死人のカンカンノウ

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梗 概

死人のカンカンノウ

   落語「らくだ」 あらすじ

 らくだ、というあだ名の長屋に住む乱暴者がフグの毒にあたって死んだ。それを見つけた兄弟分の半次。弔いをしてやろうと思ったが生憎懐は寂しい。らくだを恐れる葛屋が通った。半次は屑屋に室内のものを買うように言う。だが屑屋はらくだの私物は状態が悪いと断る。以前から、さんざん押し売りされていたという。
 半次はそこで、長屋の者に香典を出させるように、屑屋に言う。屑屋は嫌がるが脅されて仕方がなく月番のところに向かう。
 らくだが死んだと説明するが月番はなかなか信じない。それでも根気よく説明すると、月番は大変喜ぶ。「フグかあ、よくあててくれたもんだ!」。屑屋は月番にご祝儀を出すようにお願いする。渋る月番だったが、半次がらくだの兄貴分で説明するとなんとか出してくれることになった。
 屑屋が半次にそれを説明すると、今度は大家に通夜で出す食事と酒を準備するように頼めと言う。断られるという屑屋に半次は、
「死骸のやり場に困っております。今からこちらにお届けになりますので煮て食うなり焼いて食うなり好きにしてください。ことのついでに死人のカンカンノウを踊らしてごらんに入れます」と言えと命じる。
 大家のところに行くと、月番かららくだが死んだと聞いた大家が大喜びで屑屋を迎える。だが屑屋が半次の要求を説明すると、顔をしかめて「いままでらくだは店賃を払ったことが一度もない」と言う。それに屑屋がカンカンノウの話を大家にすると、「見せてもらえるなら見せてもらおうじゃねえか」と屑屋を追い返す。
 大家との件を半次に言うと、半次は屑屋の背中にらくだの死体を背負わせ、大家のところでかんかんのうを踊らせる。大家はこれに参り、料理と酒を届けることを約束する。
 つづいて半次は屑屋に漬物屋へ行って棺桶代わりの漬け樽を貸すように言えという。漬物屋は屑屋の申し出を断るが、またもやここでカンカンノウ。大家のところで一回踊ってきたことを屑屋が言うと、漬物屋は一番良い樽を貸してくれる。
 半次のところに戻ると大家からもらった酒を飲んでいて、屑屋にも飲むように言う。屑屋は飲むが、その飲みっぷりを気に入った半次はどんどん注ぐ。だんだんと酔ってきた屑屋は半次に対し強い態度に出るようになり、口調も荒くなっていく。そしてらくだからいままで酷い目に合ったことを愚痴っぽく説明する。半次もわかった、わかったと言うが屑屋は止まらない。
 そうこう話をしていると、話題は葬儀のことに移る。落合の火葬場に向かうことになり、らくだの頭を剃刀で剃り、出発する。
 二人とも酔っているので、道中で桶に入れたらくだを落として、火葬場に着いてしまう。火葬場の人間にそれを指摘されると、道を戻り路上で寄って寝ている坊主をらくだと間違えて火葬場に運び、燃やしてしまう。
 火のなかから坊主が飛び出てくる。「ここはどこだ」「焼き場だ。日本一の火屋だ」「冷やでもいいからもう一杯」


以下、梗概

 

 複数の大学の芸術サークルが合同で行う年一回の展覧会の今年のテーマは「死体」だった。死体を特殊加工することで長期保存するプラスティネイションや、死体に電気を流してパペットのように操る技術理論の紹介、人体解剖蝋人形などが展示され、その不謹慎さから賛否の声が上がるなか、三日目に一室で落語が行われた。噺は「らくだ」。
 ただし噺家が行うのではなく、アンドロイドに故人の噺家をプロジェクションマッピングで投影し、音声もその噺家のものを使われることになった。
 会場は満員だったが、一般の客より芸術サークルのメンバーが多かった。この企画を発起人であるアンドウと同じサークルに所属するサクマも会場にいた。ほかの展示が重苦しいものが多かったから、素直に落語で笑いたいと思って真っ暗な会場に入った。今朝からアンドウを見ていなかったから、本当に行われるのか疑問だったが噺が始まった。「長屋にらくだと呼ばれる男がいまして……」
 噺は客に大いに受けていた。途中で照明が灯り、映像が消えた。そこにはアンドロイドがいる、はずだった。だが違った。アンドウがいた。それも生きたアンドウじゃなく、死体のアンドウが。
 顔がところどころ鬱血しており、誰がどう見ても死んでいた。だが死体は動くことをやめなかった。客の頭に、死体に電気を流してパペットのように操る技術のことがよぎった。噺は何事もなかったように続けられた。だが、もはや誰も笑わなかった。それどころか誰も動けなかった。

