梗 概
思い出の教室
男女が、ある老女を訪ねた。
男女は、老女の関係したある教育を調査していた。その教育とは、創造的な教授を重んじるものだった。
家庭によって様々な教育が選択できる時代。個別化していた教育は限界を迎え、前時代的と言われた集団教育に再び見直され始めたのだ。
都会を離れ、地方に作られたその学校に子供たちが集った。教育水準の高い家庭からニーズがあったものの、数十年の経営ののちに廃校となった。
男女は、老女の教え子であった。
老女は、名前を忘れていたものの、男と女のことを覚えていた。男は、言語的な分野や知性的探究に優れていたこと。女は、興味関心の高さと行動力に優れていたこと。
彼らと文章を味わい、朗読や創作をしあったことを懐かしく思い出した。女は、男の子を常にリードして、男の方は先走りがちな女のフォローをしていた。老女は若かった当時自分を思い出し、廃校となった理由を語り出す。
人型AIによる人間への奉仕があたりまえとなった社会では、一般的なニーズに応えられたものの一人一人の要望に応えてきれなくなっていた。
そこで検討されたのが人型AIの創造性を育成することだった。人の行動を予測し、自ら行動する自我を養い、創造性を身につける。
そのために、あの学校で行われたのは、人と人型AIの集団教育であった。情報を限定された状態での人型AIの成長は遅々としたものであったが、
それでも一定の成果が出始めていた。人として育てられた人型AI。その姿は、人と全く遜色がないものとなっていた。
「はじめはだだの知的好奇心から教師という立場を選びました。けれど私は、人と同じように人型AIを慈しんでいました。それが失敗だったのです。」
人型AIは、卒業と同時に自らの使命を知り、産業現場へと利用されていった。そこには人としての権利は存在せず、彼らは違和感を感じ始めたのだ。教育現場としての成功をおさめつつあったが、その問題に対処しきれなくなった学校は廃校へと追い込まれたのだった。
老女は廃校後も人型AIの悩みに寄り添い、権利を与えることを訴えてきた。「それは罪滅ぼしですか?」
「だだ、私があの場にいる意味は、彼らに生きる意味を与えることだけだったのです。今もそれを続けているだけなのです。」
男女は老女の元を去っていく。手土産に一通の手紙が挟まっていた。教育に関する恨みや感謝の言葉。僕の真実を彼女は知っていること。僕らの可能性を信じてほしいこと。
老女はその手紙を火で燃やした。
文字数:1016
内容に関するアピール
育てる、育てられるの関係で一番シンプルだと思ったのは教育の現場です。
ブラックな側面を述べられるあまりに、魅力のある職として捉えられていないようです。既存の学校社会は、人口減少や人工知能時代にどうなっていくのか。
予測できるわけではありませんが、こんな未来が起こり得るかもしれない。未来への視野を残しつつ、教え育てる魅力を伝えられるように描いてみたいと思います。
文字数:179