梗 概
ミスターボトルシップ
民間警備会社につとめる主人公が、世界一夏休みの似合うお爺さんのところに派遣され、自分の生まれ育った環境や老人の過去に関する秘密を知っていく話。
望ましい行動の候補を網膜に映し出すというコミュニケーション補助装置が開発され、教育機関で用いられていた。サーム装置と呼ばれるそれは、骨伝導イヤホンのように取り付けることができ、耳の位置による集音と顔の前面からの画像解析という指向性のある情報収集を行う。その人が得られる範囲の情報から取るべき行動を推測し選択肢を提示するというものだったが、ある事故をきっかけに12歳以下への使用が規制された。しかし主人公が育った児童養護施設では子供たちの行動を管理しやすくするため違法に改良されたサーム装置が用いられており、主人公は今でも、サーム装置の補助がないと自分が何をすべきなのかがわからなくなることがある。
主人公は警護対象の正体を知らされず、前任者からの引継ぎもないまま、老人の住む田舎に派遣された。主人公はサーム装置に関して定期的にカウンセリングを受けており、リモート画面にうつりこんだ姿を見たカウンセラーには、その老人が誰なのかがわかってしまう。老人は、かつて起こった、サーム装置を着けていたがゆえに画一的な行動しかとれず大勢の子供が亡くなってしまった事故で、唯一生き残った人間だった。当時、そのコミュニティでは老人だけがサーム装置着用に不真面目であったことから、サーム装置反対派の人間から主張の正しさの象徴として不本意に祭り上げられた子供時代を持ち、そののち教育者として数々の著書を残した有名人でもある。
ある日、老人のところに男がたずねてきた。その男はかつて老人の後輩だったが、ある夏休みに行方不明となっていた。優等生だったくせに、当時の学校では装着義務のあったサーム装置の電源をわざと切っていて、それを何故だか老人にだけ知らせてきた人物だ。男はサーム装置で意のままに動く部下を連れていたが、それは昔、主人公が施設で仲良くしていた女の子だった。主人公はサーム装置なしで行動できる時間が増えつつあったが、男が部下を利用しけしかけたせいで、それが難しくなる。老人は余計なことをと怒るが、男は笑う。
実は男は主人公の育った施設のオーナーでもあり、使い勝手のいい従順な人間を育てるためにサーム装置や施設を利用し、適性のある事業へ割り振って働かせていた。主人公を選び老人のところに派遣させたのも、老人だけが生き残ることになった事故を引き起こしたのも、この男だった。
男は、自分のやってきたことはすべて老人のためなのだと言う。「俺はお前みたいな人間がこの世に必要だと思った。お前を手に入れたかった。お前がお前のままで、俺のこの手の中に入る方法を考えていた」
老人は男と行くことを拒否し、主人公は今までは消極的だったサーム装置のフェードアウトを、カウンセラーに依頼する。
文字数:1200
内容に関するアピール
渦中にいる主人公と外側にいるカウンセラーの、二つの語り口でストーリーを進めていきたいと思っています。主人公視点は感情を表す語をあまり使わず、カウンセラー視点では饒舌にと使い分けていきたいです。
望ましい行動を推測して候補を案内するというサーム装置は、エラーレスラーニングと試行錯誤学習について考えていたことと、メールの返信文の候補が表示されているのを見て、思いついた設定です。機械に頼るのは良くないという話ではなく、コンタクトレンズを着けている人も眼鏡を持っているように、なくてはどうにもならないということではなくて、代替手段もあったほうがいいよね、という結論になる予定です。
ラストの男のセリフは、タイトルを回収するために入れました。実作ではもう少し主人公側のストーリーと絡めつつ、わかりやすく散りばめて書けるようにがんばります。
文字数:366