日曜ラッパー

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梗 概

日曜ラッパー

 俺はラッパー、日曜日にはやっぱ、
 日々思うあれこれを叫んでる。
 寿司は河童、好きな楽器はラッパ、
 ひび割れた心に染み渡る。
 朝早くから、揺られる電車、
 仕事通うぜ月から金。
 土日連休、勝ち取ったフリーダム、
 最愛の家族も忘れねぇ。
 俺はファザー、日曜日はラッパー、
 君思う先々を考えてる。 
 君はマザー、俺にとっちゃラバー、
 いつまでも伝えるぜアイラブユー。
 朝早くから、揺られる電車、
 仕事通ってる月から金。
 土日連休、俺たちのフリーダム、
 最愛の家族と過ごしてる。
 
 休日の昼下がり、
 家族で出掛けたスーパーマーケット、
 激安の食材をあれこれ買い込む
 夕飯ターゲット。
 夕食はシャブシャブと
 家族で楽しむスーバーショッピング、
 豚肉に牛肉になにやら安い
 ミステリアスミート。
 
 ヘイ、サン、お前は言った。
 その肉は僕が育ててるんだ。
 鍋の中、白菜の下、豆腐の隣で
 食べ頃過ぎたその肉が堅くなってるんだ。

 凄惨、お前は知った。
 その肉は悪が育ててるんだ。
 闇の中、災厄の下、恐怖の向こうで
 一口大のその肉が巨大になってくんだ。

 行われてた培養肉の実験。
 旨み出すためまるまる一頭の再現、
 魂のない純粋培養のクリーチャー。
 切り取った部位が増殖するモンスター。
 
「堅くなるから早く食べなさい」と言いつつ、そんなちょっとした口答えに、子供の成長の跡を感じて、満更でもない幸せを感じた刹那、その白くゆだったはずの肉片がぺろりと皮を剥ぐように表面が弾け、鍋のお湯をはじくようにして熱くべとついた血潮が吹き上がり、男の顔面に張り付く。鼻の穴からずるずるとそれが入り込むのが分かり、その気持ち悪さに声を上げようとするが、その途端開いた口唇を割ってもっと多量のそれが喉を通り胃に満ち、気管を巡って肺に及び、ちりちりと手のひらの痛みにそちらを見ると、むくむくと大豆ほどの大きさの肉芽が夥しい数で盛り上がり、それはもう手のひらではなく、言うなればブロックの牛肩ロース、のような物。子供は恐怖に目を見開き、女はひいっと声を漏らして腰を抜かす。今や、男の顔からは肉の塊がいくつも垂れ下がり、テンダーロインにサーロイン、手羽先手羽元、棒々鶏、肥大化していく身体の内に、レバ刺し、レバニラ、ユッケジャン・・・・

文字数:944

内容に関するアピール

鍋とか鉄板焼きとかで肉を育てるというフレーズをたまに聞くので、それを書いた。
それはつまり培養肉で、培養肉をおいしくするためには本当はクローンのようにしなければいけないのではとも思うが、それではつまらないので各部位だけのクローニングのようなものを思う。そうすると鳥とか豚とかおんなじ幹から生えてもよさそうだなと考えるが、まだ落ちてない。
ちなみにラップというものをまともに聞いたことがないので、そのリリックが書けないという点が大きなつまずきでした。

文字数:222

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日曜ラッパー

 俺はラッパー、日曜日にゃやっぱ、日々思うあれこれを叫んでる。
 寿司は河童、好きな楽器はラッパ、ひび割れた心に染み渡る。
 朝早くから、揺られる電車、仕事通うぜ月から金。
 土日連休、勝ち取ったフリーダム、最愛の家族も忘れねぇ。
 俺はファザー、日曜日はラッパー、生意気な息子は幼稚園児。
 君はマザー、俺にとっちゃラバー、いつまでも伝えるぜアイラブユー。
 朝早くから、揺られる電車、仕事通ってる月から金。
 土日連休、ささやかなフリータイム、最愛の家族と過ごしてる。
 俺はラッパー、日曜のラッパー、こみ上げる思いを叫んでる。
 こんな俺の、糞の様なリアル、引き裂かれた願いに消されてく。