 死体――アンドウの大柄な性格は他大学にも知られていた。誰よりも才能があるというように振る舞い、王様だった。アイデアをぼこぼこ出し、コンペにもよく参加し、実際に評価は高かった。だがそれにはタネがあった。盗作だったのだ。彼は言葉と拳を巧みに操り才能のあるアマチュア芸術家を脅してアイデアを徴収していた。主人公のサクマもその一人だった。他にもアンドウの被害者は会場に大勢いた。

 誰も笑わない噺が進むなか会場でただ一人サクマだけ、自分のなかの感情が少しずつ変化しているのを感じていた。最初は他の客と同様に恐怖と嫌悪感が強かったが、徐々に不思議な高揚、ともすれば感動が生まれていた。それはアンドウの幼馴染としてのサクマのなかに生まれた感情だった。
 アンドウは高校生のころ、サクマと同じ美術部に所属していた。だが彼には才能と呼べるものが何もなく、彼の作品は哄笑の対象だった。そして大学では才能ある人間の作品を奪って自作とした。そんなアンドウが彼自身のオリジナリティを伴った作品を提示している。そのことに対する感動だった。
 誰も笑わない会場で、サクマだけが笑いはじめた。

 噺は従来の「らくだ」から大きく逸れはじめた。酒を飲みながら話す平次と屑屋のあいだにいたらくだは起き上がり酔った二人を見つける。強気の屑屋を拳一つで黙らせ、自分が死んでいたときの事情を二人から聞く。
 全て聞き終わるとらくだは自分の死を笑った人間を順番に殺していくと言う。平次は慌てて止めるが聞かない。そこで屑屋が一つ提案をする。
「この長屋をカンカンノウを踊って回るってのはどうですか。きっとみんな腰を抜かすに違いないですよ」
「カンカンノウ、キュウノレス……」
 アンドウは噺をとめない。会場は失神者も現われはじめる。だがサクマは笑っている。
 月番、大家、漬物屋。みんな泡を吹いて倒れる。酒が入っている平次と屑屋はそれを見て笑い転げる。

 

                                                     梗概文字数:1405

   参考文献
柳家つばめ(1967)『落語の世界』講談社.
相羽秋夫(1991)『落語入門:おもしろ落語の“ら”の字から』弘文出版.
藤山直樹(2012)『落語の国の精神分析』みすず書房.
田中敦(2017)『落語と歩く』岩波書店.
   CD
桃月庵白酒(2015)「らくだ」,『桃月庵白酒3』毎日新聞落語会.

 

文字数:2846

内容に関するアピール

 倒錯した友情もの、です。

 藤山直樹さんの『落語の国の精神分析』という本を読んで、今作の構造はほぼ決まりました。藤山さんは精神分析家という職業(この職業自体、初めて知りました)の方ですが、大の落語好きであり自分でも演っていて、本書はその二つを繋げるというあまりない形のものでした。「らくだ」はその中で取り上げられており、「死」に対する恐怖と「死体」に対する恐怖というものは違うのだ、ということを明かしておられました。本作はそのテーゼを引き継いだ作品となっている、はず、です。

 落語シーンは「」を連続させるという方法で落語感を出したいです。
    例:「らくださんの兄貴分と言う方がきておりましてね」「なに、らくだの。ああ、ろくなもんじゃねえ。関わっちゃいけねえぞ」「手遅れ、でございます」

