梗 概
Be mine!
町田ユイはシェアをする。
資源保護と持続可能な社会を目指して制定されたサブスクリプション法案は、個人の体内に埋め込まれたICチップと体外の端末、口に入った食べ物と学校の単位と出席日数以外は個人間の同意のもと、人間や時間すらも料金分の利用ができるようになった。
チップに登録されている僅かな個人資産も、シェアハウスの家賃、サブスクの身の回り品に消えていく。それでも少しだけゼイタクがしたい、そんな時のために彼女は自身をシェアさせる。
18歳になると、人間と時間のシェアが法的に許される。学生の彼らができる簡単なお小遣い稼ぎは”自分がシェアされること”だった。魅力的な若者たちはたくさんの人にシェアされて華やかな生活をしているが、ユイ自身にはそこまでの望みはなく、平均的なシェアード数で自分の望んだアイテムを利用できるくらいの稼ぎがあればいいと思っていた。
そんなユイを変えたのは、彼女をシェアしている男の一人、安藤だった。
安藤は少し年上の社会人で、結構な稼ぎがある。彼は労働時間をシェアしない。単位と出席は自分の物、学業は代わってもらえないユイに安藤は夢を語る。
「いつか自分だけの家を持つんだ。中古でも、マンションの一室でもいい」
ユイには意味が分からなかったが、買った人数分ぴったりと角度を分けられるピザカッター、100円のボールペンにまで当たり前に取り付けられた支払金額分の利用量計になんとなく息苦しさを感じていた安藤は、文化人類学の授業で観た50年くらい前の映画を観て決めたそうだ。小さいものから自分のものにしていこう。
だから、いずれは自分だけの彼女になってほしい。「サブスクの払い下げ品だけど……」と頭をかきながら、ユイだけの時計をくれた。自分の物、少しの背徳感と特別な魅力があった。
それからユイは、自分のものを増やすべくアルバイトを始めた。すべての時間を自分で働いて、初めて買った自分だけのペンはとても愛おしかった。また、アルバイトと並行して、安藤も含めた男たちと徐々に契約を解消していった。互いが互いだけの物。シェアの契約をしていないのに、平等に訪れる幸福感。いつか、安藤と一緒に自分たちだけの家に住む未来を夢想する。
中古でも少しずつ自分の物を増やしていくユイを、やがて安藤はモノ扱いするようになった。やたらと命令口調になったり、嫌なことを強要するようなことも増えてきた。ヒステリックに怒鳴ったり、グラスや椅子に当たるようになった安藤と一緒に暮らせるのだろうかと不安な日々を過ごしていたある日、晩酌をしながら安藤は愚痴った。
「お前は俺の物だろう。なぜいうことを聞かないんだ。お前の代わりなんていくらでもいるんだぞ」
その言葉にユイは悟った。自分は安藤の家を飾る所有物(パーツ)でしかない。
安藤ほどの男ならば自分からシェアを申し出る女子も多いはずだ。マナー違反だから聞かなかったが、安藤は自分が利用している女子とは手を切っていないのだろう。
酔いつぶれて寝ている安藤の横に、初めて自分の物としてもらった時計を置いて、部屋を出る。
胸の痛みは、安藤と共有できないみたいだ。
文字数:1295
取材先
お話を聞いた方:マイカさん(某サブスク音楽配信会社勤務)
予定参考文献:サブスクリプションビジネス書
サステイナブルコミュニティ関連書籍
必要があれば文化人類学の概論がわかるもの
文字数:1406
内容に関するアピール
以前、ライブで知り合った方とお会いする機会がありました。
ライブの時はプライベートな話はあまりなく、おっ、これも取材じゃん!なんて思っていたのですが、いつの間にか何故この曲が好きなのかを説明したりと自分が取材されている状態になっていました。
お話をしている中で驚いたのが、最近の子はCDを聴く環境がないという話でした。
動画や配信が主流になっただけでなく、タブレットPCで大概の用が済むのでそもそもCDの音楽を聴く機会がない、流行の曲は誰かのプレイリストから聞いて話題についていければいいという価値観に絶句しました。
服やバッグなどもサブスクでレンタル・シェアするCMも見たことがあったので、このまま生活に必要なもののほとんどをシェアしてみたらどうなるだろうと思って書きました。サブスクリプションでレンタル・シェアになるものと、個人で消費できるものを短い中で書き分けるのが難しかったです。
文字数:395