告解

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梗 概

告解

「人を殺したことがある」と女は告白した。

場所は二人がよく通うレストラン。男は女の告解に耳を傾けた。

 

女はある病院で働いている看護師で、男は数年前その病院に運び込まれた患者だった。

偶然にも病床が空いたばかりのところに盲腸で運び込まれたのだった。

看護師と患者という関係を経て、二人は付き合うようになった。

男はある大きな監査法人に勤める公認会計士だった。

彼は少し普通の男性と違う点があった。ある新興宗教の信者だった。

しかし、男は会計の話はしても、宗教の話を女の前ですることはなかった。

 

数ヶ月前に謎の未確認飛行物体が世界中の空の上に現れた。

彼の所属する宗教団体の教祖がその未確認飛行物体の出現を数年前から

正確に予言していたと、マスコミで話題になっていた。

教祖によれば自身の罪を告解し、その穢れを払ったものだけが、

未確認飛行物体に新しい人類として認められるという。

 

その日、レストランで男は普段、語ることのない宗教について冗談混じりに女に語った。

自分の罪を告解することで、新しい人類として選ばれる。

そんなわけで、宗教団体の中ではいま、告解がブームになっている。

男はそう言い、その日、冗談のように女に告解をする。

男は神など信じていない。親が入っていた宗教に強制的に入れられ、

会計士として雇われているだけで、教祖のことも信じてなんかいないんだ。

男の話を聞き、女は自身も告解を始める。

 

「人を殺したことがある」

意識が戻らない寝たきりの60ちょっと手間の患者さんがいた。

よく娘さんが見舞いに来ていたが意識は戻りそうもなかった。

患者さんは倒れる前はプロのソムリエだった。

でも、ある日、娘さんは見舞いに来なくなった。

見舞いに来る途中に事故にあったのだったのだった。

その日、娘さんは意識のない寝たきりのお父さんのベッドの横に

ワインを置いてあげようと、ワインを抱えて病院に向かい歩いていた。

そこにバイクに乗った二人が娘さんのバッグをひったくろうとした。

娘さんは引きずられ道路に頭を打ち付け、数日後に亡くなった。

ワインボトルが割れ、地面には赤いワインが広がっていた。

 

女は他の看護師から娘さんが亡くなったことを聞いた。

そして、寝たきりの患者さんの介護のとき、女は患者さんに聞こえるように、

娘さんが亡くなったことを同僚に話した。

その数日後、患者さんは亡くなった。

「わたしは思うの。あのとき、患者さんに聴こえるように娘さんの死を話したとき。

こうなることを予想していたのではなかったか。望んでいたのではないのかと。

娘さんをずっと待ち続ける彼の時間を終わらせてあげたい。そう思って話したのではなかったか」

娘を待つ患者さんは亡くなった。病床に空きができた。

そこに運び込まれたのが盲腸で急患として運び込まれた男だった。

女は告解の最後に伝えた。「お腹に赤ちゃんがいるの」

二人の上を未確認飛行物体が飛んでいる。

文字数:1179

内容に関するアピール

「人を殺したことがある」ことを告解する女。

女がずっと人に言うことのなかったその秘密とは。

その殺人が次の新たな生命へとつながっていた。

文字数:66

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