超サイコメトラーMEIJI

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梗 概

超サイコメトラーMEIJI

私はかつてサイコメトラーだった。左手で触れた物や人の過去を視られるという力を活かし、大小いくつもの事件を解決していた。ある日の過去視サイコメトリー中、突然私の毛髪が力強く逆立ち金色に染まった! そう、私は超サイコメトラーになったのだ。超サイコメトラーとなった私は、手で触れたものの過去を超えて、その過去に登場するものの過去まで芋づる式に視られるようになっていた。

たとえばこうだ。石川和毅はその日皿(片付けず放置していたのは妻の麻夏)を片付けていたのだが手を滑らせて皿を割ってしまう。そのことを妻に毎日詰責される和毅は彼女にも非があったのではないかとサイコメトラー社に調査依頼を出す。
 私は過去視によって事件当日の和毅の指先にひどい湿疹を視た。和毅は3年以上手湿疹に悩まされており荒木皮膚科に通院し続けていた。しかし荒木医師はくり返し軟膏を処方するだけだった。アレルギー対策法や東洋医学的知見を彼女は知らなかったのだ。私には荒木が勉強を怠っている姿が視えていた。湿疹がなければ皿は割れずに済んだ。荒木医師の怠慢にも理由があった。子供時代、医者である親族たちに「とにかく医者になれ」というプレッシャーを受けていたのを私は視た。医師になることをゴールにした彼女が治療家としての成長に目が向かないのも無理はない。私は事件関係者全員に具体的な事件因子とその因子率を伝えた(その後どのように事件が収束したか私は知らない)。

超サイコメトリーを終えて黒サラサラヘアに戻ったわたしの心身はいつも磨耗していた。耐えられなくなった私は仕事を辞めた。勤続8年30歳の私は同僚に慕われていたが、伝説として語られていた超サイコメトラーに成れたことは誰にも告げず私は会社を去った。

私はある境地に達していた。結果から原因へ結果から原因へという再現のない遡りが私を境地に至らせた。それは〈すべては宇宙が生まれたからです〉という境地だ。この境地を広めるため私は本を書き配った。そして人が集まり教団化しその内側で人殺しが起きた時、教祖である私は「人を殺すのも殺されるのも宇宙が生まれたからです。」と言った(更に信者が増えた)。このセリフを吐きながら「何かが狂ってきている」と感じていた。しばらくして私は金を持って逃げた。

高速宇宙船で大きめの惑星に着陸し表面に左手で触れることを繰り返し、私は地球からかなり離れたところに来ていた。しかしどの惑星を視てもただ物質の凝集過程が視えるだけだ。原因結果原因結果の決定論的連鎖から外れるためのヒントを発見できるのではという期待は外れていた。もう75歳。やれることはやってきた。もう着実なやり方は不要だ。何か極端なことを?いや、そういうことではない。——どうして宇宙誕生より前には超サイコメトリーで遡ることができないのだろう?ふとそう思った私は、宇宙誕生から更に過去へ遡ろうとサイコパワーをぶっ放した。体がガクガク震える。頭の中でブチブチ音がして私は倒れた。床に叩きつけられる寸前私は「サイコメトリーとは一体なんなのだ?」と思いながら眼からの出血で視界が赤く染まるのを見た。

参考文献
 國分功一郎『中動態の世界 意志と責任の考古学』医学書院,2017.
 ジョージ・チャム ダニエル・ホワイトソン著、水谷淳訳『僕たちは、宇宙のことぜんぜんわからない』ダイヤモンド社,2018.
 横山裕一『トラベル』イースト・プレス,2006.
 渡辺慧『時』河出書房新社,1974.

文字数:1431

内容に関するアピール

意志と因果律について『中動態の世界』に引かれている参考文献リストからもうすこし読み込みます。
 時間の話でもあるので、『時』という本(これは借りたのは良いのですが難しい、、)を中心に、もうすこし入門向けの本を図書館で探します。

終盤宇宙に出てサイコメトリーを行う部分で、もっと良い方向に物語を進められる気がしていて、そのために意志や時間、それから物理などを取材してアイデアを深めたいと思っています。

文字数:197

課題提出者一覧