声なき声、未知の投げかけ

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梗 概

声なき声、未知の投げかけ

太陽系外移民惑星ME505-Cに、識別番号不明の宇宙船が墜落した。異星人のものと断定された船の機体はバラバラで、生存者は絶望的だった。次の日、船の火災が収まったのを見計らって調査団が入る。船内は酷い有様で、知的生命体と思われる大量の死体が散乱していた。捜索を打ち切ろうとしたとき、捜索隊の1人レベリズがクラゲに似た半透明の浮遊生物を発見した。彼は船の正体を探るためにこの浮遊生物を捕獲して、研究施設に入れる。「タレス山脈」の麓に墜落した船で発見されたので、この生き物を「タレシピア」と名付ける。

地球外生命タレシピアの生態を知らないレベリズは、この生き物にありとあらゆる食料を与える。タレシピアはそれらに見向きもしない。いたずらに日数が経過して、タレシピアは次第に弱っていく。困り果てたレベリズはタレシピアの体組織を検査するために運び出そうとしたとき、体から触手が伸びて左腕を刺される。直後、レベリズの脳内にイメージが広がる。事故で死んだ恋人が草原に佇んでいるイメージだ。

レベリズの隙をついて、タレシピアは彼の血液を吸っていた。仲間の研究員が慌ててレベリズからタレシピアを引き離す。この生き物が知的生命の記憶を刺激してイメージを映し出し(この行為を〈投影〉と名付けることにした)、その隙に体液を啜っているのだと分かり、みな化け物扱いする。

一方、レベリズは投影を通じて、死んだ恋人にもう一度会いたいと思った。タレシピアの生態解明のための治験を買って出る。ところが、タレシピアは死んだ恋人の夢とは無関係のイメージを見せた。レベリズは何度も治験を行うが、望んだイメージが出るのは3回に1回程度で、他の夢では血を吸われることはなかった。

いつしかレベリズは、タレシピアが意思疎通しようとしているという仮説を立てる。「最愛の人の投影」は「体液」ないしは「食料」を意味していると予想したレベリズが、試験管に入った血液を見せながら彼の恋人の写真を見せた。すると、タレシピアは嬉しそうに体を何度も回転させた。その日から、レベリズはさまざまなイメージの投影を解析する。粘り強く1つ1つのイメージを、概念と付き合わせていく。努力の甲斐あって、1年で100を超える投影の言語化に成功する。タレシピアとレベリズは心が通い合っていく。

ある日、ME505-Cに異星人の巨大宇宙船が飛来し、突然攻撃を始める。地球人は慌てて応戦するが、宇宙船は大編隊を組んでやって来る。人類は地球に援軍を打診する。血で血を洗う全面戦争に突入しようとした。そのとき、タレシピアが何かを伝えようと、膨大な投影をレベリズに送る。解析すると、かつての宇宙船の墜落を地球人による撃墜と勘違いして、報復攻撃を仕掛けたと明らかになる。

レベリズはタレシピアを外に出して、異星人と交渉をさせる。直後、戦闘は完全に停止する。全てが落着し、不意にタレシピアはレベリズにとある投影を送信する。それは「タレシピアが草原に佇んでいるイメージ」だった。それが「愛してる」の意味だと即座に理解したレベリズは、人類流の愛情表現、抱擁をもって優しく応える。

文字数:1284

内容に関するアピール

何かを育てる物語ですが、相手をペット感覚で育てていく中で、愛玩動物を育ててそれで満足する話ではなく、価値観の変化を通じてリスペクトが高まる、育てる側と育てられる側双方の成長物語だと良いな、と思いながら作りました。(上手くいっているかどうかは梗概では未知数ですが、異形の「化け物」を私たちと同じ一個人として見なせる段階をゴールにしたかったです)

昨今、さまざまなジャンルにおける「分断」を見かけることが多いですが、まるで別の国の別の言語で話しているかのような錯覚に囚われます。そういうのを見るにつけ、やはりコミュニケーションの肝は、言語的な隔たりでなく、「相手を理解したいかどうか」というリスペクトに依存しているかどうかなのだと、逆説的に実感します。

なお、今回は文字数を削ると伝えたいことがうまく伝わらないのではと思ったので、あまり削っていません。すみません。

文字数:378

課題提出者一覧