プラーナ 内なる至福

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梗 概

プラーナ 内なる至福

 売れない漫画家であるアラキドは、注目を集める為に過激な表現を追求して一部からカルト的な人気を得ていたが、その作風が災いして表現規制団体の目に留まって炎上し、連載中止に追い込まれてしまう。収入がなくなり、持病のてんかん発作を抑えるための医療用大麻の一種であるカンナビジオール(CBD)製剤を購入できず、途方に暮れる。

 そこで以前連載していたコラム漫画の取材で知り合った、医療用大麻の研究をしている青年ミクリヤの事を思い出す。CBD製剤を安価に譲ってもらえないかと思い、ミクリヤのラボへと向かうと、陶酔状態の彼が出迎えられる。研究に必要な発想を得るために向精神作用をもたらす化学物質テトラヒドロカンナビノール(THC)濃度の高い乾燥大麻を服用しているのだと虚空を向きながら陽気に話すミクリヤに気圧されながらも事情を話すと、快く臨床用のCBD製剤「プラーナ」を譲ってもらう。

 アラキドは自宅に戻るとさっそくプラーナを服用してみると、五感が失われて虚無の闇に意識が包まれる。大麻から抽出される成分ではあるがCBDには陶酔作用がなくトリップする事はないので、騙されてTHC成分を含む違法なドラッグを渡されたのだと困惑する。だが同時に、アラキドは今まで感じた事がないような解放感を味わい、素晴らしいアイデアが次々と湧いてくるのを感じる。

 アラキドがアイデアの洪水に浸っていると、闇の奥から光が現れてミクリヤの声が聞こえてきて、この闇はプラーナを服用する事で到達できる異次元空間だと言われる。ミクリヤの声によれば、数億年前にホヤの神経系に誕生して以降すべての脊椎動物受け継がれたカンナビノイド受容体は、食欲や睡眠や不安コントロール、認知などの基本的な生態系機能の恒常性を保つエンド・カンナビノイド・システム(ECS)のために存在していると考えられてきたが、実際には神経伝達物質を異次元空間に出力するために地球外生命体が授けたゲートウェイだという。特殊な製法で作られたTHC濃度が極端に高い大麻を服用する事によってカンナビノイド受容体がある閾値を超えて意識が文字通りトリップし、不完全な肉体を捨てて精神のみで活動する事が可能となるというのだ。しかし、アラキドはミクリヤの声を信じず、プラーナによって幻覚を見ているのだと考える。

 トリップによって得た着想を元にアラキドは作品を構想して連載を得る事に成功する。プラーナを使えば天才的なひらめきを得られると喜んでいると、ミクリヤがオーバードーズによって亡くなっていた事を知る。死亡時刻はアラキドがトリップしてミクリヤの声を聞いていた時間帯であった。プラーナを服用し続けると命を落とすかもしれないとアラキドは慄くが、以前にミクリヤから大麻は陶酔作用をもたらし記憶を抹消する「毒」のTHCと様々な難病に効く「薬」のCBDなど複数の化学物質(カンナビノイド)を持っており、それらが相互に作用する事によってより大きな薬効を得られるアントラージュ効果があると取材で話していた事を思い出し、プラーナをCBD製剤と共に服用する事にする。

 数年後、ミクリヤは重厚な作家性とエンターテイメント性を兼ね備えた作風で知られる新進気鋭の人気漫画家となっていた。ミクリヤは創作に関してインタビューを受け、虚空を向きながら他者の声に耳を傾ける事が重要だと答える。

 

■参考文献

<図書>

・長吉秀夫『大麻 禁じられた歴史と医療への未来 』 コスミック出版,2019年,238p

・佐久間裕美子『真面目にマリファナの話をしよう』 文藝春秋,2019年,189p

・ジャスティン・カンダー『大麻草でがんは治せるか?: 植物性・内因性カンナビノイドの抗がん作用――最先端の研究と臨床例』OFFICE MIKI,2016年,221p

・科学雑誌Newton『脳とニューロンシリーズ第1回 通信する脳細胞たち』ニュートンプレス,2016年,15p

<映像資料>

・『大麻 悪魔のハーブ(字幕版)』 BBC STUDIO,2009年,イギリス(Hulu)

<その他>

・『CBDオイル CBD200mg』 サプリプラスファミリー

文字数:1686

内容に関するアピール

小川さんの登壇されていたゲンロンカフェの番組で、

取材対象と小説を書くという行為がリンクしていると良いものになるという話をお聞きし、

麻薬の持つ毒(THC)と薬(CBD)を、漫画という創作をリンクできないかと思い、このような梗概を考えてみました。

自分はドラッグどころかタバコやアルコールもほとんど接種しない人間なのですが、

これを機会にアンダーグラウンドな世界について調べてみようと思います。

文字数:193

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