文字数:344

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死人のカンカンノウ

     1

 明かりは完全に落とされているが、辛うじて高座の上に提灯が見えた。夏祭りの屋台で使われているような小綺麗なものではなく、使いこまれたあとがある。その下には、右から左に「和気満堂」と墨で書かれた額まであった。気合いが入っているように見えるが、むしろ形から入っただけという印象が強い。
 高座の座布団の上に座る人影にプロジェクションマッピングの光が当たり、その人物が映像のベールで覆われていた。プロジェクションマッピングの光は内省的な輝きだ。それは光が自らを外に洩れないように抱きかかえているように人には映る。
 サクマがパイプ椅子に座るときには、部屋は八割方埋まっていた。あちこちで小さな話し声が聞こえる。どの声もこれから始まる落語に対する期待感で明るい。部屋の外に並んでいる展示よりは心穏やかに観られるだろう。そんな安心感が声によく出ていた。
 開演までまだ少し時間があった。携帯端末で先ほどから開いていたこの企画の紹介文を読む。
「人形を完全な死体だと見做すことは可能でしょうか」
 紹介文の冒頭は、このような問いかけから始まっている。
「この問いには、人には魂があるからいけないのだ、という思想が見えます。魂がないゆえに人形は死体として完璧なのだと。
 アンドロイドという人形が落語を行うというのは、何より技術の発達によってなされるものですが、思想の面ではこの完璧な死体という考えを引き継いでいます。ある落語家は『落語とは人間の業の肯定』だと言いました。落語にはろくでもない人間が大勢出てきますが、これらのほとんどは作中で「更生」することなく、考え、話し、行動します。とくに滑稽話ではそれが顕著です。落語というのは、ある種の自然主義を導入することによって、人間の業を表現するメディアだと言うのです。
 今回、私が落語に拘ったのはこの点にあります。人間特有の業というものを、果たしてアンドロイドが演じることができるのか。できたとして、それは人間の業と言えるのか、あるいはアンドロイド特有の業が立ち現れるのではないか――私はそれを見てみたいのです」
 部屋は少し冷えていた。一枚羽織ろうと身体を動かしたところで誰かがサクマの袖を軽く引っ張った。振り向くと、実行委員の腕章をつけた女性がいた。胸元の名札にはハセベとあった。
「アンドウさんって、今どこにいるかわかります?」抑えた声でハセベが言った。
「いや」サクマは首を振る。「そういえば今日は見てないですね」
「いないんですよ、アンドウさん。この企画の責任者なのに」
 ハセベは無作法にならない程度に息をつき、きゅっと口を結んだ。サクマは大学が違うハセベのことをよく知らない。だがきっと真面目な人なんだろうと思った。
「家で寝てるんじゃないかな」サクマは
 サクマがそう言うと、ハセベは眉をひそめた。
「本気で言ってます?」
「本気で言ってます」サクマは頭の中で、部室で他人の作った作品を蹴り飛ばすアンドウを思い浮かべる。「アンドウなら、そういうこともあるかもしれないですね」
 進行に問題が出ますか、とハセベに訊くと、そうではないと言う。ただ、責任者がいないのが問題らしかった。ハセベは、もう聞くことはないというように立ち上がる。何か手伝えることはないかと腰を浮かすのを、ハセベが手で制した。
「大丈夫です。時間通りに開演します」
 ハセベはそう言って、部屋を出ていった。

 六大学合同展覧会の今年のテーマが『死体』だということを、サクマは大学の授業中にスズハラからの連絡で知った。
 展覧会の四ヶ月前のことだ。
 教室では、人が神に顕彰されていく過程を若い准教授が説明していた。
「あれ、企画会議ってもう終わったのか」サクマは筆箱で端末を隠して返信をした。
『昨日な』
「連絡回ってきてなくないか」
『いや。俺もさっき部長から直接聞いただけだから。廊下ですれ違って。連絡はこれからじゃないかな』
 毎年都内の六つの大学で行われる展覧会は、大学生の集まりとは思えないほどの規模で、一般の人にも公開されている。学祭で肩身の狭い思いをしている美術部の晴れ舞台でもあった。特に展覧会後に引退となる三年生と、大学に馴染み時間にも余裕のある二年生のモチベーションは高い。他大との交流はコネクションを作るチャンスでもあるからだ。サクマは二年。当然、展覧会への興味は強い。だが、会議の話は聞いていなかった。
 例年、各大学から実行委員が二名から三名選出され、会議を行う。そこで会計についての決め事や会場となる大学の決定、展覧会のテーマなどが決められることになっている。だがサクマは委員が誰かすら知らなかった。
 ある予感がした。
「委員って、もしかしてアンドウか?」
 スズハラからの返信はまた早かった。
『俺もさっき知った。部長に、自分が委員をやるって言ったんだと』
「それでほかの部員に相談もなしに? ほかの委員は?」
『アンドウと一緒に委員をやりたがるやつがいると思うか?』
 それもそうだった。
 美術部でのアンドウの扱いは、未だに決まっていなかった。腫れ物であることだけが確かだ。だが、退部勧告の出し方など部員の誰も知らない。
 サクマが美術部に入って納得したことは二つ。一つ目は、明文化されたルールがなく、参加者の良心で成立している空間では、突飛な人間がやってくると途端に駄目になるということ。二つ目は意思決定ができる人間が少ないと、声の大きい人間の天下になるということだった。つまり声が大きく突飛な人間がいると、大学のコミュニティというのは治安が急激に悪化する。
 肩を竦める猫のスタンプを送ると、すぐに既読がついたが続きはなかった。
 ふと、思いついたことがあった。このテーマを提案したのはアンドウだろうと思ったのだ。なぜそう思ったのかわからない。だが確信に近かった。
 死体、という語について、以前アンドウが何かを言っていた覚えがあった。だが、詳しい名前が思い出せない。かろうじて憶えていた「ドイツ 死体 展示」と検索すると、すぐに欲しかった情報が出てきた。
 プラスティネーション。
 遺体の水分や脂肪を合成樹脂に置き換えることで腐敗させずに保存可能にする技術のことだ。ドイツの解剖学者がその技術を使って自前の工場で大量に「芸術品」を作成し、展覧会を開いたとある。
 『BODY WORLDS』という題のついたその展覧会の画像を見ると、プラスティネーションが施された死体同士をつなぎ合わせ、阿修羅のようなものや、馬の死体とつなぎ、人馬一体となったもの、縦にスライスされたもの、神経だけを置き去りにして走る遺体などがあった。口からどんな内実を含んでいるのか自分でもわからない吐息が洩れる。
 サクマとアンドウは同じ高校の美術部にいた。部は強豪で、部員も多かったから、サクマはアンドウと話す機会はなかったが、とにかく乱暴な奴だと聞いていた。先輩を殴って停学になったという話もあった。だからなるべく接点を作らないようにしようと努めた。だがある日、サクマが美術室に入るとアンドウがいた。
 ほかの部員はいなく、振り返ったアンドウと目が合った。
 校庭に面した窓の外から、マーチングバンド部からの熱気が攪拌されたような声が聞こえていた。
「これ、どう思うよ」
 サクマが目を逸らすよりも早く、アンドウが近づいてきた。手に持っていたタブレットの画面を見せてきたのだ。そこには、筋肉をむき出しにした人間が展示されている写真だった。リンクには『BODY WORLDS』という展覧会の名前があった。
 サクマが何も応えないと、アンドウは一つ舌打ちをした。だが、本当に機嫌が悪かったのなら、サクマには実害があったはずだ。アンドウの機嫌は良さそうだった。
 いいか? とアンドウはサクマの目を見て言った。この作者は、祝祭的な死体を作ることによって、人間が持つ死体への恐怖を和らげようと考えた。
「だがな、俺はそうは思わない。俺から言わせれば、いいか? この作者にはな、死体の国のようなものが見えていて、それを現世に展開したかったんだ。作者の本音はこっちだろうさ」
 サクマが持つ端末の画面に映る解剖学者の目には、どこにも狂気は見当たらない。あの日、展覧会について話したアンドウの目にも、狂気はどこにもなかった。むしろ冷徹な視線だった。それは確かにサクマの目に向けられた視線だった。だがあの視線が自分に向けられたものだとは、サクマには思えなかった。それは、その先を見据えていた。
 正気でしかいられない宿業を背負った人間の目なのだった。

