梗 概
文芸部機関
大学の文芸部に所属している三年の倉上完鉄は作品に登場する作中作を作ることに苦しみ、自動で適当な作中作を生成するプログラムを組み、文芸部機関と名付け、部内に公開した。
文芸部機関の生み出す作中作は、大きな作劇上の欠陥もなかったために他の部員も好んで使うようになった。
完鉄の所属する文芸部では、部員によって書かれた、小説を中心とした文字媒体の作品を集め『寿限無堂』という部誌にして年四冊発行し、品評会という形で意見交換をするとともに、部員による投票で、寿限無賞(一位~三位)を決めていた。
何の箔もつかない寿限無賞だが、部員のモチベーションとは深く結びついており、その結果で一喜一憂、思いの強い者になると寿限無賞を取れなかった回では表情がなくなったり、部内で一定の影響力のある賞である。
ある時、品評会の最終日で二年の押井判子の小説が絶賛された。三幕構成に忠実な美しいストーリーラインや巧みに配置されたキャラクター、一貫性のある文体。その場の誰もが文句なしで今回の寿限無賞だろうと思う。だが判子は、良かったですとほかの部員から言われるたびに暗い顔をする。
その日の打ち上げで寿限無賞の発表があり、押井判子が一位になった。圧勝だった。おめでとうと誰かが言うと、判子は泣きだす。理由を訊ねると、今回の作品の大部分を考えたのは判子ではなく、文芸部機関だったと明かす。
文芸部機関はさまざまな部員に使われ改良されるうちに、プロットならば作中作のクオリティを超え、それどころか部員のレベルを超えていた。
これに対して部長や編集長などの文芸部執行は、判子の寿限無賞を剥奪し部員全体が文芸部機関の使用を停止することを決めた。判子の強制退部を望む声もあったがそこまでの処分はなされなかった。
文芸部機関の使用停止に反対した者もいた。完鉄だ。完鉄は、文芸部機関の改良に取り組んでいた者の中心だった。彼は文芸部機関に人工知能を導入することで、改良のスピードを上げようとした。完鉄にとって、文芸部機関は子どものようなものになっていた。
結果的に、完鉄の反対は退けられたが問題は次の部誌だった。
部誌に提出する作品は、編集長に部員がメールで提出する。編集長がメールを確認すると、文芸部機関から原稿の添付されたメールが届いていた。
部員が提出した作品は原則部誌に掲載される。掲載拒否は部創設以来、一度しかなかった。
文芸部機関が部員と認めるか、という議論が執行で行われた。完鉄が副部長だったためである。彼はこうなることを見越して、説得するための原稿さえ用意していた。
「星新一賞というものがあって……」
「プログラムに負ける部員に問題が……」
「事実、面白いので……」
結果、完鉄の強い声に押される形で、文芸部機関は部員として認められることになった。
以来、寿限無賞は文芸部機関のための椅子となり、部員の興味は失われることになった。
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内容に関するアピール
文芸部マイスターではないので、ほかにどのような文芸部が存在するのか私はよく知らないのですが、私の知る文芸部の執行は複数名いても実際に意思決定を行っているのは半分ほどです。また提出される作品のクオリティに関しても、破綻しているものもあったりするので、破綻していないとそれだけで評価が上がってしまう部分があります。
それでも何とかやっていけているのは、執行が一年で交代することや、なあなあでも誰も何も言わない(言ったとしても、行動しない)からだと思います。例外に対応できないだろう決めごとが多過ぎるわけですが、それが変わるのはやはり、例外がでてきてからになるでしょう。
文芸部機関は、その例外になります。実際に文芸部機関が登場したら、執行はどう話し合うか、おそらく執行の三分の一は議論そのものに参加しないでしょう。それが許容されるのはとても不思議ですが、私の知っている文芸部ではおそらくこうなります。
残った三分の二も、ちゃんと議論しようとするのは三名くらいかもしれません。それが部の総意になったりするわけですから恐ろしい話です。
作中で、判子が文芸部機関を使ったとわかると、部は擁護派と反対派に分断され、仲が悪くなりますが、こういうのはもともと仲が悪い同士がいがみ合うわけですから、部の崩壊まではいきません。
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