梗 概
永い夢の途上
明治維新は幕府存続のまま新体制を迎え、日本王国と名称を変えた。それから百三十五年後。平成十五年の山口県・萩市。萩の人々は逆賊として長らく冷遇されてきた。
大久保芥太は中学生。叔父の吉田先生に養育されていた。高校進学前に芥太は電車を乗り継いで日野へ向かうことを決めた。
芥太は今日までの一年半を回想する。
桜が満開の中、芥太は家の近くに英雄の地、日野から引っ越してきた少年、石田斗羽。編入してきた彼に芥太は興味を持つ。
芥太は小学校時代からの付き合いである木戸幸太郎、才谷直樹、宍戸春風と四人でつるむことが多かった。特に紅一点の春風とは悪友だった。地域柄か日野出身の斗羽は遠巻きにされていた。優等生の幸太郎とお調子者の直樹が斗羽の世話を焼いていた為、五人で遊ぶようになる。
夏休み。春風は斗羽に洋服を買い与え始めた。名家の生まれの春風は斗羽と気が合うし、煙草仲間という共通点もあった。芥太は嫉妬にかられ、春風に恋していると思い込んだ。
秋のある日、欠席した春風に斗羽と芥太はプリントを届けるが、門前払いされてしまう。
憤慨する芥太。斗羽は見かねて自宅に招く。彼の家には渋沢栄治という親戚が同居しており、インディゲームを作っていた。芥太はテストプレイを頼まれる。ゲームはシン・維新戦争の最中、三百年後の日本。『紅・新撰組』の副長、モア・ヒジカタの行動を追体験するものだった。敵は宇宙生命体トライバルと西日本連合国。芥太はゲームに熱中する。
二学期中、斗羽の家に入り浸る芥太。ゲームが遠因で五人の仲に亀裂が入り始めた。
春風は、家庭環境の悪化や疑念から自傷行為に走る。幸太郎は四人と距離を取り、政治家になるべく勉強に専念した。仲を取り持とうとした直樹も起業で疎遠になった。春風は福岡に家出してしまう。斗羽は宍戸家から恨まれ居場所を失う。
芥太は斗羽からメールを受け取る。ゲームを最後まで見届けて欲しいとあった。
家に行くと斗羽はいなくなっていた。渋沢は「そんな子知らない」としらばっくれたが、ゲームは最後までプレイさせてくれた。終盤の選択肢で彼はモアを死なせてしまう。それがトゥルーエンドと聞かされ愕然とする。
回想を終え、寝台特急で芥太は自分が斗羽のことが好きだったのだと認めた。
様々な地域を回り、東京へやってくるもそこは、寂れた都市だった。芥太は土方歳三の生家を訪ねた。国営化された資料館だ。
吉田先生が宇宙船に乗って迎えにきた。「潜伏は終わり。アクタリスタ様。族長がお呼びです」芥太は自分がトライバルの一族だと思い出す。族長の意思は種族全体とリンクしている為、芥太は自失し、故郷に帰還する。
三百年が経った。
アクタリスタは族長となっていた。彼はヨーエン(吉田)、桂、高杉、坂本を仕えさせている。トライバルは列島に入植し、悪しき関東人を一掃。西日本連合国と手を取り合い国を刷新しようとしていた。生き残った関東人は紅・新撰組を中心に函館で新国家を建国したのだった。
函館国から交渉団がやってきた。副長(陸軍奉行並)モア・ヒジカタと総裁タケコ・エノモト、大蔵省三等官エイシャ・シブサワだ。話し合いも空しく交渉は決裂。ヨーエンはヒジカタを殺害。
その瞬間、アクタリスタは自分が芥太であった時の事を思い出す。ヒジカタは死をトリガーに魂のタイムトラベルさせたのだ。行先は平成十五年の萩。石田斗羽はヒジカタだったのだ。ヒジカタは斗羽として中学生のアクタリスタと出会い、彼が国家を掌握するに至る些細な事件を改変する為様々に画策していたのだった。芥太がかつて回想した過去は改変された記憶だった。アクタリスタは自身に仕える人々が春風や幸太郎らの子孫であると気が付いた。彼は声を上げた。
目を醒ますと芥太は中学生で日野にいた。
彼もまた過去に遡行してしまったのだ。斗羽と再会した彼は必ず国をよくすると約束する。斗羽は「楽しみにしている」と言い残し、役目を終えて消えていった。
文字数:1646
内容に関するアピール
チューニングが出来ないまま濃縮状態で提出になりました。でもこういうのが書きたいんだよな~。私の地元は新選組ゆかりの多摩地域です。右寄りでアンチヒーローが多い土地柄です。水木しげるは左寄りですけど。そんな土地柄の生まれ故、いまの日本は『西側』に押し付けられた本当のものじゃないという意識で育ちました。やばい、危険人物じゃん。でもじゃあ東側が勝っていたらいい世界になったのかと言われると……。う~ん。どうかな。そういう幼少期からのいろいろを詰めました。要素も登場人物も多すぎるので、実作では整理して執筆します。よろしくお願いします。
文字数:264