     2

 死体というテーマから考えれば、会場は予想外の盛況だった。あちらこちらで笑い声が聞こえた。通常の美術館のような静かに鑑賞するのでもなく、かといって居酒屋で馬鹿騒ぎをするような笑い声でもなかった。それは、言うならば意識の変調だった。意識的に声を上げて笑うことで、不謹慎さから逃れようという意識だ。
 長机にパイプ椅子だけの簡単な受付を、サクマはスズハラと抜けた。正面に、黒黒とした木があり、その両脇が道になっていた。右から入り、ぐるりと周って左側から出ていく、ということだった。
 黒黒とした木は、マネキンを折り重ねて、木の形に成形したものだった。ところどころに虚のようなものが出っ張っている。球体関節人形の球体部分に似ていた。
 足もとにはQRコードがあった。スズハラが端末をかざすと、六大学合同展覧会のホームページにある、作品の紹介文が出てきた。
「へえ」スズハラは文章を目で追いながらサクマに言う。「ときどき風が葉を揺らす音が流れます、だと。で、囁き声に聞こえる」
「死者の密談ってことか」サクマは頭上を見上げた。枝が二人の真上にまで伸びていた。
 その次の展示は、サクマのものだった。カリカチュアライズされた、ピンポン玉が落ちるような銃声がして、キャラクターが倒れる。その映像がスクリーンに映っていた。
 映像はどれも三秒から五秒の短い映像で、その多くはFPSやTPSのものだ。
 画面のキャラクターが、きりもみしながら倒れる。頭に銃弾が当たり、大きくのけぞりながら倒れる。両手を上げ、今世に手を振るようにして倒れる。霞のような血を噴き出しながら倒れる。
 サクマが考えたのは、世界中に無数にあるゲームの、キャラクターが死ぬ瞬間のなかから、キャラクターの身体が不自然な動きをするシーンを展覧会で流すことだった。首があらぬ方向に曲がり、膝が折れてふくらはぎと腿が重なる。死んだことを表すテロップが出現し、プレイヤーの思い通りに動かない「死んだ」キャラクターが転がる。
 人型のものが人間的ではない動きをする映像には、人の耳目を惹きつける何かがある。
 こうしてみると、存外悪くないのではないかと思える。制作している最中は、付け焼き刃の表現だと感じていたが五人ほどの客が立ち止まって見ていた。
「バグ映像集みたいなもんか。考えたな」
 スズハラが声のトーンを落として言う。そう一言でまとめられてしまうと不満の一つも言いたくなるが、その指摘は正鵠を得ていた。
「重要なのは、情報を整理し組み合わせた上で、適切なレイアウトで提示することだ」と苦し紛れにつぶやいて、次に行こうと手で合図する。
「いや、本当に。悪くないと思うぞ」とスズハラはしつこく言う。
「良くもないわけだろ。良くないならば、それは不充分だったってことだ」
「そう悲観的になるなよな」
「そう言うお前は何を出したんだ?」
「なんだよ」とスズハラは口の端を曲げた。「友人の作品くらい、ホームページで確認しておいてくれよ」
 サクマは鼻を鳴らして、
「実際に見る楽しみが減ることはしない」とだけ言った。
 なるほどねとスズハラが頷く。「だが、まあもう少し進んだところだ」
 死体を自在に動かすことができる技術の理論を紹介するエリアを抜けると、筋肉を剥きだしにした人体が仁王像のようなポーズで左右に配置された木造の門の前にでた。
「これだ」とスズハラが言う。
 一目見て、サクマはこの作品の元ネタがわかった。
「『BODY WORLDS』……」そう呟いて、スズハラの方を向く。「知ってたのか」
 向いた先ではスズハラが驚いた表情をしていた。
「なんだ、お前も知ってるのか」
「死体使ってないよな?」
 当たり前だとスズハラが笑った。
 QRコードを探して端末をかざすと、説明があった。『BODY WORLDS』を基に、日本的な葬送の文脈を外挿することで、日本という風土と西洋的な身体観を接続する目的だと書かれている。
「いくら死体がテーマだったとしても、実際にそんなものは置けないからな」
 過去の展覧会の文脈を用いることで代用したというわけだ。
 急に太鼓の音が響いた。
 なんだ、と声が洩れる。
「一番太鼓だな」とスズハラが言った。その声には、苦いものが混ざっていた。「アンドウの企画だ」
 端末で調べると、落語だとあった。部屋には、人がちらほらと入っていっている。
「俺らも入ってみるか」
 サクマは言った。熱に浮かされたような会場の雰囲気に多少息が詰まってきていた。ここら辺で笑い話を聴いて、頭のなかをリセットしたかった。それに、この展覧会のテーマを設定したのは、おそらくアンドウだ。数ヶ月前に思い出した、高校時代のアンドウとの会話がまだ澱となってサクマのなかに沈んでいた。
 その澱をすくい取ってみたかった。

