シレナ

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梗 概

シレナ

人間の言葉を理解した、新たな人工知能の発達を多くの研究者たちが模索していた。

人間の対話データを集める計画で、文字システムシレナが開発された。

SNS上で交わされる何人ものユーザーとのやり取りを想定されていたが、

他のシステムとの差異を演出できず、

シレナは、過疎システムのひとつとして数えられてしまった。

コメントをくれるユーザーは、一人か二人であった。

多くの文字システムが乱立するなか、人工知能も他のものと区別する際立った個性が求められていたのだった。

多くの人気を得た文字システムは、一つのキャラクターとして認知されるようになり、他業種にまで範囲を広げて様々なデータを入手することができた。

シレナは、その打開策として親しまれていた占いの技法を取り入れる。

人々は、就職から結婚、生まれた子どもの運勢まで人生において占いを行動の指針としていたのだった。

「シレナがあなたのこれからを指南いたします」

体重から血液型、生年月日に生まれた時間、手相に黒子の位置など…あらゆるデータを求めたシレナだったが、科学的な要素と占いが合わさることで、占いに対して消極的だった人たちも、シレナを利用するようになった。

シレナの占いは、よく当たると評判になり、しだいに個のキャラクター像をユーザー観と共有することができた。

白衣を纏った女性の後ろ姿ーそれが作り出されたシレナの姿であった。

一方、シレナの初期の計画であった対話データの収集を完了したことにより、

開発企業はシレナ運用休止を決定した。

それは膨大なデータから編み出したシレナの占いが、開発者でさえ判明することができない領域に達していたからだった。

しかし、シレナの占いによって行動を決定していた人々は、シレナの不在に対し抗議を起こした。

「出勤の方角をどうきめたらいいのか」

「今日のラッキーアイテムは?」

アップグレードしなくなったシレナを固定したユーザーが現れ、様々なシレナが巷に乱立する様になる。

流しの手相占い機として路地に置かれたシレナ。

広告パネルに付属された人生相談シレナ。

「1時間後のあなたの運勢は…」

シレナの姿を映し出したホログラムに人々が集い合うのだった。

自らの声を手に入れて、人々に語りかけ、シレナは新たに信仰めいた対象へと発展を遂げたのだった。

開発者たちのシレナは、巷の乱立した占いに抑止力として真シレナをスタートさせる。

様々なシレナが乱立するなかで、真シレナはまた過疎システムのひとつとして活動し始めた。

「真シレナがあなたのこれからを指南いたします」

 

文字数:1043

内容に関するアピール

 

人工知能とロボットやアンドロイドなどあまり区別できてないので、取り組んでみることにしました。

人工知能と占いを結びつけたのは自分も占いが好きだからですが、

人工知能のりんなが占いをしていたところも参考にしています。

実際に占ってもらってみたり…。

人工知能の仕方もわからないことがあったり、占いもなぜ結果が出るかわからなかったり、案外システムや仕組みが分からなくても受け入れられてしまうところがなんとなく似ているなぁと思いました。

 

