ダディな日

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梗 概

ダディな日

角島文雄は六歳の男の子の父親である。今日は千葉市に新しくオープンしたお仕事体験テーマパーク「わくわくワーク(以下わく)」にやってきた。他の四人の父親と待ち合わせである。といっても五人の父親たちはほぼ初対面。共通項は妻同士がママ友だということだ。
 父親と子供だけで入場すれば料金が割安になる「ダディの日」というイベントに当て込んで、ママ友たちが集まって休日を楽しもうとそれぞれの旦那に子供を任せた次第だ。父親たちは互いにぎこちなく挨拶し、子供たちをお仕事体験に送り出す。

最初は何事もなかったが、次第に子供たちが不可解な行動を取り始める。トイレでいなくなったと思ったらしばらくして戻ってくる。お仕事体験では様々なハラスメントを訴える。スポンサー企業も何か変だ。銀行は父親に金融商品を勧めるのに余念がないし、子供相手の施設なのに酒蔵があったりする。
 角島は「わく」がどこか変だと思って他の父親たちと話してみたが、少子化が進む昨今、スポンサー企業としては子供だけではなく親も取り込まないといけないし、お仕事体験にも多様性やポリコレなどの要素も入れていかざるを得ない。これまでどおりにはいかないのだろうという結論に至る。
 だが事態はさらにエスカレートし、結婚相談所や結婚式場のお仕事では性的マイノリティーはおろか、一夫多妻や一妻多夫の家族も現れて収拾がつかなくなる。携帯で妻たちとやり取りしていた父親たちも、妻が夫以外のパートナーの存在をほのめかしたり、身に覚えのない第二夫人・第三夫人に言及したりするに至ってほとんどパニックに陥り、テーマパークを楽しむどころではなくなってしまう。

ついに父親たちは協議の上、子供たちを連れて「わく」を退場し、母親たちのところに行こうという結論に達した。そうして出口ゲートを通ると、父親たちの意識はブラックアウトする。薄れゆく意識のなか、角島は自分が少子化対策体験テーマパーク「わいわいバース(以下わい)」のAIノンプレイヤーキャラクターNPCであることを自覚する。

「やっぱりパパってのはダメだね。新しい概念への適応力がなさすぎる」
「じゃあこれまで言われてきたようにママによる単性生殖ってのが最適解なのかな」
「それだと多様性が……」
「その辺は地域を適当にシャッフルするとかいくらでもやりようがある」
「ていうか途中ちょっとバレそうで焦った」
「トイレに行くときゴーグル外さないといけないの、何とかならないかね」
「てか、ゴーグル外すとアバター消えちゃう仕様が糞なんだよ」
 子供たちはVRゴーグルを着け、『多夫多妻制への移行』のインスタンスをモニターしながら議論していた。後ろにいた「わい」のスタッフが声を掛ける。
「じゃそろそろ時間なので次のインスタンス行きましょう。次は『伝統的ジェンダーロールの復活』です」
「うわー、つまんなそう」
 子供たちは声を合わせて笑った。

文字数:1198

内容に関するアピール

少子化対策に政府が打ち出してくる政策があまりにピンボケすぎて、「どうせやるのならここまでやってはどうか?」という思いを、リミッターを外して妄想してみました。実作では三人称で角島に視点を固定しながら五人の父親の群像劇っぽくコミカルに描きます。五人の父親のキャラ立ちが肝だと思うので、そこに心血を注ぎたいです。

タイトルの「ダディな日」は子供たちがテーマパークのインスタンスに作った小道具にDay of Daddyと書いたのを、英語に堪能な(という設定)の父親が「いやそこはDaddy’s Dayだろ。Day of Daddyだと強いて日本語に直すと『ダディな日』みたいな違和感がある」と言った台詞からです。この小道具を作った子供の父親が本当に英語に堪能で、その意識がAINPCに乗り移ったのではないかと匂わせることで余韻を醸し出したいと思い、タイトルに採用しました。

文字数:376

課題提出者一覧