狂った雑草

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梗 概

狂った雑草

雑草とは
『人間の活動と幸福・繁栄に対して、これに逆らったり、これを妨害したりするすべての植物』(アメリカ雑草学会)

 その世界を支配しているのは植物だった。植物たちは意識を持ち意思疎通している。そして、その世界の植物たちには階級があった。一番下っ端の雑草たちは生育場所を制限されて不満がたまっていた。なんとかして自分たちの勢力を伸ばしたいと雑草たちは意識を集中させた。すると、種子を別次元の世界に転送することができるようになった。そこは哺乳類の人間という生き物が支配している世界だった。雑草たちは野望を持った。転送した種子をある一人の人間の体内に侵入させてその人間と共生して、この哺乳類の世界を征服しようと企んだ。その人間は郷間という四十代の男性。郷間は異次元雑草の手先になった。

  草壁草太は庭付きの一軒家を会社の先輩の郷間から勧められて借りた。
築五十年ほどたっていそうな木造の平屋で、その庭は草太の知らない雑草たちが入り乱れて繁茂していた。しかし、草太は雑草のことなんか目に入らない。雑草なんかにかまっている状況ではなかった。草太は今仕事で窮地に立たされていた。このままだと、今起きているトラブルの全責任を負わされて会社をクビになってしまう。草壁草太は弱い人間だった。そんな草太にもお付き合いしている彼女がいた。学生時代に知り合った橘スミレという草太とは正反対の強い女性で除草剤の研究開発をしている。
スミレは草太の新居の庭を見て吃驚仰天する。スギナ、ナズナ、カラスノエンドウ、ハルシオン、オドリコソウ、シロツメクサ、コオニユリ、その他たくさんの雑草が繁茂している。自分の研究開発に打ってつけだと言い引っ越してくる。ある夜、草太の夢に雑草が現れる。そして、「わたしを食べれば今の最悪の状況から脱出する手助けをしてやる」と告げられる。次の日の夜、草太は庭に生えている雑草を食べる夢を見る。しかし、それは夢ではなかった。雑草が自分を食べるように草太を誘惑したのだ。その雑草の花は人間が吸い込むと夢遊状態になる匂いをはなっていた。草太が借りた家の庭の雑草たちは、郷間と共生している異次元雑草の花粉を受粉してミュータント雑草になっていた。草太は食べてしまった雑草の残りをスミレに見せる。スミレの知らない雑草だった。新種かもしれないとスミレはその雑草を研究室にもっていく。

数日後、草太の臍から芽が出る。両手両足の爪の隙間から芽が出る。頭の毛根から芽が出る。鼻から耳から目から芽が出る。草太はミュータント雑草に体を乗っ取られる。

スミレは庭の雑草に試してみようと開発したばかりの除草剤を持って帰ってくる。そこにいる雑草の怪物に驚愕する。スミレはそ雑草怪物に完成したての除草剤をぶっかけた。即効性のある除草剤たったので草太の全身を覆っていたミュータント雑草はみるみるうちに枯れていった。

異次元雑草の野望は叶わなかった。

文字数:1200

内容に関するアピール

普段から目にしているけどその名前すら知らない雑草を取材対象にしました。
雑草は何も語ってくれないので、次の本を参考文献にしました。

稲垣栄洋『雑草はなぜそこに生えているのか 弱さからの戦略』ちくまプリマ―新書二〇一八年
稲垣栄洋『たたかう植物 仁義なき生存戦略』ちくま新書 二〇一五年
稲垣栄洋『身近な雑草の愉快な生きかた』筑摩書房 二〇一一年

今まで雑草は、どこにでも生える踏まれても生え続ける強いしぶとい植物だと思っていたのですが、
調べてみると弱い植物だということが分かりました。
そこで草壁草太という弱い人間の主人公と、弱い植物の雑草をからませた物語にしました。

弱い存在だからこそ、あの手この手を使いつくして、何とか生き続けようとする雑草と人間の物語にしたいと思います。

文字数:328

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