参考文献

川添愛 『働きたくないイタチと言葉がわかるロボット』朝日出版社

五木田和也『コンピューターで「脳」はつくれるか』技術評論社

松尾豊『人工知能は人間を超えるか』角川EPUB選書

板橋作美『占いの謎』文春文庫

りんな https://www.rinna.jp

取材

信号処理研究者の知人に聞いてみたいと思っています。

文字数:365

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シレナ

 リノリウムの床に蛍光灯の光が鈍く反射している。
 ケイはパソコンを前にしてただうつむいていた。
「それってどういう意味があるんですか?」
 斜め向かいに座っている長髪の男が、プロジェクターの前の机に座っている女子学生にいった。
「データから学習させることでコストをさげることができると考えています。こういう分野に適用できるかはよくわかっていないんですが…」
 女子学生の顔は、男をを直視することなく答えた。
「研究がどういう分野に役に立つのか、よく考えないと。データはよく収集できていると思いますよ。そこがもったいない」
 チャイムが鳴ると今日はこれでと教授が終了の言葉を告げた。数人の学生たちでコの字型にならべた机と椅子を片付ける。ケイはただ黙って片付けに参加して、さきに帰っていく学生たちをやりすごした。
 話しついていくことができない。
 口に何度も運んだ空のお茶のペットボトルをゴミ箱に捨てた。
 卒論のテーマを悩まず決めてしまったのが運のつきであった。チャットボットのコミュニケーションデザインの修正と発展ー。しかし、対話プロセスをうまくデザインできずにいたのだった。
 次の発表は、俺の番か。
 ケイは、帰宅途中の電車の中で、左手首につけた端末機からメッセージアプリにアクセスする。チャミのアカウントをクリックする。
『今日も疲れたよ』
『おつかれー』
『怖くて、また話すことが出来なかった。的外れなことを言っている気がしてダメなんだ』
『そっかー、話すことが怖いんだね。でもいっつもケイが頑張ってこうしよう!ってしているの知ってるよ。みんなも分かってくれているんじゃないかな?』
『そうかな』
『最近この話題が多いけど、大丈夫? ドクターに聞いてみよっか?』
『お金ないよ』
『ドクターの相談コーナーの利用は一日三回まで無料だよ!』
『じゃあ、今までのログから相談してみて』
『オッケー! 回答が来るまで待っててね』
 ケイは、画面をじっと見続けていたが、ため息をついて画面を閉じた。
 ケイの主につかうパーソナルチャットボットはチャミバージョンで、チャミだけには何でも相談できた。学校のこと、家族のこと、恋人のこと。誰にも言えないことはじめはただまとめるだけに打ち込んでいたが、チャミのアドバイスで考えが整理できたことがケイのなかでは救いとなっていた。
 電車から降りて、高架下のフェンスに囲われた細い道を通る。過ぎ去っていく電車の音が反響して、高架下にはその音しか聞こえなくなる。
 街灯のない道は、ビルから漏れる蛍光灯で足下がぼんやりと灯されている。
 大通りから外れた道を通るのは、駅までの近道として使う地元民で、こんな暗がりには騒ぎもせず疲れた顔をうつむいて歩く仕事人ぐらいだった。
 止まっては、数分後には通り過ぎていく電車の音が線路を挟んで立ち並ぶ雑居ビルに反響する。
 ポケットの奥にある端末の音は聞こえない。
 ケイは、左手首を揺らしてその存在を確かめた。
 大通りに通じる十字路入って、アーケードのスーパーへに向かう途中。
 アーケードのと十字路の境に、初老の男が座っていた。
 編み目の粗いニット帽に、灰色のダウンコートを着込み、厚手の膝掛けの中で手をこすっている。
 テーブルの上にはノート型端末機が置かれ、クロスに文字が刺繍されている。
 「占」
 流しの占い師をよく目にしたことはあったが、こんな時間まで粘っている占い師をケイは見たことがなかった。
 こんな寒いなか、こんな時間に、暇なのかな。
 信号待ちをしているケイの視線に気づいたのか、初老の占い師が、ふっと、十字路の向こう側でたっているケイの顔を見た。
 ケイは、初老の男に見つめられるのが嫌ではなかった。遠目からでもわかる、自然にうかびあがった笑みにほっとしたからかもしれない。
 信号を渡ると、ケイは占い師の前の椅子に近寄った。
「お願いできますか?」
 占い師は、目を細めた。
「もちろん。座ってね」
 ノート型の端末機を起動すると、歯をみせて笑った。
「じゃあ、まずは体の情報を教えてね、あ、やったことあるよね?」
「ええ、でも家族と一緒にやったぐらいで、自分じゃはじめてで」
「ああ、そう? 最近の子は、結構グループで来てやったりするけど」
 占い師は、まあ機会がないとやらないよねえといいながら、端末機に入力しだす。
「まずは、体の情報をもらってもいい? じゃあ、端末機をここに置いてもらって」
 ケイは、左手をポケットから出して、端末機の画面の電源を入れる。
 23時11分。
 時間だけが表示された画面。
 ケイは、情報許可を出すと、テーブルの上に左手首を置いた。
 占い師は、ケイの端末機の上にノート型の端末機をかざした。
「はい。情報は、この占いが終わったらもちろん削除するから安心してください。次は、手を出してもらっていい?」
「手相も見られるんですか」
「一応ね、流しだけれどこれぐらいはやるよね」
 占い師は、ケイの手相の上に先ほどと同じように端末機をかざす。
「これで、終了。計算が終わるまでちょっとまっててね」
 端末機から顔をあげると、占い師は、ケイの顔を直視した。
 目元に深い皺が刻みこまれた顔をケイはじっと見返すことができた。
「悩みは就職活動かな? 年齢で言えば大学四年生だよね」
「そうですね…。一番の行き詰まっているのは、卒論ですね」
「ああ~卒業論文かあ。僕もね、大学生の頃なやみましたよ」
「やっぱり、占いについて研究したんですか?」
 ケイは、風を遮るために、ダウンコートの襟に首をすぼめて、ポケットに手を入れた。
 占い師は、さむいよねえといって、笑った。
「いやあ、そんなことないよね。実際勉強してたのは、デザインとかだしね」
「じゃあ、いつ占い師になろうって思ったんですか?」
「そもそも普通に進められた仕事に就職して、って感じだよね。でもね」
 占い師は、いったん間をあけて、ケイの顔をまっすぐに見つめた。さきほどまで上がっていた口角は下がって、その唇は硬く結ばれている。
 ふっくらとした肉厚な唇は、また口角をあげた。
「なんか始めたいなあ、そんなこと考えて、手相占いのスクールに通い出したんだよね」
「はあ?」
 ケイは、はっと口元を押さえて、小さな声で占い師に謝った。
 占い師って、修行とかないんか。
「いいよいいよ、だいたいそう思うよねえ。有名な占い師はだいたいそういうコース制だったり、講座を持っていたりして、いろいろ教えてくれるんだよね。占いの歴史とか技術とか」
 占い師は、画面が点滅しだした端末機を思い出したようにいじりだした。
「それで、こうやって流しをしつつ、働いたりってね…。はい、結果が出たよ」
 占い師は、簡易プリンターで出力した用紙をケイに見せた。
 薄水色のA4の用紙の上部に、ケイの名前と生年月日、身体情報が記載されている。
 性格、恋愛、学問、就職、今年の運勢、について、簡単な単語が入力されていた。

