眩しくて暗い世界

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梗 概

眩しくて暗い世界

二十一世紀中葉、人類は全面核戦争により地表を壊滅させた。放射能汚染と核の冬を乗り切るため、わずかに生き残った人類の一部は地下に潜り、また一部は建設中であった金星のフローティングシティに避難し、地表の回復を待った。
 千年後、人々は地表に戻り始めた。

地表復興政府樹立から二十五年、地下に潜っていた人類は〈地底人モグラ〉、金星から還ってきた人類は〈金星人ヴェネリアン〉と呼ばれている。千年の間に〈地底人〉は暗闇の地下生活に適応し、一方〈金星人〉は強烈な太陽光に順応した眼を獲得していた。従って地表では〈地底人〉は保護グラスを、〈金星人〉は暗視ゴーグルを必要とするようになっていた。現在では両方の用途に対応し、周囲の明るさによって自動的に設定明度に調節するフォトクロミック・ゴーグルが主流となっている。

ヤクモは〈地底人〉出身で、消費者製品安全委員会の調査官である。最近フォトクロミック・ゴーグルの誤作動で〈地底人〉が失明する事故が多発しているため、製造物責任法に基づき製品の調査にあたっていた。
 当初は〈金星人〉過激派の〈地底人〉に対するテロという線で調査をしていたヤクモだったが、メーカーや産業省、復興省とその下部団体を調べていくうち、〈地底人〉過激派の狂言である可能性も浮上してくる。

さらに調べを進めていくうち、誤作動によって失明した〈地底人〉の多くは、直前に〈地表人博物館〉を見学していたことが分かる。〈地表人〉は地上汚染と核の冬を生き残った人類だが、放射線と過酷な環境のせいで退化しており、知能はほとんどなく人類とのコミュニケーションもとれない。博物館には〈地表人〉の生きた標本も展示されている。
 念のため博物館へ足を運ぶヤクモだったが、直後に自らのゴーグルが誤作動してヤクモ自身も危うく失明しそうになった。

巷間では〈金星人〉のゴーグルが〈金星人〉にすら耐えられない高照度の光を発して失明に至らしめるという事件も起こりだし、〈地底人〉と〈金星人〉は互いに疑心暗鬼を生じて過激派を巻き込み、ついに武力衝突が始まる。
 市街戦に巻き込まれて〈地表人博物館〉へと避難せざるを得なくなったヤクモはゴーグルを捨て、地表標準照度に調節された館内を手探りで進む。〈地表人〉の標本の前にゴーグルなしで立ったヤクモの意識に、〈地表人〉は直接語りかける。

〈地表人〉は人類のもつ多くの能力の退化と引き換えに、直接他人の意識に働きかける能力を獲得していた。彼らはその能力を使って深層心理が命じるただ一つの欲求を実現しようとしていた。すなわち、自分たちを地表に置き去りにした〈地底人〉と〈金星人〉への復讐である。〈地表人〉は近づいた人々の意識をコントロールし、ゴーグルの設定を変えさせていたのだ。真実を知ったヤクモはそれを世界に知らしめるべく博物館からの脱出を試みるのであった。

文字数:1181

内容に関するアピール

第一のひねり=ゴーグルの誤作動は〈金星人〉過激派のテロではなく、〈地底人〉過激派の狂言だった?
 第二のひねり=実は〈地表人〉が〈金星人〉と〈地底人〉を争わせるために双方を操っていた!

という整理になっています。
 適正照度の違う二種族が共生するとき、

  1. 生活効率上、どうしてもそれぞれの適正照度に調節した環境を作り、互いに隔離生活するようになる
  2. 隔離環境以外(地表面)においては昼間は高照度順応型が有利、夜間は低照度順応型が有利になる
  3. 社会においてはどちらがより負担を強いられるかによって、社会保障の還元割合が変わってくるため、不公平感や種族間の軋轢が生じるのではないか(不公平の一例:〈金星人〉はゴーグルがなくても「暗くて困る」だけである一方、〈地底人〉にとっては明るすぎれば失明の危険がある)

という想定のもとに、面白い状況を作れるのではないかと構想したのが本作です。

文字数:379

課題提出者一覧