     3

 電車に乗ってここまで来たんだけどさ、と高座に座った人影が言う。
 腕の振り方がどこかぎこちなく見えるのは、プロジェクションマッピングの精度の問題だろう。展覧会のホームページにあるこの企画の紹介文には、噺家の体癖をあらかじめ学習させた人型のロボットを用いているとあった。
 結局、スズハラは部屋には入ってこなかった。関わり合いになりたくないのだと言って、展示を周るようだった。
 電車というか、モノレールというらしいね、と高座のアンドロイドはつづけた。「いえ、どこから来たかというのを最初に話すべきだね。俺はね、今日はあちらから来たんだよ。みなさんわかっていると思うけどさ。黄泉比良坂を通ってきたんだ」
 話す声は二十年ほどまえに亡くなった著名な落語家のものだ。サクマも顔くらいは見たことがあった。観客にもかつてのファンがいたのか、感嘆の声が上がる。出だしは悪くなかった。
「幽霊ってのは動くもんだな。これはそうと決まってる。動かないのは死体だ。だが。ほれ――」アンドロイドが上半身を前に傾けて、手を軽く上げた。「俺の死体はこの通り動く。いまはもう座っちまってるが、ちゃんと歩ける。幽霊ってのは足がない。だがいまの俺にはある。死体だからだ」
 両手を揺らして幽霊のような仕草をすると小さい笑いが客席から起こった。ざらついた声だ。それがゆるやかに伸びるから、緊張感と肩の力が抜けるような安心感が同居していた。
 アンドロイドの表情は口角を上げて笑っている。マッピングにも大きな問題はなさそうだった。アンドロイドに落語をやらせるというアイデアを聞いたときは凡庸だと思ったが、客が笑えばひとまずは成功だろう。何か問題を起こされて、他大学に迷惑をかけるよりははるかに良い。
 アンドロイドは、黄泉比良坂の道中にある石が邪魔で難儀したとか、死んでも歩けるってのは良いものだよなどと言いながら、少しだけ背すじを伸ばした。
「死体ってのは本来動かない。ましてや踊らないんでさ。踊るのには生者の助けが必要なんでさ。だがそれは現実的じゃねえんだよ。最近はあれだろ、不謹慎とか言いやがるから、一層笑えねえ。だがそれを笑うってのは、気持ちのいいもんなんでさ」
 アンドロイドがするり、と羽織を脱いだ。正確には、プロジェクションマッピングが羽織を脱ぐ映像をアンドロイドに映したものだが。まくらはここまで、本編のはじまりという意味だ。
「おい、おい! らくだぁ、らくだ居るか! おい! ……なんだよ、こんなところに這い出して寝てやがる。おい! らくだ、いつまで寝てんだよ、おい……。おい、らくだ? ……んだよ、くたばっちまってやがる」
 演目はホームページにあるとおり「らくだ」だ。荒くれ者である、〝らくだ〟という渾名の男が長屋で死んでいるのを、兄弟分の半次が発見するところから始まり、らくだに虐げられてきた屑屋がその空間に加わることで話が進む滑稽噺だ。この二人のほかに月番や大家、漬物屋などがらくだの死体と死について言葉を交わし、行動するのだ。
 死体が出ずっぱりの噺だから、この展覧会のテーマには一致している。
「……ああそうだ、昨夜ふぐをぶら下げていやがったな。毒があんだぞ、素人が手を出す奴があるかっつたら、『へん、毒なんざこっちの方から当ててやるよ』とか言ってやがったな。ハハハ、やっぱりさすがの野郎もふぐには敵わねえんだな。何とか弔いの真似事でもしてやりてえところだが、生憎持ち合わせがねえや。何とかならねえかな。……良いところに屑屋が来やがった。おい! 屑屋! 屑屋!」「あれ、ここらくださんのところじゃないんですか?」「そうだよ」「あれ、らくださんはお留守ですか?」「ほら、ここに居るよ」「あぁ、お休みになってるんですか」「いや、くたばってんだ」「え? あれ、ひょっとして、……あなたが?」「俺じゃねえよ。結構言いてえこと言う奴だな。……違えよ、どうもな、ふぐの毒に当たって死んだらしいんだ」「らくださんが? そんなことで死ぬような人じゃないと思ってたんですが、そうですか。じゃあ、ふぐの毒に当たって、ふぐ、死んだんですね」「いい度胸してんな、おめえ」
 観客から笑いが起こった。
「らくだ」は奇妙な噺だ。
 何せほとんどすべてのシーンが死体の前で展開されていくのだ。それでも聞き手が笑えるのは、死体が言葉のなかにしか登場しないから。これが演劇やドラマなら目に入る死体の圧倒的な存在感に笑うに笑えなくなってしまうだろう。落語のための物語なのだ。