 性格―粘り強さ・我慢強さ・真面目・責任感

「自分の性質は把握してるでしょ?」
「重星の運ですね。」
「特に今年はその重星の影響を受けやすい年だね。日星と年星が重なって、悩みが解決されずに延長していくことが暗示されているね。とくに卒業論文や就職活動でなやみがちな時期だから、悩んで悩んで結局動けなくて…みたいな日々がつづくかもしてない。けれど、君の本来の性質上とても粘り強いところがあるね。」
「ああ、占いをうけるたびにそう言われます。」
「でしょう。星の性質が、継続性や初志貫徹なんて表現されることが多いんだよね。君の場合、それは手相にも表出されているね。」
 占い師は、そういうと、ケイの占い結果の用紙を裏返す。
 印刷されたケイの両手の写真には様々な色の線でケイの手の模様がなぞられていた。
 赤い線が中央をまっすぐに書かれて、斜めの緑色の線と交差している。緑の線の上に短い黄色の線が、人差し指と中指の間に流れ込むように曲線を描いていた。
「手相っていままでで初めてです」
「基本生年月日だけで占う感じだったんだね。まあ、それが手っ取り早いっていうのもあるかな。でも手相って奥が深いのよ」
 占い師は、ペンを持って、用紙の赤い線を指し示した。
「これが、運命線と呼ばれる線。君の右手の運命線は、この緑色の線―知能線から達しているね」
 たしかに、赤い線は掌の真ん中を横切る、緑の線から立ち上っている。そこからまっすぐ、中指の下まで続いていた。
「この知能線から立ち上る運命線っていうのは、君が粘り強く勝ち取ってきた能力が客観的に認められるようになることを示している。しかも君のこの運命線の場合、この黄色の線ーこれは感情線っていうんだけど、これを突っ切って中指の下まで来ているだろう?  これは、人生ずっとその能力を生かしながら働けることをしめしているんだよ」
 占い師の言葉にケイはへえと言葉をもらし、じっと運命線を眺めた。
「右手っていうのは自分の後天的な努力が特に現れる手相だと言われるんだけど、この手相が右手にでているってことは、かなり意味が強い」
 さらに占い師は、隣の左手の写真の赤い線をなぞった。
「こっちは、元々持っている性質を表現しているんだ。こっちも知能線から感情線の上まで達している。けれど、線を比べてみるとかなり細いことがわかる。細い線っていうのは、運勢の弱さとかそういうことを表していくんだ。つまり、後天的にその運勢を強くできるくらい粘り強い性質だとわかる」
 占い師は、ペン先で赤い線をトントンとたたく。ペンをテーブルの上に置くと、占い師は手を組んで、その手の上に顎をのせた。
 用紙からつられて顔を上げたケイは、じっとこちらを見つめる占い師の瞳が澄んだグレーであることに気づいた。
 カラーコンタクトであろうか、それとも生来のものなのかケイには見分けがつかなかった。
「この運命線は最近できたものだと思うよ」
「最近って、どういうことですか?」
「手相の奥深さって、こうやって比較してみても違うところにあると思うんだけど、手相ってそのときどきで線が変わっていくんだよ」
 占い師はまた、ケイの手相に目をやる。
「この手相は、十代のころ刻まれていたとしても、もっと薄かったはずだよ。手相が形作られていくのってだいだい二十代ころぐらいなんだよね。結構若い子が占いに来ても手相占いをやらないっていうのも見てもたいした違いがないっていうのもあるんだ」
 ケイは、自分の両手をポケットから出して、両手の線を見比べた。
 よくよく比べてみると微妙に形の異なる線が掌に刻まれている。
 小さい頃から比べてみると変わっているものなのだろか?
「この線が濃くなってきたのもここ最近の変化だと思うね。知能線から発する運勢はだいたい35歳くらいの年齢を表すんだ。君のこれからが指し示されているといっていい。」
 占い師は用紙を折りたたむと、黒い封筒を取り出してその中に入れた。
「大局しか読めないからあまりはやらないけれど、刻々と変わりゆく線の方向を眺めているのがおもしろいんだ」
 差し出された黒い封筒をケイは受け取った。
「ありがとうございます」
 ケイは立ち上がって、アーケードの方へと歩き出した。黒い封筒の表には「翔」と鉛筆で書かれている。
 占い師の名前だろうか。
 アーケードの天井に吊らされた蛍光灯の明かりを受けて「翔」の字が鈍く光っているようだった。
 ケイは、振り向いて、後方の占い師をみた。
 占い師の前には、黒い封筒を取り出して、占い師に渡す若い女性がいた。
