梗 概
鱗禍
公安の羽鳥レンは先輩の高峰とともに、世界的な化学者、北川綾を逮捕した。北川の開発したレプリケーター(幾何学的自己複製子)が監視対象になっていた。レプリケーターは兵器になり得る。実際に海外の武器商人から資金援助を受けていることが分かったのだ。
北川はもともと幾何学模様専門の図案家だった。模様への知見を活かして、分子設計を行うようになった。それでレプリケーターを発見した。見た目は十センチ角の白い正方形のシート。電気を与えると、空気から化学合成して成長し、二十センチ角まで育ったところで四枚の正方形に分裂する。
逮捕後、実験室を捜査していた高峰から事故の報告が入る。レンが駆けつけると、レプリケーターは容器からあふれ出し、実験室全体を覆いつくしていた。過失で事故を招いた新人が転落死していた。レンは拘留中の北川に面会し協力を要請する。政府の許可が下りる。レンは北川の監視係。現場の指揮は軍の鮫嶋大佐が執ることになる。
対策本部で鮫嶋と北川の意見が衝突する。グルーと呼ばれる物質を使って、正方形をうまく繋げることで、レプリケーターの成長を止めることが出来る。犯罪者の言うことなど信用できない。軍は重火器でレプリケーターを攻撃する。消滅したかに見えたレプリケーターが変異して再生し、街にあふれ出していく。
交通が麻痺し、窓やモニタも鱗のような複雑な模様で覆われて、街はパニックに陥る。北川は多様な模様が現れたことに喜びを隠さない。セルフタイリングタイルセットだ。置換を繰り返すことで、四倍体、十六倍体、六十四倍体と育っていく。
レンは次第に北川の模様愛に感化され、北川の理解者になっていく。変異はさらに進んで、置換タイリングでなくても、平面充填可能タイルならば自己複製して、互いに陣取りを行うようになった。動物の体表も被覆するようになり、窒息被害者が発生する。街の大半が覆われる。このままでは発電所に到達するのも時間の問題だった。軍は当てにならない。
レンと北川は作戦を立てる。円環状にしか成長しないレプリケーターで街をぐるりと囲んでしまえばいい。北川は所望の機能を果たすタイル形状を設計する。ハサミでサンプルを採取し、グルーでタイルの形状を整える。被害者の家族から襲撃されるが、レンが北川を守る。サンプルを寄越せと声がする。鱗禍は事故ではなくテロだった。高峰が武器商人(最初のと別の会社)の手先だったのだ。事情を知らない鮫嶋が高峰の味方につく。前線到達の寸前、レンが一気に電気を流す。その拍子に北川が模様に飲み込まれ崖から転落してしまう。模様は上手く囲まれて、内部に皺が出来る。レプリケーターは電源を喪失して枯れる。
死んだはずの北川がハサミで模様を切り開いて出てくる。死んだのは鮫嶋大佐だった。模様に覆われたせいで、正体不明になっていたのだ。裁判で高峰に死刑判決が出て、北川の容疑は晴れる。街は復興を始めるのだった。
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内容に関するアピール
最終課題は幾何学模様をモチーフに選びました。何を隠そう、私は幾何学模様のブログを運営するほどの模様好きです。好きが高じて、模様のアニメ作成にテレビ出演、数学編物というユニットを組んで活動していたりします。これまで考案したパズルやゲームのアイデアも模様からインスピレーションを受けたものが多くあります。
四万字の物語を書いたことはありませんが、
・Rep-tile
・k-Polyomino Ploblem
・Heesch’s Ploblem
・Self-tiling tile set(みよしの発見分↓):繰り返すと平面の非周期充填ができる。
などなど模様の数理に関する蘊蓄をたくさん詰め込みます。
構造色で派手な色を獲得したりする、形状そのものが遺伝子の生物。レプリケーターは温暖化対策(炭素固定)の切り札として発展していく予定でした。サンプリングには、模様が貼り付かないようにホバークラフトやエアシザーを使う予定です。
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