 マッピング技術は見事な出来栄えだった。アンドロイドが腕を振れば映像でも袖が降られる。表情も鮮明でなまなましいから、観客は演じているのがアンドロイドであることを気にせずに楽しめる。
 だが、どこか無意識の領域で違和感が存在しているような気が、サクマにはしていた。ふと、紹介文のことが頭に浮かんだ。
 ――人間の業をアンドロイドは引き受けることができるのか。
 問いの言いたいことはわかる。だが、この企画とどこか噛み合わないような気がしていた。形だけがポツンと置かれ、内実はどこかに隠されているような感覚があった。
 サクマの背後で、一組の男女がひと際大きく笑った。噺は、半次が屑屋を脅して、香典を月番から貰ってくるよう命令している場面へ入っていた。穏便に済ませようとへいこら従っている屑屋の可笑しさを、表情と仕草で巧みに表現している。屑屋が月番にらくだが死んだことを知らせるシーンにも大きく沸いた。
「おう、屑屋か。どうしたどうした。……え? らくだが? 死んだ? 馬鹿言うんじゃねえよ。嘘つけこのやろう、らくだが死ぬわけねえじゃねえか」「いや、本当なんです」「詰まらねえ世辞言うなよ。……え? 本当に? ふぐの毒に当たって? おめえ、見たのかよ」「ええ、ええ。見ました」「突っついても動かなかったか? 本当に? あぁそう! 死んだ! おっかあ、聞いた? らくだ死んだって! いやあ、ふぐかぁ! よく当ててくれたもんだなあ!」
 こんなに人が死んだことを笑いに変える噺はそうそうない。どこか後ろ暗い、だが底抜けに明るい笑いだった。だが、この噺の大きな山場はまだ先だ。
 今度は大家のところから酒や煮しめを持ってこいと、半次は屑屋に言う。だが屑屋は大家がけちであると言って、無理だろうと返す。そこで半次は、
「四の五のぬかしやがったらこう言いな、『死骸のやり場に困っております。こちらにお届けに上がりますので、あとは煮て食うなり焼いて食うなり好きなようにしてください。ことのついでにカンカンノウを踊らせてご覧に入れます』」
 屑屋が大家にカンカンノウの話をすると、大家は「見せてくれるなら見てみたいもんだね」と言い、屑屋を追い返す。
 それを聞いた半次はらくだの死体を屑屋に担がせ、大家のところへカンカンノウを踊らせに向かわせる。
「カンカンノウ、キュウノレス……」「うわあ、本当に来やがった。わかった、わかりました。酒と煮しめを用意して、持って行きます」
 半次のところに戻った屑屋だが、またもやお使いを頼まれるのだった。
「冗談じゃありませんよ! あんたさっきも同じこと言ったじゃありませんか」「うるせえな。さっさと行けってんだよ」「あのぉ、そういうの良くないですよぉ。脅せば良いってもんじゃないでしょう……」「でも、行くよな」「はい。喜んで……、喜んで行きます。でも、どこに行きましょう」「あぁ、あれだ。漬物屋に行って、菜漬けの樽を一本貰ってこい」「くれますかね」「使い終わったら返すって言え」「貸しますか」「貸すの貸さねえの言いやがったら……」「カンカンノウですか?」「おめえ、わかってきたじゃねえか」
 屑屋を迎えた漬物屋は、笑いながららくだが死んだことを喜び、屑屋の要求を突っぱねる。だが大家のところで屑屋がカンカンノウを踊ってきたと聞くと、一番上等な樽を貸してくれるのだった。
「いやあ、実はな。おめえが漬物屋のとこに行ってるあいだによ、月番の奴がちゃんと香典を持ってきてよお。あと、大家のとこのババアがガタガタ震えながら酒と煮しめを持ってきやがって」
 屑屋が戻ると、半次は酒を飲んでいて、おめえも飲めと葛屋に勧める。屑屋は拒むに拒みきれず酒を呷るのだが、その飲みっぷりを気に入った半次が次々と注いでくるのだからとうとう酔っ払って口数が多くなっていく。
「らくだ」最大の見せ場、酔った屑屋と半次の関係が逆転する場面に入ろうとしていた。
 ――突然、視界が真っ暗になる。サクマには何が起こったのか、一瞬わからなかった。観客のなかから小さく叫ぶ声が響いた。
 プロジェクションマッピングの明かりが消えていたのだった。
 部屋の扉が開いて、ハセベが入ってくるのが見えた。表情が硬い。何かが起きているのだとわかり、サクマは席から立った。だが部屋の明かりが点いて、動けなくなった。
 高座にはアンドロイドがいるはずだった。だが、そうではなかった。
 そこに座っていたのは、アンドウの死体なのだった。

