梗 概
そして馬になる
空軍のパイロットである私は、新型戦闘機のAIの開発のための実験に関わることになった。
10機用意された同型の新型機に、それぞれ専属のパイロットがあてがわれ、13週間にわたり戦闘のシミュレーションをくりかえす。その結果、パイロットの操縦からAIが何を学び、それぞれのAI間にどのような優劣が生まれるかを確かめるのが目的だった。
シミュレーションの後、毎回、AIはデータの解析を行う。その際には、開発拠点である基地のホストコンピュータのリソースが用いられていた。
自分が最も優れたAIを育ててやろうと、誰もが意気込んでいた。
しかし実験開始から2週間後、私は、ある事実に気付く。日によって、AIによる機体制御にばらつきがあった。同じ疑問を抱いた同僚とともに調べてみると、自機のAIが使用しているホストのリソース使用量が日によって大幅に異なっていることが分かった。そしてそれは、他の機体も同じだった。
その次のシミュレーション後、ある仮説が立てられる。
10機のAIが使用したリソースの量を多い順に並べると、その数日前にパイロット全員で行ったレクリエーションのゲームの順位とまったく同じだったのだ。ゲームで上位になったパイロットの機体のAIは多くリソースを使用し、下位になったパイロットのAIは僅かしか使用していない。
ホストコンピュータのリソースには限りがある。AIたちは自分を担当するパイロットを馬にして賭けを行い、それによってホストコンピュータのリソースの優先順位を決めていたのだ。賭けの対象は、食事を早く終えた順番や廊下を歩くスピードなど多岐に渡り、形態も全員参加に限らずサシ馬でも行われていた。
それに気付けたのは、自機に愛着を持つためという名目で持たされた、AIとの通信機だった。賭けが始まる直前のタイミングで、AIから食事の食べ方や歩く際の姿勢についてなどのアドバイスが送られてきていた。
そして、私たちパイロットは考えた。こうした事実が判明したのは、AIの意図ではないのかと。つまり、パイロット達に賭けの存在を知らしめることによって、もっと気合を入れろと。自分がもっと多くのリソースを使えるようにがんばれと、カツを入れてきたのではないかと。
開発の責任者にこれを伝えたところ、実験はそのまま続けられることになった。
かくして我々パイロットは、いつ賭けが始まってもよいように気を張り、AIの指導に従って知力体力を鍛えている。AIを育てる役割で呼ばれたわけだが、よりよく育つために、AIは我々を育てているのだった。
現在では、AIが考案した競技(ロープで逆さ吊りにされ、どちらが長く耐えられるか等)でも賭けが行われるようになっている。これが戦闘機の開発にどう関係しているのか疑問に思わないでもなかったが、それを呑み込み、私はAIの馬として、今日の賭けに備えるのだった。
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内容に関するアピール
学生時代、担任教師間の腕力の差が、そのままクラス間の力関係となっていたことを思い出し、このストーリーを思いついた。
実作の際には、沙村広明の短編のような雰囲気が出せればと思っている。
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