梗 概
【ユーザーテスト報告書】プロトタイプ「ニンゲン」
令和15年6月10日より6月11日(現地時間)、ヨーシャム層第5エリアにおいて培養中の準知的生命体プロトタイプ「ニンゲン(現存在)」のユーザーテストを実施いたしました。その内容を以下に報告いたします。
1. 本テストの背景
プロトタイプ「ニンゲン」は、私たち超越者が場所や時間にとらわれずに生き生きとした日々を過ごせる未来を実現するためのプロジェクト「ユニバース5.0」の一環として開発されました。「ニンゲン」の用途は主に2点。五感の享受と死の体験です。物理的な肉体を持たない私たちはデバイスが物理空間で体験する視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚を通じて、現存在であることの不便さを学びます。そして、デバイスが個体内部での循環活動を停止する「死」を擬似的に体験することにより、命の尊さを知り、日々当たり前に創造しているか弱きものたちに寄り添います。無限の存在であるからこそ、有限の存在に歩み寄る努力を。超越者として特権的な立場にいることを自覚し、三次元の生命体が生涯を通じて抱く痛みや惨めさに思いを馳せることで、未来のデザインに必要な想像力を培います。
2. 本テストの目的
幼い超越者が「ニンゲン」を通じて共感力を伸ばし、創造物のことを自分ごととして捉えることができるようになるかを検証する
3. 本テストの概要
第五期クリエイター養成講座を受講する超越者をニンゲンに搭乗させ、テスト期間中内に死を達成させる
実施期間:令和15年6月10日〜6月11日
ユーザー数:20億柱
4. テスト結果
タスク達成度:86%(五感の享受:81%、期間内の死:92%)
令和15年6月10日未明、超越者らがデバイスへの搭乗を開始。20%程度のユーザーが脳に直接侵入し、デバイスが即死を果たしました。短い体験ではあったものの、テスターらの満足度は高く、「あれが五感なのかどうかはよくわからないけど、すごかった」「もう一度やりたい」といった声が寄せられました。
無事に搭乗できたユーザーのうち、ごく一部の超越者らは五感に耐えられず自らデバイスの命を断ちました。特に不満の多かったのが「痒み」で、「痒みを終わらせるために惑星ごと潰そうかと思った」といった感想も届いています。痒みのUXには早期の改善が必要です。
多くのユーザーはニンゲンの持つ五感を楽しんだようで、「色」や「音」はもちろんですが、「痛み」も評価が高い項目でした。ただし、体験のごく早い段階で「痛み」を何度も追求した結果デバイスが予定よりも早く死んでしまったケースも見られました。より良い体験の順序を示唆する、バイタルが低下するアクティビティの場合はアラートを出すといった対策が求められます。
8%のユーザーがデバイスへのアガペーを発露し、期間内の死を達成できませんでした。今後は抑制剤の使用も検討すべきです。
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