     4

 観客の誰かが失神したのか、どすんとサクマの背後で音がした。
 サクマはもつれて俯瞰できない頭のなかを整理しようと首を軽く回す。ここが六大学合同展覧会の一部屋で、自分はアンドロイドが落語を行うのを観ていた。はずだ。だが、プロジェクションマッピングという光学的なベールの先にいるはずだった完璧な死体としてのアンドロイドは初めからおらず、アンドウの死体があったのだ。
 高座のアンドウは、誰がどう見ても死んでいた。背後で僅かにゆらぐ煙はドライアイスだろうか。顔は蒼白で、手の甲には死斑らしき黒々とした痣があった。顔は電源を落としたアンドロイドのように俯いている。だが、アンドロイドではなかったのだ。腐る身体、確かに生きたことのある身体――それはどこまで行っても、死体だ。
 一つだけ息を吐くと、少し視界が広がった。隅でハセベが身体を硬直させていた。背後の男女の、かみ合わない歯が鳴らす音が煩わしかった。先ほどまで確かにあった、口のなかの水分がすっかり干上がっていた。そのせいで声は出ずに、生暖かい息だけが洩れた。
 遠くから微かに、展覧会場内の喧騒が聞こえた。だが、部屋では誰もなにも話さなかった。サクマは思った。まるで部屋ごと異世界に飛ばされたみたいだ。
「あのしみったれの大家が、こんないい酒もってたんですねえ」
 若干ろれつのまわらない声が部屋に響いて、サクマの前に座っていた男の身体がビクッと震えた。
 死体が顔を上げて、口を開いたのだ。声も変わっていた。アンドウの声だ。
「いやあ、あんたも偉いと思いますよ。人の葬式あげようなんて偉いもんですよ。金があったってこんなことやらない人いるでしょう。あんた、金がねえのにやるんですから。本当偉いもんだよ。やり方には問題あると思いますけど、いや、本当にらくださんには酷え目に合ってきたんですよ。欠けた皿買えって言われたり、漬物屋なんて、店にあるもの勝手に取って食っちゃうんですよ。それで、金を払えって言ったらね、『うるせえ、こんちくしょう』って言って殴るんですよ。食ってるのにですよ。でもね、でもですよ。月番とか大家とかみたいに喜ぶのもどうかと思うんですよ。死ねば仏じゃないですか」「おお、そりゃあ良いこと言った。らくだだってあれで良いところが――」「いや!」
 死体が大声で叫んだ。今度はサクマの身体が震えた。
「いや! 良いやつってことはないでしょう」――屑屋は完全に酔っ払っていた。「あんたはらくださんの兄弟分だから、そう言うんです。冗談じゃねえよ、こっちは散々っぱら酷え目に合ってきてんだよ! それをあんた、良いやつとか、よく言えたもんだ!」「おめえ、俺の前で――」「いや! 誰の前だろうと関係ねえんだよ。こっちは人見てんだ。そうだろう! 冗談じゃねえよ、本当によう」「……そうだな、そうだよな、ああ」
 ここは本来、笑いどころであるはずだった。だが、観客の誰からも笑い声は聞こえない。
 サクマは、死体を動かしている技術に心当たりがあった。今回の展覧会で展示されている、死体に電気信号を送り筋肉をパペットのように自在に動かす技術の、その応用だ。
 理性では、この部屋から出ていくか、大声を上げるかすれば良いとわかっている。だが、身体は理性では動かない。死体が動き、生者は固まる。奇妙な捻じれが発生していた。結果、誰も部屋から出ていかず、声も上げず、死体から目を逸らすこともできないまま、噺がつづいた。
「らくださんはねえ! 俺がらくださんの家の前通ったときに、私を呼び止めて手を前に突き出して、『屑屋、この蛙の置物買ってくれ』って言うんですよ。それで私が『いい出来ですね。誰の作ですか』って聞いたら『知らねえ』って。でですよ、よく出来てるなって思ったから手を伸ばしたら、その蛙、ぴょんと飛び跳ねていなくなっちまって……。私が『生きてるじゃないですか』って言ったら、『知らねえよ』って言ってあの人、私に金払えって言うんですよ。嫌ですって言えば、拳を振りかざすんです。私はそれで眉間を切って血を流してるんですよ!」
 サクマは自分のなかで何かが変わろうとしているのを感じた。
 アンドウが高校の美術室で言っていたことが思い出された。
 人が死んだら、その人の業はどこに行くんだ?
「ブラフだったのか」
 サクマの口から声が洩れた。そうだ、あの紹介文はブラフだったのだ。
 アンドウは初めから、アンドロイドが人間の業を表現できるかどうかなんて興味がなかった。あの紹介文は企画を通すための建前なのだ。プラスティネーションの作者が、科学の啓蒙という言葉を建前として使ったように。
 サクマは一つまばたきをして、高座に座るアンドウの死体を見た。自分の視座が入れ替わったような感触がした。人間とアンドロイドの対比から、生きた身体と死体の対比へ。
 パースペクティブの書き換えは、サクマに決定的な変化をもたらした。
 誰も笑わない客席でただ一人、サクマだけが笑いはじめた。
 場面はまだ、酔った屑屋はまだ半次に絡んでいたところだった。ここから、屑屋はらくだの頭髪を剃り、火葬場へ運ぶ――。通常の「らくだ」はそう進んでいく。だがもはやアンドウの「らくだ」は通常ではありえなかった。
 本筋から逸れはじめた。
「……うるせえな」
 屑屋と半次を演じていたアンドウが急に、身体を丸めてそう言った。そして上半身をゆっくりと起こしていく。それは人物が一人、目を覚ましたということを表す動きだった。
 らくだが生き返ったのだった。

