梗 概
重層惑星
惑星は表面から浮遊した位置に莫大な数の野菜スティックを繋ぎ留めている。星外から凄い速度で、暗闇の中のティッシュペーパーの箱が飛んできて青色野菜スティックに激突し、傷口から5歳の豚の目玉をボロボロこぼして死ぬ。
惑星は重層体である。幾何学多面体のブリストル湾タラバガニの腕であり、影の影であり、美しい海を一人で永遠に眺める者であり、裏返しになって臓腑を露わにした野生動物たちの円盤であった。それらが同時空で重なっている。
惑星は層体面と層体面の10年に及ぶ強烈な摩擦によって”煙”を産む。惑星は煙子が宇宙空間の外へ巣立っていくことを願って120億年以上育て続けてきた。しかしそれが叶ったことはない。何十億という煙子たちはこれまで、宇宙空間と対峙せねばならぬ困難さにも増してその意義の不明性から宇宙内で漂うことを選択していた。
煙”トリプルビニール”はもともと猪突猛進タイプであり、更に生まれつき蚊取り線香プロプレミアムを持ち合わせていたため、層体は今までにない可能性を感じていた。
生まれたばかりの頃トリプルビニールは浮くことができず層体面境界の中央に沈んでしまう。裏返しになって臓腑を露わにした野生動物たちの円盤は、黄金の装束を纏い、夥しい数の糸を垂らした部屋で大小様々な円盤を打ち鳴らす。その儀式によって、少しずつトリプルビニールは浮かべるようになっていく。裏返しになって臓腑を露わにした野生動物たちの円盤は多肉植物の鉢植えを振って喜びを表した。
層体たちが祈祷を与える内に、トリプルビニールの撥水スプレーの蓋はシピシピと生長していた。ある日煙子は遠くへ遊びに行った時、暗闇の中に、暗闇の中の鼻セレブの箱を発見する。それは惑星表面に到達したが力尽きしかし消滅することのなかった暗闇の中の鼻セレブの箱の化石であった。近づくと、抜き出し口から闇がシュッと舞い、トリプルビニールと混じり合おうとした。闇を煙子は受け入れた。斑らに黒くなって帰ってきた煙子に層体たちは、120億年で初めての現象だと心底心配し、5歳の豚の目玉を噛んだ。直ぐに円盤や黄昏を与えるが斑らは解消しなかった。
しかしそれ以降、時間と共に斑らはゆっくり消えていき、再び真っ白なトリプルビニールに戻っていく。なんら問題なく、撥水スプレーの蓋を生長させていったため層体たちは”斑ら”について忘れた事にした。
トリプルビニールが惑星を離れる時が来た。層体たちは誇らしさと寂しさで5歳の豚の目玉を噛んだ。
煙子は惑星が突き出した超刺繍構造物の先端点に向かい空間と組み合う。蚊取り線香プロプレミアムに火を付けるが、男らの汗に撥水スプレーの蓋を千切られてしまう。勇敢にも更に踏み込んで空間とがっぷり組み合うと、空間はトリプルビニールの深奥に闇を見る。空間は一瞬魅入られる。煙子はそれを見逃さず、空間を同時に二十三方向に回転させてこじ開ける。トリプルビニールは空間を後にして宇宙外へ旅立った。
惑星は歓喜に沸き立ち、莫大な数の野菜スティックのうち半数以上を宇宙に射出した。それは喜びの表現でもあり過検閲への反省でもあった。
文字数:1289
内容に関するアピール
”質感を扱う”という言葉の側面を利用して何か書きたい、と以前から考えていました。
「育てる/育てられる」というテーマとSFというフィールドであれば、人間には感受することすらできない遠い何かを質感という形で表すことで、作品世界として描き出せるのではないかと思いました。
というわけで今回思い切ってこのようなものを書きました。
長さとしては、8000字〜1万2000字程度を考えており、文字数の関係で梗概には含めなかった、層体や煙の反応の仕方、煙の成長がわかりやすくなるような特徴を書き込みます。日常世界から離れているので、「喜ぶときはこう反応する」「成長はこの部分が伸びる」など、日常世界から離れていながらも想像しやすいようなバランスが重要になると考えています。
文字数:327