梗 概
壊胎
チャルハールンの女警官ラナは、街が未曽有の混乱だというのに署長の指名である被疑者の聴取に向かう。アメナと偽名を名乗る女は黙秘を続けていたが、ラナと向かい合うや話し始める。
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砂の街・チャルハールンは地球外来植物〈サルネア〉による緑化に初めて成功した。茎から取れる化石燃料に似た汁と回復した土壌で育つ農作物により発展している。
サルネアの一斉開花が近い春の夜、娼婦の私はいつも通り広場で客を探す。最近は行方不明事件のせいで警官が多く、客引きには注意がいる。私は右側が爛れた顔を気味悪がられて値切られる。
ようやく交渉成立した男の家で、私は男にお茶を淹れる。無用なめしべと違い勃起と射精を促すサルネアのおしべの粉末をハーブ茶に混ぜて飲ませるのが、娼婦たちの処世術だ。
家に帰ると二歳の息子が眠っている。起こさないよう横になる。
翌朝、顔見知りの娼婦の絞首刑を知る。私はアメナを思い出す。
アメナは同い年の美しい娘で、娼婦だった。彼女は父に色目を使ったと母に油で焼かれた私の顔を気味悪がらなかった。お姉さまたちに教わったと、密収穫したサルネアのおしべで男を手玉にとるアメナに感じた気高さが恋慕に変わるのに、時間は必要なかった 。
私は私を辱めようとする父に、アメナを真似て彼女から貰ったサルネアから千切ったおしべを溶いたハーブ茶を飲ませる。父は熱を出し、数日後に赤ん坊を産んで死ぬ。赤ん坊は木の肌に黄金色の目をした異形で、金切り声のような産声を上げてすぐに死んだ。
私はアメナに助けを求めた。アメナは私がめしべも一緒に溶いたことに気づく。私とアメナだけの秘密が増えていくことに、私は酔った。
しかしアメナは恋をする。相手は客の男で、アメナは妊娠していた。
息子を産んで間もなくアメナは姦通罪で訴えられ、娼館は潰れた。未成年だと処刑が難しいために一六歳のアメナは二二歳にされて絞首刑。名誉のためと身分が明かされなかった既婚の客の男は、九三回、鞭に打たれただけだった。その仕打ちに最後まで意を唱えた女警官がいた。
あれから二年、私はアメナの子を引き取り娼婦になった。
アメナを裏切った男を探すために。
私はアメナの惚気話を頼りに、ついに男を見つけ出す。めしべとおしべを混ぜたハーブ茶を飲ませる。出産の瞬間を見届けるつもりだったが、街の有力者だった男の行方を全力で捜査した警察により私は捕まる。
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街はサルネアの開花で飛散した花粉が男の体内で受精して生まれた異形の子らにより混乱に陥っていた。それは女が全ての客にめしべだけを混ぜた茶を飲ませた結果だった。
動機を問うラナ。女は言葉に詰まる。アメナを殺し、女性を軽んじた男への復讐だと思っていたそれは、ごく個人的な失恋の清算でしかなかった。
女は聴取後、輸送車に乗せられる。外に出ると、署のある高台から街中で咲くサルネアの花が見えた。風が吹く。サルネアの香りに、異形たちの金切り声が混ざっている。
文字数:1211
内容に関するアピール
3つ時間軸のバランスとしては現在(取調パート):2000+3000字、過去①(復讐パート):8000+7000字、過去②(本文斜体・百合パート):20000字弱くらいの想定です。
無用なめしべと精力剤おしべは、チャルハールンの男女格差のメタファーでもあり、広く公になっている事実です。絶対に間違えないだろうという見た目の差異があり、サルネア自体に余りある恩恵があるため、主人公たちが偶然知るめしべの正体(男性身体に取り込まれると稀に胎盤的な器官へ育ち、妊娠可能な身体にしてしまう)は隠蔽されています。
執筆にあたり、
・冒頭で提示する女の謎(=罪や正体)が引きとして機能するか(あるいはさせるにはどうすべきか)
・現在の梗概のようにどかっと過去②を入れる構成か、小分けにして過去①の随所にエピソードを突っ込む構成か
・ミサンドリー的な復讐かと思いきや個人的な失恋の清算だったというエンディングの是非
など検討中なので、所感を伺えたら嬉しいです。
文字数:416