     5

 悠然とした動きで、アンドウは周囲を見回した。
「なんだなんだ、兄貴に……おめえは屑屋じゃねえか。なに勝手に俺の家に上がってんだ」
 そう言うと、拳を固めて床を叩いた。観客席のあちこちから、低い悲鳴が上がる。
「痛えな、らくださん。なにすんだ!」
「なにすんだはこっちの台詞だ! おい兄貴、こりゃどういう状況だ」
「どうもこうもねえよ。おめえはふぐに当たって死んだんだろうが」
「そんなことはどうでもいいんですよ! いまの一発で酔いが冷めちまった。また酒を注いでくんな」
「屑屋は黙ってろ! おい、兄貴、どうなってんだ」
「話すと長えよ」
「長くても良い。頼んだ」
「おめえが死んで、弔いをあげようとして、屑屋は酔った。以上だ」
「何もわからねえな」そう言って首を掻く。
「いや、いいんだ。生き返ったなら全部チャラだ」
「チャラってことはないでしょう。……らくださん、あんたが死んだって聞いて、長屋中みんな大喜びだったんですよ」
「んだと」「どいつらだ」
「月番、大家、漬物屋だ」
「漬物屋なんか、店をそうそうに閉めて酒盛りするとかなんとか言ってましたよ」
「おし、わかった」
「おい、どうした。急に立つやつがあるか。……なんだ、肩回して」
「なに言ってんだ、兄貴。一人ずつぶん殴りに行くに決まってんだろう」
「それじゃ、つまらないですよ。私なら――」
「んだと、まだ殴られ足りねえか」
「待て待て待て。らくだ、待て。屑屋の話も聞いてやれ」
「それはないだろうが。屑屋のなにを聞けってんだ」
「まあ、待て。いいか」
「私はさっきね、しみったれの大家のところでらくださん、あなたを背負ってね、カンカンノウを踊ってきたんですよ。それで大家のやろう、腰抜かして泣きながら謝ってきたんだ。だから、これを使っちまうんです。長屋の周りをカンカンノウを踊って練り歩くってのは、どうです。きっとみんな腰抜かすに違いないですよ」
「……悪くない案だな。おし、行くぞ!」
「カンカンノウ、キュウノレス……」
「うわあ、らくだか? おい、らくだが生き返ったぞ……!」

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