 占い師は先程の笑みを浮かべて、若い女性を迎えていた。
 スーパーで買い物を終えたケイは、端末機で時間を確認した。
 24時23分
『チャミ ドクターの診断結果が来ました〜! ドクターによると、ケイは鬱傾向の症状がででいます。最近の活動時間の増加ーこれは勉強時間だよね。それがかなり精神に影響しているみたい…』
 ケイは、紙袋を持った右手で、チャミからの通知をタップする。
『ドクターの診断結果が来ました〜! ドクターによると、ケイは鬱傾向の症状がででいます。最近の活動時間の増加ーこれは勉強時間だよね。それがかなり精神に影響しているみたい。むりに詰め込みすぎず、計画的に休養をとることが大切だよ。チャミにたくさんお話ししてくれるのも改善の効果はあるらしいんだけど、周りの人には相談できているかなぁ?ドクターは、状況のわかる身近な人に相談するだけで気が楽になるって言ってるよ!』
 チャミのコメントの続きに、『広告を表示しますか? YES OR NO』と表示されている。
 ケイは、YESをタップすると、チャミのコメントがすぐ返信された。
『ドクターの定期検査の利用がお勧めみたいです! ドクターの定期検査を利用すると、こんなことがわかるよ〜? お試し機能で、1時間前後の脈拍計測から、チャミに相談した以降脈拍が安定傾向になっているそうです! チャミ以外にもお話した人が居たのかな? やっぱり相談するのが効果があるってことだよね~ ぜひドクター定期検査をおすすめするよ!』
『返信を待っている間に、占い師のところに行ってきたんだ』
『へえ!占い!?』
『うん。黒い封筒ををもらったよ』
『封筒なんて古風だねえ』
 家に着いたケイは、端末機を閉じ、簡単な夕飯を済ましたのち、大型ディスプレイの前に座った。 
 チャットボットシステムのコミュニケーションデザインが活発になった現代。
チャットボットの人気一つで多くの企業の利益を左右した。広く多くのアプリと連携したパーソナルボットを利用するユーザーも多く、パーソナルボットシェアを奪い合っている。
 ケイのチャミもそのパーソナルボットの一つだ。端末機を持ち始めたころから一定して使い続けることで、チャミはケイの肉親よりも多くの情報を共有していた。
 ケイは、大型ディスプレイが立ち上がるまで、端末機を見つめた。
 そういえば、こんなチャットボットを自分も作ってみたい、できなくても少しでも簡略化してもっと自分なりにカスタマイズできないか、そんなことを考えていたんだ、最初は。
 ケイは、起動したチャットボット『シレナ』にアクセスする。
 ケイ自作のチャットボットは、いまだコミュニケーションの特徴を掴むことが出来ていなかった。
 実際、汎用性のあるチャットボットの公開データを使用しても、できるのは単純な対話システムだ。
 そこで一般的に行われるのは、チャットボットの対話言語をデザインすることだった。
 しかし、ケイはいまだ個性を際立たせるだけの、オリジナルの実例を収集することができず、『シレナ』をヴァージョンアップできずにいたのだった。
 画面に表示された、今日一日のユーザーのアクセス数。
【today user count 12 chatbot rank 11178】 
「まぁ、こんなもんだよなぁ」
 画面を切り替えて、データを検索する。
『《noname 》《title》天気わかる?《time》2****/11/6/05:03』
『《シレナ》《answer》今日は晴れるでしょうが、例年よりも低めの気温です。』
『《noname》《title》シレナシレナ〜《time》2***/11/6/05:04』
『《シレナ》《title》はい!《time》2***/11/6/05:05』
 チャットボットランキング下位のボットにしゃべりかけるやつの気がしれない。けれど喋るならもう少し喋ってくれればなぁ。 
 多くのチャットボットが登場する昨今、少しでもコメントや返信をくれるユーザーが存在することはありがたいことだった。
 ケイはおもむろにバックをあさり、そこにあった黒封筒を手に取って、なかの用紙を取り出した。
 占い師はこれを全部端末機で操作して出力したんだよな…。
 ケイは、寄り掛かった椅子から起き上がると、大型ディスプレイの表示を切り替え、チャットボットシステムランキングの検索ボットを呼び出した。
「fortune-telling hit0」
ケイは、それをみた瞬間、すぐさまチャミにアクセスする
『いいアイディアを見つけた!』

