弾ける球体

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梗 概

弾ける球体

部活といじめ、恋愛と不登校、思春期色の喜楽と悲哀が表裏一体の中学生活。
「女子生徒」をそつなくこなす蘇美にとって、心の底から友達と呼べるのはネットで繋がった「へなこ」ただ一人。
同い年らしい彼女は流行アンテナの感度が良く、線の細さと顔出ししないミステリアスさも加わって、ネットで中高生の注目を集めているちょっとした有名人だ。
蘇美はそんなへなこと毎日やり取りを交わしていることが誇らしく、一種の憧れを抱いてもいた。

蘇美にはお気に入りの場所がある。街並みが見下ろせる景観の良い高台。
ベンチや柵のような人工物は何一つなく、近所の人しか知り得ないような場所。
ある日、高台から帰る途中で激しい爆発音を聞く。振り返ると、高台から青白い光が立ち上っていた。
両親や友達にそのことを話すが、誰も何も聞こえなかったという。
ただ一人、へなこだけが「私も聞こえた」という返事をくれた。この時初めて、へなこが同じ市内に住んでいるのだと知った。

翌日の放課後、蘇美が高台を訪れると、そこには透明な球体が浮かんでいた。
ドッジボールほどのそれにそっと触れると、指先から意思が流れ出て行く感覚が走るのと同時に、心地良い充足感が伝わってきた。
気の置けない友人と言葉を交わした時に覚える、不思議な温かさ。
それをへなこに伝えると、一日遅れで届いた返事には、同日の夜遅くに全く同じ体験をした、とあった。

それから二人は、秘密を共有するかのように毎日その球体と接触した。
蘇美は放課後に、へなこは深夜に。球体は正の感情を伝えると膨らみ、負の感情を伝えると萎む性質があった。
二人は球体を大きく成長させるべく、なるべく良い事を伝えようと約束した。
蘇美は球体を大きくすることが苦ではなかったが、翌日に見る球体はあまり膨らんでいなかったり、少しだけ縮んでいたりした。

球体を通してへなこと通じ合っていく蘇美。抑えていたはずの会いたい気持ちが大きくなっていく。
へなこも同じことを思うようになっていたが、オフで人に会うのは初めてなので勇気が出ない、と珍しく弱気に。それを蘇美が勇気づける。

翌日、不登校だった女の子が一年ぶりに登校してきたが、体調不良を訴え早退してしまった。
蘇美はその事実をへなこに伝える。「暗い感じの子だった」
返事はこなかった。

その日の夜遅く、蘇美が高台で見た球体は泥水のように濁っていた。
恐る恐る近づいた蘇美は球体に取り込まれる。蘇美の中に負の感情がどっと流れ込んでくる。
走馬燈のように流れる他者の記憶に触れて、不登校の女子がへなこだったと知る蘇美。
謝りたいと強く思ったその瞬間、ウォータースライダーのように形を変えた球体が、蘇美の身体を古びたアパートの前まで送り届けて土に還った。

蘇美はへなこに深く頭を下げ、明日一緒に学校に行こうと告げる。待ち合わせは、いつもの高台。

翌朝、蘇美が高台を訪れると、慣れない制服に身を包んだ線の細い女の子が立っていた。

文字数:1200

内容に関するアピール

この話を作るにあたって、「何か」が結局何なんだよ……ってのは大して重要なことじゃないと、書き終わるまでは思ってました。
それよりも「何か」を通じて密接になっていく二人が最終的にどうなるのか、そこに重きを置いた物語の方が自分は好きになれると感じたので。
一応理屈っぽいこともあれこれ考えようとしたんですが、つくづくそういうのが苦手だなーと思いました。
でも、やっぱ、あれです。
球体の正体について筋の通った説明が成されていた方が、結果的に物語としてより綺麗に、魅力的になるよなと痛感してます。好みは言い訳に過ぎない。精進します。
ちなみに今回、今までの梗概の中で一番削る作業に苦戦しました。
頭の中でイメージしていることを限られた文字数の中で言語化するのは難しいなと、改めて思い知らされた……。

文字数:340

課題提出者一覧