だった。
「みんなでの時間が忘れられなくて、あなたに黙って人工妊娠器官で産んだ二人目の子なの」
黙って産んだのは、サヤトから警察に伝わることを恐れた結果だった。
義理の父とエミは、人工妊娠器官の研究者で、妊娠出産した情報はすべて記録され再現する方法を開発していた。
翌朝、息子が寝ている部屋のドアをノックしても返事はなく、息子は自ら命を絶っていた。最愛の女性を数日前に失い、自分は一度死んでいて再出産された人間であったことを理解したのだ。
エミは、この論文にアクセスしたのではないかと、サヤトに論文データを転送した。論文の日付は、政府から人工妊娠器官が認可されるずっと前のものだった。
論文の名前は『人工妊娠器官に関する実験とその応用』。実験者は義理の父、被験者はエミ。
サヤトは、息子がなぜ自死を選んだのかを知るため、義理の父のところへ向かった。
義理の父から聞かされたのは、人工妊娠器官をはじめて移植したのはエミであったこと、しかも息子の出産ははじめてではなく、二回目だったこと。
この技術のおかげで、子どもを失う悲しみから解放される。二十年前の世界的危機で子どもが激減した時に、この器官が認可され、多くの人が救われただろう。
「十二歳で、娘に人工妊娠器官を移植し、初めて出産したのはサヤト、君だよ。息子ではなく弟になるんだ。弟を失った悲しみは三人目の出産で癒せばいい」
文字数:1198
内容に関するアピール
人工妊娠器官が実装され、出産年齢の幅が大きく広がった未来。絆や家族愛を求める物語。
今回のテーマである「二回以上ひねりなさい」を、以下の二点で構成しました。
1)死んだ息子は生きていたが、妊娠出産した情報はすべて記録され再現すれた二人目だった。
2)主人公が息子だと思っていたのは、弟だった。
二つ目のひねりを強調するため、一つ目とのバランスに注意しました。伏線、事件の大きさなどもひねりの大きさに合わせました。
息子が映っていた死者の視界画像を追いかけるシーンや自死をした息子の謎を追いかけるシーンをスピード感がありつつ、ダイナミックに演出したいと思っています。
世界的危機のこと、いろいろな人工器官のこと社会で起こっていることを描き出したいです。
文字数:324