梗 概
星群(ほし)のかたぴら
ロボ・ツィンの生まれた家属は、宇宙船エッジランドに暮らし、特異な生育方法を施した強い毒性を持つ生物兵器カタピラ虫を育て商いをしながら、どの港にも立ち寄らず旅する一族だ。
カタピラ虫の商いは、枯れることがなかった。クローン増殖と生育が追いつかず、成長待ちのリストに並ぶ顧客もいた。(実際はクローン回数による製品の劣化を抑えるためにツィン一族が意図的に行っている、売り渋りの一環だった)
カタピラの幼虫を買った組織は、敵対する地にそれを放ち、住民の多くをほぼ殲滅することができる。そんな物を必要とするのは、争いの絶えない辺境星域の有力者たちか、彼らに雇われた軍事会社だった。
サンルームで、もぞもぞと身をくねらせる手塩にかけて育てたカタピラを、ツィンの者たちは目を細めて数える。ロボはそれが嫌だった。
ロボ・ツィンは心底この宇宙船を出たかった。自分と同年代の若者が、同じように思わないことが不思議でならなかった。しかし、この商売のせいで忌み嫌われ差別されているこの船の者が、どの星からも渡航許可を得られる見込みがないのも事実だ。
実際、カタピラ虫がなかなかに利益をもたらしてくれるので、エッジランドは単独でもそれなりに豊かに暮らしていると言われていたが、他の世界を見たことがなく、それが相対的にどれほどのものなのか、ロボには考えが及ばなかった。
とまれ、あからさまに自分の考えを口に出すことはできない。ロボは、強い宇宙線に当てすぎないようカタピラたちを室にしまう作業をしながら、ずっと前に老人から聞かされた星のことを夢見ている。きれいな碧い星だったらしいが、カタピラ虫によって居住不可能になった最初の惑星でもあったそうだ。
ロボには実現するかどうかもわからないおぼろげな計画があり、そのためイタズラ半分に一群のカタピラに多く宇宙線を浴びせたり、栄養を加減したりしていた。それにより特殊な個体ができることを、密かに確かめていたのだ。
従兄弟のタニダキが、作業中のロボの不審な動きを見咎めた。ロボはタニダキの執拗な問い詰めに、自分の考えの一端を明かしてしまう。
数日後、ロボは表情なく作業に従事するタニダキを見かける。タニダキは、ロボから聞いた話を元に、年長者に何事か売り込みをかけ、逆に反逆との疑いをかけられ、小量の虫毒を投与されてしまったらしい。
もしかするとロボの考えていることを明かしたかもしれない。したに違いない。
ロボは計画を早める。独自に育てた同種に対しても戦闘力の強いカタピラを、他の虫たちの中に放ち、共食いをさせ、居住空間内にも放つ。阿鼻叫喚を尻目に、操縦区画に入り込むロボ。
最強のカタピラ虫を道連れに、戦禍に荒れ果てた惑星へ降り立つ。
文字数:1130
内容に関するアピール
子供の頃、くわがた虫を戦わせて「最強の虫を作るんだ」なんて良くないことをしていたのを思い出して書きました。
文字数:53