 こないだの休日の昼下がり、
 家族で出掛けたスーパーマーケット、
 激安の食材をあれこれ買い込む
 貧民スタイルの夕飯ターゲット。
 献立はシャブシャブと決め、
 家族で楽しむスーパーショッピング、
 牛肉、買った。
 豚肉、買った。
 そしてなにやら安いミステリアスミート。
 
 小さいながらもあたたかな我が家、
 家族で囲むダイニングテーブル、
 盛り付けた食材を次々にぶっ込む
 寄せ鍋スタイルのしゃぶしゃぶスターティン、
 牛肉、しゃぶった。
 豚肉、しゃぶった。
 次になにやら知らんショッキングミート。

 ヘイ、サン、お前は言った。
 父ちゃん、その肉は僕が育ててるんだ。
 鍋の中、白菜の下、豆腐の隣で
 食べ頃過ぎたその肉が堅くなってゆく。

 凄惨、お前は知った。
 父ちゃん、その肉は悪が育ててるんだ。
 闇の中、災厄の下、恐怖の向こうで
 一口大のその肉が巨大になってゆく。

 国家機密、行われてた食用肉の培養。
 そうか事実、求められる旨み出すバイオ、
 切り取った部位が増殖するモンスター。
 与えられた栄養を取り込み、
 無限に巨大化する純粋なミート。
 
「堅くなるから早く食べなさい」と言いつつ、そんなちょっとした口答えに、子供の成長の跡を感じて、満更でもない幸せを感じた刹那、菜箸の先からつつつと逃げて、その白くゆだったはずの肉片の、ぺろりと皮を剥ぐように表面が捲れあがる。そのぎとぎととなまめかしい生肉の質感を取り戻したそれから、鍋のお湯をはじくようにして熱くべとついた血潮が吹き上がり、男の顔面にぺたと張り付く。悲鳴を上げる隙も無く、鼻の穴からずるずると入り込むのが分かり、その気持ち悪さに吐瀉しようとするが、その途端開いた口唇を割ってもっと多量のそれが入り込み、喉を通り胃に満ち、気管を巡って肺に及び、ちりちりと手のひらの刺激にそちらを見ると、むくむくと大豆ほどの大きさの肉芽が夥しい数で盛り上がり、それはもう手のひらではなく、言うなればブロックの牛肩ロース、のような物、がバナナの房のように垂れ下がったような物。子供は恐怖に目を見開き、女はひいっと声を漏らして腰を抜かすが、そうは言ってもおのおのも食用肉培養体となっている。子供の見開いた両目からは、絹の糸めいたきらきらと光る物が軽やかに宙に何条も湧き上がり、それが縒り合わさって見る見るうちに太くなり、糸の太さが縄となり綱となり、やがてシュラスコ、アルカトラ。クッピン、ピローニャ、コステーラ。ロンボ・ペルニラ、フラウジーニア、コラソン、フランゴ、カルネイロ。ぬかした腰のそのあたり、薄いワンピースをぶち破り、マミーニャ、ロンボ・ジ・ポルコ、ロンビーニョ・ジ・ポルコ、女ももはや食肉の塊。
 みるみるうちに異形の姿形に変形の家系に余計に時計のかかるも知らずに、互いを見てはこう思う。

 美味そう!

 俺はラッパー、奴にとっちゃファザー、お互いが育てた肉を食う。
 嫁は立派、最後までガンバ、共食いにゃ混じらねえ。
 朝早くから、揺られる電車、それすらも遠いよな月から金。
 土日連休、勝ち取ったフリーダム、最愛の家族と喰らいあう。
 俺はラッパー、日曜のラッパー、こみ上げる思いを叫んでる。
 こんな俺の、糞の様なリアル、引き裂かれた願いに消されてく。

 なわけねえだろ、メン。

文字数:1635

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