梗 概
メカニカル・プランナー
近未来、ヒューマノイドが人権を少しずつ獲得し、人口の数パーセントを超えるようになった時代。
ナシータとルチルは女性のヒューマノイドで、ロボット専門のウェディングプランナーだった。ふたりは去年、所長のナシータが社員ルチルのプロポーズを受け、近々結婚の予定だった。
この時代のヒューマノイドは、人間とほぼ同じ見た目をしていた。ロボットと人間との幾度かの紛争のあと、ロボットは人間との摩擦を抑えるため、過度な進化は控えていた。人と同じものを食べ、学校に行き、老化し、寿命で機能停止するプログラムを搭載していた。人とヒューマノイドの結婚が徐々に認められ、一部の反対派の差別が残る過渡期の時代だった。
ヒューマノイドが夫婦となる儀式には、古くから信じられている儀式が存在した。それは最初のロボットのカップルが、人格が別々でありながらも電脳を共有していたことに起因する。カップル同士のセンサーの接続〈リンク〉や、データの共有〈シェア〉が深いほど長続きすると言われていた。常に信号を飛ばしあうカップル、感情や思考を共有する夫婦、ふたりの記憶を完全に統合し、違法な学習を行うものまでいた。
所長のナシータは懐古主義というわけではないが、ほかのプランナーが引き受けないようなプランも引き受けていた。招待客がいないふたりだけの結婚式や、VR空間での結婚式、行政上の夫婦にはなれない、形だけの結婚式もよくあった。彼女は利益目的の違法な結婚は許さなかったが、本人らが望んだ結婚は遠慮なく引き受けていた。
ナシータは離婚経験があり、理由は自分のワーカーホリックだった。自分を支えてくれるルチルには愛情を持っているものの、いまひとつ結婚に踏み切れないでいた。それはナシータが、クライアントの幸せを第一に考えているからであり、自分のことは二の次になりがちだったからである。
そんななか、ひとりのクライアントがやってくる。それはナシータの元パートナーである女性、セシルだった。彼女は記憶を消してモデルチェンジをしており、若い少年のような姿になっていた。セシルはナシータのことを一切覚えていなかった。セシルは数年前に亡くなったパートナーのメモリを持ち込み、メモリからパートナーのグラフィックを再現し、そのパートナーとの結婚を希望していた。もちろんパートナーの記憶のリンクも含めて。
ナシータは元パートナーに未練はなかったものの、結婚前でナーバスになっていたメンタルが不安定になる。マリッジ・ブルーは一過性のものだとわかりきっているのだが、不安がぬぐえない。さらに、昔、解除したと思っていたセシルとの感情共有〈リンク〉が入り、余計にナシータはざわついた。ナシータにはルチルに見せたくない過去もあった。
ナシータは迷いながらもセシルらのさびしい結婚式をすませる。セシルは精神不安定になりながらも幸せそうだった。ナシータはルチルとこれまでのすべての記憶を共有する決心をする。ナシータとルチルの結婚式は、VR上のふたりだけで行われた。
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内容に関するアピール
百合SFを書こうと思いました。正直、もともとあまり百合は好きではなかったのですが、あるインタビューを見て「百合は新しい関係性を定義づけること」と考え、なるほどと思いました。ヒューマノイド同士の百合はベタだったかもしれませんが、書きたいと思いました。(途中から普通の人間ドラマになりそうでしたが……)
最初は取材というより、ただの先行文献の調査でした。ブライダル業界の友人もいるのですが、あまり現実のブライダル事情を聞くとどんどん現実に近づき、SFから離れてしまう気がしたので、取材は悩み中です。
世界設定は『AIの遺電子』を参考にしました。
『アステリズムに花束を 百合SFアンソロジー 』 早川書房, 2019
『ウェディングプランナー 』, 五十嵐貴久, 祥伝社, 2018
『最新ブライダル業界の動向とカラクリがよくわかる本』 粂美奈子, 秀和システム, 2018
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