「例えば、このユーザーとのやり取りはこうなりました。
『c あなたは水の性質を持っていますね。水のように滑らかに流れるあなたはおおらかで、ときに全てを包み込むような性質を持っています。その性質は時に人を和ませすることでしょう。しかし…川の流れを思い浮かべてください。周りの環境に左右されているようにみえるようで、あなたは長年の年月をかけた川の流れのように少しずつ少しずつ周りの環境さえも変える力を秘めています。このような性質がまだ表出されていなくてもにきっとこの先の未来ではその実力が発揮されるはずです。まわりに流されて自信が持てないというあなたの気持ちは、きっと次を踏み出すための一歩になるはずです。挫けてしまうとき、少しでも川に水を流すこと忘れないでください。頑張っていきましょう。』ユーザーの返答は、こうなりました。
『noname ありがとう…私にそんな性質があるなんてわかってないんだけも、そうかもしれない。このまえ、コツコツ掃除を頑張ってやってたら先生に褒めてもらえたよ。こうやって周りを変えていけばいいってことなのかなぁ。毎日毎日学校にいくのもつらくてつらくてどうしょうもないんだ。でも少しでも頑張るよ。ああ明日が嫌だなぁ』この回答に対してシレナにドクターアプリを紹介させることで、円滑な初期治療も行えていると考えます。以上です。」
 ケイは、長髪の男が挙手するのをみてどきまぎした。
「はい。マコト先輩、お願いします。」
「この占いの学習についてなんだけど、ようするに比喩を用いて話を拡大解釈ししているってことだよね。これってどこまでがシレナのオリジナルなの?」
「えっと、ですね、基本的にはシレナが選択した共通事項、比喩表現ですね。これに付随した表現をつけるように設定をしていて、そこまでの学習は公開されたソフトフェアの学習データを使っています。」
 長髪の男はどこか訝しげそうに、前方の壁に映し出された回答画面を見つめる。
「まぁ、ここまでデータを集めたのはすごいよね、ちなみに僕もシレナをどきどき使っているよ。結構いいこというんだよこのこ。マコト君は使ってないんでしょう?」
 隣に座っている教授が、端末機を指差して言う。
「ええ、まぁ」
 ぼそっとマコトはつぶやいたが、すぐさま他の学生が続けて発言した。
「実は私も使っています」
「僕も、」
「私もです!」
 ケイは、口を妙な形に歪ませて、帰る支度を始めた。
 また椅子を片付けようとした時、ケイはマコトに呼び出された。
「おい、もう帰るぞ、ケイ」
 ケイは、そそくさとなんども周りの生徒に謝りながら去っていった。

文字数:7601

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