その見通し

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梗 概

その見通し

 新宿、夜、東口のはずれ、寂しいビルの屋上で、寒風吹き荒ぶ中、ひょろりとした男ミブヤマは、将来を案じ身を投げようとしていたところに老婆ムカブリから声をかけ引き留められる。占いを生業にしているというムカブリは階段に座り、ミブヤマの手相人相を見て「あなた辛い相だね」と呟き、行く当てがないのだから私のところに置いてやろうと言う。トラブルで飛び出した会社の社宅を失い身寄りもなく、行く当てのなかったミブヤマはムカブリの申し出に流されるように世話になることとなる。

 「数字はできるね?」と易学のあれこれを謎の中国茶と共に叩きこまれること一週間。はじめはムカブリの狭苦しい家に押し込まれ、ただ飯をもらいがてら「保護されている」と感じるミブヤマだが、元から数を扱えるミブヤマが教えを飲み込むごとにムカブリは熱を入れ始める。ついには嫌がるミブヤマに、従わなければ追い出すと言って自分の代わりに路上で占いをすることを求め始めた。

曰く、戦後闇市の頃はいざ知らず、今の路上に新しい占い師の場所を拵えることは、居場所にせよ、占い師同士の関わり合いにせよ、牛耳るヤクザ共との折り合いにせよ、難しい。ミブヤマはムカブリに成り代わって路上に座るために、老い化粧とムカブリの装束を被せられる。背を丸めてすっかり老婆の出で立ち(無理があるのではとミブヤマは思うが)となって、さらに占いの教え、ムカブリのつての占い師仲間やその弟子たちが代わるがわるやってきて、対面での占いの練習をさせられる。仲間たちはミブヤマの出で立ちを見るとムカブリを一瞥して何も言わず占われる。皆ミブヤマとムカブリを見比べ、何か言いたげだが、言わない。

最も大切なこととして教わったのは「占い師は当てないのが第一」ということ。ムカブリ曰く「当てることができる」ミブヤマに、見定めたうえで決してそれを当てないことを言い含める。最後、出会った頃の半分に縮んだと見えるムカブリを占い、その寿命の近いことを見た上で告げなかったミブヤマに、ムカブリは路上に出ることを許した。

日にはせいぜい数人の、新宿西口の夜の往来からの訪ねをミブヤマは見、慣れる毎に幸不幸、身の上と細微な成功と失敗までも見据えた先のことを、しかし曖昧にぼかし時に仄めかし、2000円を受け取る。そんな中で一人の若い女性が近い未来の相談をし、翌日もその次の日も訪れた。彼女が間もなくなそうとすることをミブヤマは見抜き、しかし傍観した。帰ればムカブリは益々小さくなったような有様で茶を飲んで待っている。ミブヤマが「どうして私に後を継がせようとするのですか」と尋ねると、「未来のない人間だけが人の先を見られる」と、一番弟子に後を任せた顔をする。

夜、件の女性に「あなたの仕様とすることは上手くいきます。風向きに注意を払って」と告げるとミブヤマは新宿から姿を消し、翌日、テロ集団によって火の海になるその街には居合わせなかった。

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