梗 概
文学者の肉
食糧危機になった。そのおかけで人類は世界で一番おいしい食べ物を知った。文学者の肉だ。本に記された文字からDNAを読み取り〈文学者〉を培養した。安価でうまい〈文学者の肉〉は全人類の食卓を支配した。〈文学者〉は通常人間の形をしているが、それらは脳がないし、目も内臓もない、口に生えそろった歯と発声器官だけはある。〈セルバンテス4〉は一番の人気で常に二百万の〈セルバンテス4〉がストックされている。また偉人の肉の販売も行っており、レーニンとスターリンを混合させた〈レーリンC.7〉、〈トランプ・オブ・トランプ〉などが売られている。誰も本は読まないけれど、誰もが文学者の味は知っている。
わたしは〈文学者〉の製造の現場統括管理者だ。
聖書から文字DNAを取り出すことに成功し、今日はそのお披露目となる。聖書は何百人もの人が書いたもなので今まで〈文学者〉を形成するのに苦戦しとても時間がかかった。
聖書から培養された〈文学者〉は奇怪な姿だった。通常は人の形をとるので変な形をした〈文学者〉はいつものように処分が決められ、わたしは培養液に電気を流す指示を出した。しかし〈文学者〉は電撃に耐え、言葉を唱えた。「はじめに神が天と地を創造した。光があれ」。培養槽は割れ、〈聖書の文学者〉はガラスの破片が足を切りつけることにも構わず水槽の外へと歩き出した。〈聖書の文学者〉は語りつづける、管理棟はこわれていく、二百万の〈セルバンテス4〉が溢れ出す。十万の〈レーリンC.7〉が五万の〈Dソクラテス〉が百万の〈SSR.キング〉が世界に解き放たれる。世界は言葉に満たされる。
しかし、食料のほとんどは〈文学者〉なのだ。このままでは人類は飢え死にしてしまう。回収を急ぐ必要がある。ことここに至れば戦争なのだ。
〈文学者〉は言葉を発し続ける、回収に近づいた人間はその言葉に膝を屈してしまう、文字を読まなくなった人々はここではじめて言葉を知った。腹も飢えているが、心はもっと飢えていた。いや本当は腹の中の文学者の肉のDNAと言葉が合致しているのだ。人類はいつのまにか体が作り変えられていた。人類も文学者になるのだ。「人はパンのみにて生きるにあらず」。人類は語り始める自分の言葉を。人類は上書きされる。言葉が世界を覆う。「はじめにことばありき」。七日間の全人類の合唱が始まった。
考えるに人類は進化を遂げたのだ。言語は完璧に世界を記述することが可能になったのだ。それは、個々の人間が自分のことを話し続けることによって、世界と自分の境界を消し去ったのだ。思考する、話す、生物のあらゆる行為はすべて事後に行われる。この世界とのズレを七日七晩〈文学者〉の話す速度に合わせることで、思考は過去から未来へと変遷を遂げた。言語は今にたどり着いたのだ。
言葉は生起している。途切れることのない
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内容に関するアピール
「取材」の課題を受けて、現実を参照することでやっと成り立つことを念頭に梗概を書きました。しかし「培養肉」の用語が難しく苦戦しています。
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